March.24,2003 日本的世界に深化していったGO!GO!7188

        今から思うと笑ってしまいそうだが、1960年代後半に真面目に論議されていたのが、日本語はロックのリズムに乗らないのではないかという議論。それをあっさり日本語をロックに取り入れたのが、はっぴいえんど。日本語だけではなく日本的世界まで表現してみせた。さらに日本的音楽世界をハードロックに持ち込んだフラワー・トラベリン・バンドが出て来て、ロックってなんでもありなんだと思ったのが私の青春時代。同時にダウンタウン・ブギウギ・バンドが日本語ロックを軽々と演ってみせ、解散後も宇崎竜童は竜童組を作って、どんどん日本的世界のロックを進化させていった。

        去年の暮にGO!GO!7188に夢中になってしまったことは書いた。テレビで新曲『浮舟』を演っているのを観て、ゾクゾクゾクッと来たのだ。過去2枚のアルバムを買い、もうここ数ヶ月はGO!GO!7188ばかり聴いていたと言っても過言ではないだろう。この30年で星の数ほどの日本のロックが量産されてきたが、GO!GO!7188ほど日本的ロックを進化、いや深化させたバンドはいないだろう。

        そのGO!GO!7188が『浮舟』を含んだニューアルバムを出した。



        『鬣』。最初はこのアルバム名を読めなかった。[たてがみ]と読むのだとわかって、しばし呆然。過去2枚のアルバムも『蛇足歩行』 『魚拓』と、日本語世界を意識したネーミングだったが、ジャケットを見ると今度は漢字の世界というより、中国?と思ってしまうのだが、CDの中に入れられた新曲は今まで以上に日本的な世界になっていた。

01 『うましかもの』
        効果音のようなサウンドが左右のスピーカーから交互に出てくるにつれて、それがギター音になるという、印象的な出だし。ドラムスがクローズハイハットでリズムを刻み始めてギターの中島優美がヴォーカルを取り出してしばらくしてベースが加わる。ギターとベースが女性とは思えないほどのしっかりしたスリーピース・サウンドだ。ところどころに日本的なメロディー・ラインが顔を覗かせるが、基本はロックというのが面白い。最後の歌詞が「♪それでは お後がよろしいようで」というのが唐突のようでいて、しっくりくるのが不思議。

02 『浮舟』
        私がテレビで観て、一発でいかれてしまった曲。翌日にシングルを買いにいって何回となく繰り返して聴いたあと、あとから過去のアルバムを買って聴いてみると、この曲はやっぱり今までの路線とは異質な感じがする。とことん和風のロックを突き詰めた完成形のようなものなのかもしれない。私が騒いでいたのでウタムラさんが試聴したら、「竜童組だ」と言ったのももっともだが、もっと演歌とか怨歌とか艶歌が入っているように思う。それでいて、やっぱりこれはあくまでもロック。

03 『大人のくすり』
        このアルバム通して、一番最初にメロディが頭についてしまって、一日中歌詞とメロディが頭の中で鳴ってしまった曲。「♪これが飲めたら病気は必ず治るのに あと一息が素直になれない」と、なぜか、くすりを飲めない人という歌詞がよくわからないのだが、毎食後薬を飲むたびにこの曲のメロディーが頭に浮かぶくらい耳について離れなくなってしまった。

04 『ないものねだり』
        前2作のアルバムよりも歌詞に重みが増してきているのが今回の特徴。欲望からの解放を求めているような宗教的な歌詞。「♪もう何も欲しいとは思わない様に 目も耳も口もふさぎたい」というフレーズは、以前の「♪めみみはなくち ゴクローさん Thank You Working Everyday」(『めみみはなくち』)に較べると、より深いところに行ってしまっている。ある意味で哲学的。「♪神様あんたがそんなにすごいなら 楽な生き方教えてよ 不安も不満も期待も欲望も感じたくはない」だもんね。これぞロックなんだよなあ。それは、音の面でもいえて、後半に展開するインスト部分の興奮は白熱的。唸るベース、かき鳴らされるギター、ぶっ叩かれるドラムス。ああ、なんて気持ちいいんだろう。

05 『ななし』
        初期から、GO!GO!7188はGSサウンドを取り入れていたが、このアルバムでは、もっともGSっぽい曲。私はGS世代だったが、GS自体はあまり好きじゃなくてもっぱらビートルズやローリング・ストーンズを聴いていた。それでも、こうやってGO!GO!7188のサウンドを聴いていると、妙に懐かしさを感じてしまう。「♪君は何より大事な自慢のギブソンを鳴らして パパパ パヤッパー」なんてやられるとイチコロ。

06 『ナイフ』
        「♪昨日背中を切られた夢を見た」というフレーズから始まる、何かヒリヒリとするようなものを感じる曲。ロックだなあと思う。特にエンディングの長くフェイドアウトする部分は、この先を聞きたくなってしまう。それでいて、どこかGS風なところもあるのが、この人たちの特徴。

07『雨のち雨のち雨』
        最初は重くゆったり響くサウンドが続いて、このバンドにしてはメローな気分にさせたかと思うと、突如ハードなロックへ展開する。ターキーのドラムスが緩急をつけていていい。「♪冷たい雨の日で小さくうずくまって 何を待っているの? ボクはここで涙が通り過ぎるのを待ってるんだよ」という歌詞が頭に残る。雨の日の気分が良く出ている。

08『無限大』
        ドラマチツクな曲。「♪目に映る全てが 所詮 誰かの手で作られたものでしかないのなら どこまでも続く夜景なんて あてにならない」 どうですか、この歌詞。このアルバムに共通することだが、GO!GO!7188の歌詞は、今までに無く、どんどん心の内面に入りこんで来ている。盛り上がるだけ盛り上げて唐突に終わってしまうこの曲だが、いつまでも頭の中に残っている。

09『月と甲羅』
        どこか行進曲のようなリズムを持った曲なのだが、歌詞は結構暗い。それがなんとなく沖縄の曲のような展開になるのが面白い。暗いような明るいような、妙に気になる曲だ。

10『ポラロイド』
        明かにローリング・ストーンズの『黒くぬれ!』のイントロそのままから始まる。先日、喫茶店の有線でかかっていてハッとした。この曲あたりが案外一般受けするのだろうか? ターキーのリズム感覚が面白く、突如「ドドンド、ド」と日本的なリズムが入るのには笑ってしまう。

11『サンダーガール』
        藤井一彦が一枚加わったことによって、GO!GO!7188らしからぬサウンドになった曲。このアルバムの中では他とは明かに毛色が変わっている。サンダーガールというのが、バンドのふたりの女性を指しているようで、なんともこのバンドのテーマ曲のような趣きがある。

12『種』
        ラストは唯一、終始スローで進む曲。生きていくことの絶望感が全篇に漂っているまま終わってしまう。「ええーっ、これで終わりなの!?」という気分になって、またCDのトップに戻って最初から聴きたくなってしまう気になる。

        GO!GO!7188をまだ聴いていない人は、騙されたと思って聴いてみて欲しい。少なくとも私の世代の人間は、絶対に面白いと思うはずだと確信しているのだから。


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