January.29,2004 なぜブルースを演るのか

        前回、ゲイリー・ムーア(Gary Moore)について書いたのはいつだったかと思ったら、2001年4月だった(ちなみに今気がついたのだが、なんとこのコーナーも、もう半年以上更新してなかったのだった。唖然)。90年代に入って『スティル・ガット・ザ・ブルース』(Still Got the Blues)という大傑作を出して、ハード・ロックからブルース路線へ変更と喜ばせておきながら、また何やら訳わかんない方向へ行っていたところ、『バック・トゥ・ザ・ブルース』(Back to the Blues)でタイトル通りまたブルースに戻ってきてくれたゲイリー・ムーア。あれから何をやっていたのか、ようやく次のソロ・ブルース・アルバムが出た。その名も『パワー・オブ・ザ・ブルース』(Power of the Blues)



        最近の私はもっぱらCDはパソコンで聴いているのだが、このCDはコピーコントロールCDだとかでパソコンでは再生ができない。本音を言うと、こうやってパソコンのキーボードを打ちながらくらいしか、なかなかCDを聴いている時間が取れないのよ。仕方なくラジカセに入れて、時間を作って気合を入れて聴くことになる。1曲目がタイトル曲の『パワー・オブ・ザ・ブルース』(Power of the Blues)。乗りのいい、まさにパワーを感じる曲だ。

♪Did you ever get the feeling?
 That everything was going wrong
 (こんな気持ちになったことはあるかい?
  全てが悪くなっていくようなこと)
 No way you can beat it
 You’re messing with the power of the blues
 (打ち勝つことはできない
  それはブルースのパワーにやられているからさ)

        きっとゲイリー・ムーアがブルースのパワーにやられているのは、辛い気持ちだけではなくて、ブルースを演奏することによって心が癒されていくためなんだろうと想像してならない。だって、ボクだって辛いときにブルースを聴いていると気持ちが良くなって行くもの。

        しかし、今回のCDの白眉は何と言っても5曲目の『ザッツ・ホワイ・アイ・プレイ・ザ・ブルース』(That’s Why I Play the Blues)だろう。タイトル通り、これはゲイリー・ムーアが自分がなぜブルースを演奏しているのかを明らかにしている曲なのだから。

♪Some peaple say,why do you play the blues?
 (なんでブルースを演っているのかと訊かれる)
から始まって、ゲイリー・ムーアの回答はこうだ。

♪Tell them it’s something,got me through
 (こう答えるんだ。俺を乗り越えさせてくれるからさ)

あるいは、こうなる。
♪Stop me from falling,down to the ground
 (地面に倒れそうになる俺を止めてくれるんだ)

そして、こう歌う。
♪I don’t know,if wrong or right,
 But the blues is with me,day and night
 (正しいのか間違っているのかはわからないけれど
  ブルースはいつも俺といるのさ)

        なぜブルースを演奏しているのかという自己認識の曲といえるのかもしれない。おそらくゲイリー・ムーアにもなぜブルースを演っているのか確たる理由は見当たらないのかもしれない。でも、ブルースを演っているといい気持ちになるということだけは否定できないのだと思う。それが最後にあげた歌詞に表れている気がしてならない。ゲイリー・ムーアって、その顔と同じで、表現の仕方も案外武骨なんだろうと思えてくる(笑)。それでいてテクニックはバツグンなんだから恐れ入ってしまうのだが。

        『バック・トゥ・ザ・ブルース』のときと同じで、ブルースのカヴァーが3曲。中でもレッド・ツェッペリンも演っている『君から離れられない』(I Can’t Quit You Baby)がいい。かなりツェッペリンのバージョンを意識しているように感じるが、ゲイリー・ムーアのスタート地点、シン・リジーだってハード・ロックだっんだから、ツッェペリンを意識してないわけないもんね。


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