November.22,2003 そんなにハリウッドがいいのだろうか?

        今年の東京国際ファンタスティック映画祭には行かれたのは、クロージング上映の『バレットモンク』ただ1本。ホームページを始めたころのこのコーナーを見てみると、東京国際ファンタスティック映画祭、東京国際映画祭で、実にたくさんの映画を観ていたものだ。去年はついに1本も観なかった。こんなことではと思いつつも、いろいろと予定が詰まってしまっていて、どうしようもなかったのだ。それでもチョウ・ユンファの新作が一足早く観られるともなれば、これだけは行かなければ香港映画好きの虫が収まらない。

        ファンタのもうひとつの魅力は、その映画に関わった人がゲストで舞台挨拶をしてくれるということ。今回はチョウ・ユンファが来日すると、以前から情報が流されていたから、ファッチャイの姿を見たいというミーハーな気持ちも含まれていたのは言うまでもない。もちろんデジカメも用意。ところが、舞台との距離が遠すぎてピントがよく合わないのだ。



        挨拶のあとは、客席のお客さんからの質問コーナー。さすがに女性ばかりから声がかかり、それも広東語で問いかける人までいるという濃いファンが多い。「この映画のポスターで、二挺拳銃を構えていますが、こういうシーンはたくさんあるんですか?」の質問に、「(このあと)観てもらえばわかります」と言ったあとで、「もうこれで二挺拳銃はやらないでしょう。拳銃は何キロもあって重いんです。撮影には時間がかかるので、二挺を構えているだけで辛い」 このあと、映画を観たら拳銃を撃つシーンは一箇所だけ。

        「『大丈夫日記』のようなコメディをまた演ってもらえませんでしようか?」との女性の質問に、「それじゃあ、こちらに上がっていらっしゃい。女性ふたりで上がってこなきゃだめですよ」 『大丈夫日記』は、ふたりの女性と二重結婚してしまったチョウ・ユンファのコメディだから、こんな形になったという説明が必要なのだが、ファッチャイのファンなら当然観ているよね、この映画。



        今年の東京国際ファンタスティック映画祭のテーマ曲『江戸ポルカ』を歌っている一青窈(ひととよう)から花束贈呈。撮影会。うーん、ピントが合わない!



        さて、『バレットモンク』だが、これはアメリカのコミックスの映画化。アクションには向かないチョウ・ユンファを無理に起用して撮る映画だとは思えない。もっと他にキレのいいアクションを出来る役者がいるだろうに。リー・リンチェイ(ジェット・リー)の方が良かったんじゃないか? チョウ・ユンファではやはり身体が重すぎる。

        以前にも書いたが、ハリウッドでのアクションは、やはりリー・リンチェイに任せた方がいいのではないか。ユンファの魅力はやはりその広東語での演技力にあると思う。 ファッチャイ! 香港に戻っておいでよ。私はやはりあくまで香港映画のチョウ・ユンファが観たいのだ。そりゃあ、香港よりもハリウッドの方がギャラはいいだろうけど、香港のときの方がチョウ・ユンファは生き生きとしていたように思えてならないのだ。


November.1,2003 『インファナル・アフェア』ふたつのエンディング

        『インファナル・アフェア』(Infernal Affairs 無間道)には、ふたつのエンディング・バージョンがあると知らされて興味を持った。香港公開版はエンディングが短く、中国公開版はエンディングが長いとのことである。輸入DVDで今年の初めに観て、このコーナーの3月にはすでにこの映画のことは書いているのだが、劇場で日本語字幕で確かめたくなり、出かけてきた。

        やはり日本語字幕は助かる。理解できていなかった部分が結構あって、「ああ、そういうことだったのか」と思えるシーンがあった。自分の語学力の至らなさに愕然としたが、それでも大きな解釈は間違っていなかったはずだ。もっともこの映画、人間の心の問題を描いているものだから、観る人によっていろいろな解釈が出来るようになっているのだが・・・。組織の構成員であまり頭の良くない男の役を演るチャップマン・トウの演技にも注目したし、ラスト近くになって画面がブルー一色に染まる画像は、北野ブルーの北野たけしをも圧倒する色合いだ。

        さて、問題のエンディングに触れます。まだ映画をご覧になっていない方はご注意を。

        日本公開版は中国公開版と同じロング・バージョンだと聞かされていたから、輸入DVDで観たのよりも長いはずだと思っていたら、驚いたことに、香港からの輸入DVDと同じだった。「変だなあ」と思いながら帰宅してDVDをセット。一番最後のチャプタを選択してラスト・シーンだけを観てみようとした。やられた! DVDには二種類のエンディングが収録されていたことに気がつかなかったのだ。

        ロング・パージョンのラストは、いささか説明的である。組織の構成員ということになってはいるが実は潜入捜査官のヤン(トニー・レオン)と、刑事となっているが実は組織から警察に送り込まれた潜入者ミン(アンディ・ラウ)がビルの屋上で会う。ヤンはミンに手錠をはめ、拳銃を突きつける。そこへ登場するのが刑事B(ラム・カートン)。この男は、ウォン警視(アンソニー・ウォン)とヤンが、この同じビルで会ったときにも、ミンの命令でウォン警視を尾行していた男だ。ミンを盾にしているヤンに対してこちらも拳銃を構える。警察に行って事実関係を明らかにしたいヤンは、そのまま屋上を降りてエレベーターのところまで来る。ヤンとミンがエレベーターに入る一瞬、ミンの頭の後ろにいたヤンの頭が動く。その瞬間、Bの撃った銃弾がヤンの頭を撃ち抜く。実はBも組織から警察内部に潜入した男であることが、ここで明らかになる。ミン、B、そしてヤンの死体を乗せたエレベーターが下降していく。エレベーター内部は映さずに銃声が響く。

        ここまでが、ふたつのバージョンで共通しているところ。ロング・バージョンはここからが長い。エレベーターが一階に着く。ロビーにはたくさんの警察官が拳銃を構えて待っている。中からミンが手を上げて出てくる。IDカードを見せ、「私は刑事だ」と述べてカードを胸に着ける。エレベーターを振り返る。死んでいるBの姿、そして死んでいるヤンの姿。六ヵ月後、ウォン警視の墓の隣にヤンの墓が殉職警官として立てられる。墓をジッと見つめて涙を流すメイ(エルヴァ・シャオ。ヤンの昔の恋人で今は別の人と結婚している。女の子をひとり出産しているが、どうやらこの子共はヤンの子共らしい)。やはり涙を浮かべ「こんにちは、ミスター・ポリスマン」とつぶやくドクター・リー(ケリー・チャン。ヤンの精神科の担当医。ヤンと恋愛関係に発展していた)。墓に近づき敬礼をするミン。回想シーンが入る。潜入捜査に入るために警察を追放されるヤンと、それを見送るミンの若き姿。テロップ。「長寿こそが無間地獄なのだ」とかなんとか。クレジット・タイトル。

        続いてショート・バージョンの方を観るとあまりにあっけないので唖然としてしまう。エレベーターが一階に着く。出てくるミン。そこへ「あなたを逮捕する」と刑事が近づいてくる。IDカードを取り上げられ、手錠がはめられる。エレベーターの中で死んでいるヤンのアップ。Bが死んでいる姿は映されないまま。ミンが連行されるところでクレジット・タイトル。

        ショート・バージョンではミンは捕まることによって無間地獄からは開放されることになるという説明を聞いた。これはこれですっきりしていていいと思う。それに比べてロング・バージョンは余計なだけという気も最初はしていたのだが、よく考えてみるとこのロング・バージョンも曲者なのだ。六ヵ月後に、本当は潜入者だったミンがそのまま警官の服を着て敬礼しているとなると、この時点で潜入者だということはバレてないということも考えられる。組織のボス(エリック・ツァン)を自分の手で殺して、もう組織との関係は切れたとは思うのだが、ひょっとすると自分が組織の側の人間だったという事実を隠し続けてこのまま生きていくことになる。それこそ無間地獄ということにもなるのだが・・・。



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