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客席放浪記

男たらし(ブス会*)

2014年2月4日
ザ・スズナリ

 ブス会*、過去の公演は、出演者が女性ばかりだった。今までの芝居のパターンだと、女性同士の集まりで、和気あいあいとしているのが、その場から誰かひとり中座しようものなら、その中座した相手への悪口が始まるってエピソードが多くて、男性目線で観ると、男性にはまったく非難が及んでこない。男としては、女性同士の嫉妬やら見栄やらを、遠く離れたところから覗き見して楽しんでいたようなところがあった。

 それが今回はいきなり、女優ひとり。それに男優が五人ときた。女優は内田慈(ちか)。ポツドールの芝居で何回か観ている人。

 自宅を事務所兼用にしている小さな会社。そこに淑美(内田慈)が、紅一点の女子社員として入社してくる。
 ほかの社員は、元ホストのタクヤ(松澤匠)とヨシダ(佐野陽一)。淑美に一目惚れしたヨシダは、その日のうちに、酒の席とはいえプロポーズ。女に縁がないせいか、あまりに不器用だし魅力も感じないのだろう、淑美は相手にしない。ところがここの社長カネシロ(古屋隆太)は、女の扱いに慣れきっている。その日のうちにモノにしてしまい、淑美は社員とだというのに、この家に住み着いてしまう。
 家には受験を控えた高校生の息子ユヅル(大窪人衛)がいる。カネシロは、バツ2の上に大の女好き。ユヅルはそんな父親や、突然母親になって居ついてしまった淑美のことを快く思っていない。
 さらに、この会社に出入りしているサワキ(金子清文)は、淑美の元不倫相手だ。女一人の中で男五人という世界が繰り広げられることになる。
 そのうちにわかってくるのは、この会社、社長のワンマン経営なのだが、内情は火の車だということ。借金だらけという状態から、淑美の戦略で業績を伸ばし始めていく。

 淑美という女は、最初に社長とくっついたときに、ある程度の打算もあったに違いない。まさか会社の経営が上手くいってないとは思わず、社長と一緒になれば地位も金も手に入ると思っただろう。ただ、それは男をたらしこんだようにも見えるが、実はやはり、この男に魅かれたんだと思う。そして絶世の美女というわけではないにしても、観ている私ら男性客にも、内田慈の淑美は、どことなく思わせぶりな仕草に魅力ある女性だ。これが人よっては、男たらしと思えるだろう。しかし多くの男からすると、可愛い女ということになる。ヨシダに言わせると「もしかして自分に気があるんじゃないかと思わせる」女なのだ。

 ところが、そのうちにカネシロという男はDVだということがわかってくる。さらに、この芝居に出てくる男たちは、そろいもそろって問題ありの男たち。ヨシダは、もう女なら誰でもいいと思っている、テンパっちゃってる男。タクヤは、典型的なチャラ男。サワキはインテリ気取りだけど女に甘えて生きている。そして、ユヅルは・・・マザコン。もう今までのブス会*のように、安全な位置で心安らかにニヤニヤしながら観ているわけにはいかない。ブス会*の刃は、男性であるこっちに向かっても付き付けられる。

 いい役者を揃えたなと思うが、中でも凄いのがユヅル役の大窪人衛。この人、去年、今田耕司、立川談春との三人芝居『The Name』に出ていた人だ。成人している人だが声のトーンが高くて高校生らしく見える。イキウメ所属の役者さんだが、これからもどんどん出てきそうだ。

 結局、ダメな社長に見切りをつけて、捨て去り、独立してしまう淑美。そして衝撃的なラストが待っている。

 作・演出のペヤンヌマキは女性AV監督もしているが、今回の題材など、やり方によってはストーリー性のあるAVになりそうだが、そんなものにせずに、ここまで人間を掘り下げたものにしたのは偉い。次のブス会*も必ず観に行く。

2月5日記

静かなお喋り 2月4日

静かなお喋り

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