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客席放浪記

神田阿久鯉・松之丞『天明白波伝』連続読み・楽日

2018年5月9日
深川江戸資料館小劇場

『第八話 八百蔵吉五郎』 神田松之丞
 『天明白波伝』で私が唯一聴いたことのある噺。2年前に[横浜にぎわい座]で松之丞で聴いた。まだ『天明白波伝』とは何か知らないままに聴いた一席で、泥棒ものというより恋愛ものという感じで、女性が喜びそうだなと思ったのを憶えている。
 あとに上がった阿久鯉に言わせると、師匠に習ったものを松之丞はだいぶ脚色していて、基のものは20%。80%は松之丞が作り変えているそうだ。そう言われてみると、若い人らしいみずみずしい感性が感じられる一席。
 水茶屋の娘と、どこかの若旦那の恋。芝居見物デートの場面には聴き入ってしまった。ところがこの若旦那、実は泥棒の八百蔵吉五郎。ラスト、追手がかかり、ふたりで逃げていくところは歌舞伎の一幕物の幕が閉まる感じ。50分の熱演だった。

『第九話 岐阜の間違い』 神田松之丞
 大垣まで来た神道徳次郎と稲葉小蔵新助。五両の借金のカタに娘をよこせと迫る二足の草鞋のヤクザから茶屋の主人を助け、さらには夜になるとこのヤクザ宅に忍び込み金を盗む。ところが気付かれ逃げ出す途中、新助が脚に傷を負ってしまう。隠れて傷を癒している間に、今度は茶屋の主人が疑われ牢屋行き。この主人を助けるために牢屋に火を放つ。
 牢屋に火を放つために、何の罪もない居酒屋を燃やしてしまうなど、なんだか荒っぽさが目立ってきた。私はもっと義賊らしい噺を想像していたのだけど。

『第十話 大詰め勢揃い』 神田阿久鯉
 江戸から逃げてきたのは神道徳次郎と稲葉小僧新助だけでなく、第八話の八百蔵吉五郎も加わっているばかりか、ほかにも初登場の四人がいる・・・って、突然乱暴な展開。どうやらこの四人のここに至る前のエピソードというものも実はあって、それが省略されてしまっているらしい。阿久鯉に言わせると大団円というよりはスピンオフだと思ってくれとのこと。
 大阪から長崎に渡った徳次郎ら七人。遊郭にいるところを人相書きから身元がばれてしまい、取り手に囲まれてしまう。絶体絶命の中、初登場の仲間のおかげで逃げ出す。そのスペクタクルはさすが。しかし以前から出ていた三人がほとんど活躍しないのと、初登場の四人に馴染みが無く、この四人がどんなに活躍してもピンと来ない。スピンオフと考えてくれというのはそういう意味だろう。

 『天明白波伝』十席はあまりに短く物足りない。誰か途中を埋める作業をしてくれないか。

5月10日記

静かなお喋り 5月9日

静かなお喋り

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