ANNIVERSARY

11月11日

Zoro's  Birthday

monday



 
 

ウソップは寝不足気味の体をもて余していた。
全く、夕べはどうなることかと思った・・・。
サンジにケリ入れられるかと思ったよ。
危なかった。
結局、ずっと、あのままだったし。

何か変だよな。
何か。

気をとり直し、いつものように趣味となっている廃品回収を始める。
素早くゴミ箱を調べる。
この特技は大事だ。
一見、見かけは悪いが、拾ったら全部使えるのだから、かなり儲けもんである。
ゴーイングメリー号でもこの作業は続けられていた。

・・・?
ゴミ箱の中に捨てられているまだ新しい本を見つけ、拾い出す。
「世界の料理」と書かれたまだ新品同様の本だ。
タイトルからしてサンジのものだろう。
誰が捨てたんだ?
衝撃が走る。
サンジがどれだけ料理の道具や本を大切にしているかは皆が知っていることだ。

どうして?
ぺらぺらと中味をめくり、不良品ではないことを確かめる。
何枚かめくっていたウソップの手が止まった。
昨日の料理だ!!
ああ、「スシ」って書いてある。
何度も見たような後がはっきりとついている所。
「テンプラ」も。
え−−−と。
地方は・・・。
これ・・・。
ゾロの育った・・とこ・・・か。

え・・・どういうことだ。
ゾロの料理を・・・サンジが・・・。
何で・・・。
ガボーーーン!!!
昨日・・・って、ゾロの誕生日だ!!!!
サンジは・・・あいつの為に、あの料理を作ったのか!!
それをオレたちは・・・全部食って・・・。
いや、その前に、ゾロが食いに来なかったんだ・・・。
食いにも・・。
 
 
 

何で・・・?
何で、サンジはそこまでするんだよ。
どうして。
それって切ないよ。
 
 
 
 

昼メシ時になると自然と皆集まる。
今日は食事を共にしているゾロ。
いつもと同じ。
ゾロもどういうつもりなんだか。
「なあ、サンジ。昨日の晩飯、また作ってくれ!!!」
ルフィがニコニコしながら言う。
「アア。でも本無くしちまったよ」
「何−−−−−−!!」
ルフィが大声で言っている。
ウソップは黙々とメシを食った。
サンジは嘘をついてる。
捨てたのはお前?
 
 
 
 
 
 

昼さがりの時間。
静かな時間。

ウソップはサンジを探した。
サンジはみかん畑の隅で膝を抱えて丸くなっていた。
落ち込んでいる時はいつもそう。
年上のくせに、すぐに拗ねて、子供みたいになる。
それを絶対に放っておけない自分。

「なあ、この本お前のだろ?」
サンジはちらりと本を見る。
「捨てた・・・」
元気のない答え。
ウソップは隣に腰をおろす。
この年上のコックは、見かけこそ大人っぽいが、中味はおそろしく子供だ。
「昨日のメシ、ゾロにつくったんだろ」
「うるせえ」
そう言うと膝の間に顔を埋めて動かなくなった。

ウソップはサンジがよくゾロを見ている事を知っていた。
普段はケンカばかりしてるクセに、いつも見てる。
そして、そういうサンジを見ている自分。

どうしてゾロなんだよ。
どうしてなんだ。
幾度となく繰り返してきた問い。
認めたくなかった、想い。

止めろ、サンジ。
お前が想えば想うほど、オレは苦しくなるんだから。
オレに助けなんて求めないでくれ。

「オレの料理なんて、いらねえんだ。バカみてえだ、オレ」
くぐもった声が耳に届く。
どうして?
どうして、ゾロなんだよ!!

「なあ、ゾロなんか止めて、オレにしとけよ」
「ヤだ」
グッ。
そこで、即答するか普通。
ははは、コレってこたえるよなあ。
まあ、オレなんかに振り向いてもらえるとは思ってねえけど。
ははは。
痛いよ・・・コレは。
「こっちからお断りだけどな、ははは」
嘘は得意。
だから、どってことない。
平気な振りをする。
でもコレって失恋てやつじゃないのか。
 
 
 
 
 
 

ウソップは落ち込んでるサンジの側から逃げ出すように走り出した。
なんでだか、涙がこぼれた。
平気だ。
オレは。
嘘は得意だから。

「勝負だ!!!ゾロ!!!」
寝こけているゾロに声をかける。
一度でいいから、正々堂々と勝負してみたかった。
オレだって男だ!!

寝ぼけ気味のゾロの正面に立ち、パチンコを構える。

ゾロは意味が分からず、呆れたような顔をしている。
だが、ウソップは真剣だ。
震える手でサンジが捨てた本を投げ付ける。

「あア、なんだこりゃ」
ゾロが軽く本に刀を当てると本は壁にあたって大きな音をたてた。

「うわあああああ」
泣きながらつっこんで行くウソップが
何故か分からないが「本気」であることにゾロも気づく。

ゾロは軽く身をかわし、構える。
ちっ。
なんだってんだ、コイツ。
倒れても、また立ち上がる、ウソップ。
何度、かわしても、また突っ込んでくる。

コイツ、ドウシタンダ?

明らかに自分に向けられる敵意。
何度、打ち身をあてても立ち上がる。
渾身の力を振り絞り。
力の差は歴然としている。
ウソップには分かっているだろう。
「オレ・・・が勝ったら、サンジはお前になんか・・・やらない」
血を流して立ち上がるウソップ。
何だって?
どういう事だよ?
「お前になんか!!」

「てめえ・・・」
ゾロは、初めて気づいた。
こいつは、サンジが好きなんだ。
それも、本気で。
自分の弱さを知ってるウソップが、小細工なしにオレに勝負を挑んできたんだ。
ブライドも捨てて。
心意気のみで。
オレの出方を待っている。
あのクソコックのせいか。
自分勝手で生意気で・・・。
なのに気になっていたのは、コイツも同じ?

アイツが他の奴を見るかもしれねえなんて、考えたこともなかった。
だがそれは許せねえ。
とにかく駄目だ。

「悪りいな、アイツはやらねえよ」
ゾロの言葉を聞きながらも、ウソップはふらふらと立ち上がる。
確かめるまでは、止められない。
ゾロの気持ちがニセモノなら、サンジがいくら想おうとも無駄だから。
でも、ゾロの気持ちがホンモノなら、オレはたたきのめされて、終わる。

「てめえに、あの料理食う資格なんてない!!」
泣きながら、叫ぶウソップにゾロは剣を構えた。
本気の殺意に、ウソップの体は凍り付く。
動けない。
本物の殺し屋。
獲物を秒殺する視線。
この目を見せたってことは、ゾロは「本気」ってことだ。

ウソップは自分から地面に倒れた。
涙が流れる。
恐かった。恐かった。
死ぬとこだった。

何事が起きたかとルフィやナミが慌てて出てくる。
「どうしたのよ!!」
 
 
 

ウソップは顔を見られないようにして言う。
「何でもない。ケンカしてるマネの練習だよ」

「え−−−。見事に騙されたわよ!!!」
ルフィとナミはほっとしたように場を去って行く。
 
 
 

後に残されたのはゾロとウソップ。
「オレの嘘はどうだ・・・」
まだ倒れたままのウソップは床からくぐもった声を出す。
料理の本を拾ったゾロはあるページで手を止めた。
何度も見たらしいページ。
そこにはゾロが小さい頃、御馳走だった料理が出ていた。

「てめーが、サンジを大事にしねーんなら、また嘘つくぞ」
ゾロは倒れたままのウソップをじっと見た。

「もう、てめえには嘘つかせねえよ。約束する」
ゾロの言葉にウソップは溢れる涙が止まらない。
オレっていい奴だ。
こいつがこう言う以上、絶対だから。
でも万が一の望みも断たれたってことで。
でも、サンジの喜ぶ顔が見たいから。
アイツ、オレには子供みたいに笑うから。
でも、その笑顔はオレのもんじゃないんだ。
ははは、もう笑うしかないよな。
「あは・・・あはははは」
ウソップは泣き笑いを続けた。
 
 
 
 


tuesday



ANNIVERSARY(ゾロの誕生日)
月曜日「優しいウソップ」編です。

ウソサン?
失恋するウソップ。
でも良い奴ですよ、彼は。
切ない嘘がつけるよね、ウソップって。

★クソショウセツ★
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