その夜、ゾロは眠れなかった。
サンジのものであろう料理の本をじっと見た。
本の埃をはらい、黙ってページをめくる。
つまらない、料理。
そう思っていたけれど、想いがこもっていることもある。
そう言えば、誕生日には「寿司」食ったこともあったな。
遠い遠い、幻のような記憶。
オレが非力なガキで、夢に全然追いつかない役立たずだったころ。
誕生日なんて、どうでもいいのに。
バカだな。
サンジは黙って料理の研究をし、黙って料理を作り、黙ってオレが食わなかったことを許した。
晩飯はいつものように振る舞っていたウソップ。
サンジもそうだ。
特に変わったところはなかった。
オレはどうすりゃいいんだ。
だって、もう、食い物はねえんだから。
知ってたら、食ったか。
照れくさくて食えなかったかもしれねえ。
はは、バカだなオレも。
本気だった、ウソップ。
「嘘だ」って言ったのが本気の証だ。
サンジが他の奴のモノになると思ったら、すげえムカついて、殺すしかねえかって思った。
あのウソップをオレは殺そうとした。
オレは本気だった。
アイツも本気だった。
だから、絶対にゆずれねえ。
船に一つしかない時計を見る。
もう、次の日になっている。
まだ寝室に帰ってこないサンジ。
ルフィとウソップの寝息が聞こえる。
ゾロは静かに部屋を出た。
サンジの本を手にして。
月明りの元でサンジは煙草をふかしていた。
「なあ、てめえの本だろ、コレ」
ゾロは背後から声をかけた。
「もう、いらねえ。そんな本・・・」
サンジは振り返らない。
ずっと水面を見つめたままだ。
「悪かった」
ゾロが詫びの言葉を口にしてもサンジは振り返ろうともしない。
「別に。オレが勝手に作ったんだし・・・。
オレ、よく食いたくねえもん作っちまってるみてえだけど」
ゾロは返す言葉もない。
メシがまずいからじゃねえ。
お前を大事に思ってねえからじゃねえ。
「悪かった」
言葉足らずの気持ちを表現出来ずに繰り返し、あやまる。
オレは誕生日なんてどうでもいい。
オレはメシなんてどうでもいい。
それよりも、てめえの方が大事なんだ。
この気持ちをどう言えばいい?
「オレのメシなんてどうでもいいくせに」
「どうでもよくねえ」
ゾロは即答した。
いや、本当はメシはどうでもいいんだ。
けど、サンジはどうでもよくねえんだ。
「旨いって言わねえし・・・」
「うるせえ!!オレは旨いなんて言わねえ!! メシよりてめえが好きなんだ!!」
驚きにサンジが振り返る。
お互いの視線がぶつかり、一瞬の沈黙。
「聞こえたか!!このバカ!!」
サンジの表情が変わる。
そして悪戯っぽい笑みが。
「あア、聞こえねえなあ」
サンジの言葉にゾロは苦笑した。
静かに近づき、耳元で囁く。
「てめえが好きって言ったんだよ」
サンジは微笑みながら言う。
「聞こえねえよ、そんなじゃ」
「メシよかお前の方がイイ」
やがて至福の時が訪れる。
どんな料理よりも、
どんなプレゼントよりも、
大切なものがここにあるから。
寄り添う二つの体。
「一番食いてえものを食わせてくれ」
ゾロは思う。
一番食いてえものが一番の御馳走じゃねえか。
「了解、世界一偏食な剣豪殿」
サンジはあきらめたように言った。
作る必要のない食い物。
まあ、いい。
コイツに食わせてやろうじゃねえの。
ちょっと思ってたこととは違うけど。
減るもんじゃねえし。
でも料理されるのは、オレかな、やっぱ。
まあ、いいか。
二日遅れの誕生祝いって事で。
happy
happy
happy birthday Zoro
★
そして
★ANNIVERSARY3月2日★
へと続きます。