■paralel■
ZORO■
H         S
Y         A
P         N
E         J
R         I
■LOVE■









■1■
標的

その日は朝から激しい雨が降り続いていた。
窓ガラスに当たった雨粒は音もなく滑り落ちる。
完全に整備された空調は音もたてずに、外界とはちがう世界を作り出していた。
高層ビルの上層から見下ろす景色は圧巻だ。
見えるのは同じようなビルの数々と、蟻のように動き回る車や人の流れ。
サンジはもうすっかり見なれた一室に目を向ける。
普段は使われないその部屋に今日はブラインドが引かれている。
中の様子は伺い知ることは出来ない。
だが、彼等が得た情報を組み合わせると導き出される答えは一つ。
あの男はあの地に居る。
今、あの部屋の中に。
見えないはずの部屋の中。
聞こえない音。
何も見えるはずはない。
だがあの男がそこにいると知った時の感じ。
体が震えるような感覚。
探して、探して、見つけた。
 
 

憎しみは最初は生きる為に必要なものだった。
復讐。
まざまざと蘇る光景。
仲間たちの死。
誰よりも大切だった、ゼフの死。
オレはあの男を殺す。
虫けらのようにオレたちを殺した奴等。
てめえらが殺さなかった「子供」がゼフの仇を討とうとしいるなんて、お笑いだろう。
だが、思い知れ。
オレはそのためだけに生きてきた。
バラバラだった復讐のパズルは組み合わされ、もうすぐ美しい絵が現れる。
その時、オレはお前を殺す。

サンジは煙草に火をつけるとゆっくりと煙を吐き出した。
待っていろ。
密輸王ミホーク。
思い知るがいい。
あの時、オレを殺さなかったミスを。
 
 
 

ゾロは窓に顔をつけ、暗い瞳で眼下を見下ろし続けるサンジの側に近寄った。
青い瞳は無表情に標的の部屋を見据えている。
ゆっくりと、サンジの首筋に手を這わす。

サンジの冷たく輝く瞳がまっすぐにゾロをとらえる。
いつもは感情の浮かばない瞳がかすかに動く。
「せっかく服、羽織ったのにまたヤるのかよ」

ゾロはサンジの頬をゆるやかに撫でた。
「嫌か?」

二人に残された時間は少ない。
ゾロもサンジも知っていた。
今度の殺しは生きて帰れる確率の方が少ないということを。
お互いが全てを賭けた闘い。
ゾロはサンジの口からミホークを狙う理由を聞いてはいない。
サンジもまたゾロの口からミホークを狙う理由を聞いてはいない。
聞いたから何になる。
もう歯車は回りはじめた。
同じ標的を倒すことに全てを賭けて、二人はこれまで行動を共にしてきた。

運命の時は近い。
それは敵の死か、己の死か。
生など儚いものだ。
他人の生を一瞬にして奪っていれば、自分の生にも価値を感じられなくなる。

これは逃避ではない。
ゾロは目の前の体を抱きしめる。
羽織っただけの青いシャツがサンジの体からすべり落ちた。

抱きすくめられ、愛撫されたサンジの手から、煙草が滑りおちる。
時が止まったかのような静かな瞬間。
お互いを体で確かめる。
それが快楽であっても。
苦痛であっても。
それは今、確かに存在しているから。
二人の裸体が絡まり、一つに繋がる。
何もかも忘れ、獣にかえるゾロとサンジ。
喘ぎ声だけが、二人の存在を響かせる。

確かめる。
生きていることを。
いつ失われるかわからない生を。

閉ざされた部屋。
運命の時は近づいていた。
 
 
 
 
 

■2■
狙撃

■地下食料庫■
■厨房裏■