■paralel■
ZORO■
H         S
Y         A
P         N
E         J
R         I
■LOVE■
















■10■

街に冷たい雨が降り注ぐ。
ゾロはナミから新しい指令をうけていた。
「次のヒットはアーロンよ」
かすかにナミの語気が強まる。
いつもの冷静そのもののナミとは少し違う。
私情が入ってるな。
ゾロは冷めた気持ちで考えた。
この女も胸の中に何かを持っているのだ。

新しい情報を受け取る。
だんだんとミホーク一味の幹部にまで伸ばされる、対象。
正面衝突だ。望むところだ。
「ところで、例のヒットだけど、弾が2発出たらしいわ。微妙な差異で」
無言のゾロにナミは言葉を続ける。
「裏切りがあったんじゃないかって」
ナミは溜息をついた。
「あのねえ。あんたら目立つのよ。彼、今ルフィが接触してると思うわ」
「何だと!?」
「彼を使うかどうか。ルフィはあれでもシャンクスの後継者だから、目は確かよ」
ゾロはつかみどころのないルフィを思い浮かべた。
誰が裏組織の後継者などと思うだろう。
明るく屈託の無い少年。
それと反面に時々見せる冷酷な瞳。
自分の連絡先を知っているのだから、居場所が割れていてもやむをえない。
「心配?」
ナミは笑顔を浮かべた。
ゾロには分からなかった。
説明できない感情が心を乱す。
ゾロはディスクを掴み、冷たい雨の降りしきる街へ彷徨い出た。
 

サンジは人の気配を感じたが振り返らなかった。
どうせまたゾロだ。
あいつはそんなに喋らないから、返事をしてやることもねえ。
寝転がって銃の説明書を丹念に読む。
冷たい手がうなじに触れる。
「・・・冷めてえって・・・」
ようやっと顔を上げ、自分に覆い被さるように立っている少年の黒い瞳に戦慄を感じた。
・・・な・・・に。
コイツは・・・ルフィ。
知っているだけのデータが一瞬に浮かび上がる。

「隙だらけだな、サンジ」
身を竦ませて固まるサンジの頬を撫でながらルフィは優しく囁いた。
「お前は今日から俺達のモノになるんだ。ルフィの一味に。ししししし」
否定すれば死しかない。
それは明白だ。
「なあ、オレ、ゼフのおっさんは好きだったぞ」
サンジの目が大きく見開かれた。
見すかされている。全てを。
返事も出来ずにいるサンジの側からルフィは離れた。
「またな。次はゆっくりな」
ルフィが出ていってもサンジは動くことが出来なかった。
どうあがいてもかなわない。
数段上の相手。
選択肢はない。
ルフィはサンジの目的を知っている。
一寸先は闇。
闇に進むしか無い。
分かってる。
これしか無いんだ。
そこに何があっても。
 
 
 

ゾロは真っ暗な部屋の電気をつけた。
誰も・・・いないのか。
ルフィがここに来たはずだ。
サンジはどうなった。
部屋は冷たい空気を漂わせていた。
電気をつけ、せまい部屋を見回す。
壁の隅にサンジが丸くなってうずくまっていた。
膝を抱え込んで、かすかに震えている。

・・生きていた。
安堵感。
一方では訳のわからぬ焦燥感。
ルフィとの間に交わされた会話は何か。
何を怖がっているのか。

ルフィは一目で人を見抜く。
生かしておくに価しないと判断されたらここにはいない。
ミホークを憎むサンジは恰好の手駒になるはずだ。
サンジもミホークを倒すためにはルフィ側につくしかないことを知っているはずだ。
一人でここまで戦ってきたサンジ。
最後まで戦うためには、これからが修羅の道だ。

「サンジ・・・」
ゾロは微かに震えるサンジの冷えきった体に手を這わす。
ルフィは昼会っているはずだ。
コイツはずっとこうしていたのだろう。
顔を上げさせ、青ざめた頬を見つめる。
なんて言えばいい?
言葉なんか信用できない。
体を重ねても伝わらない。
この想いはなんだ。
世界を嘘で塗り固めてもよいと思えるほどの。
同情や哀れみじゃなくて。
俺にコイツをくれ。
壊れそうな心。
壊れそうな体。
消せない過去の罪。
消せない過去の傷。
死ぬまで忘れることはない。
死んでも忘れることはない。

オレは誰かを求めることなんてできない。
誰かに愛してもらうことなんてできない。
誰かを愛することなんてできない。
でもこの感情はなんだ。
抱きしめたい。
優しくしたい。
笑ってほしい。
我がままを言ってほしい。
サンジのままでいてほしい。
コイツの為に何かするのは嫌じゃねえ。
どうにかしたい。
でも、どうやって?
 
 
 

■11■

■地下食料庫■
■厨房裏■