Rain |
act 9 fight |
ストリートファイト、
それはそれぞれのグループの威信を賭けた戦いだ。
グループの代表が一人ずつ出て、
どちらかが倒れるまで戦う。
勝ったものは英雄だ。
しかし負けたもの、
とりわけ不様な負けをしたものは、
グループから抹殺される。
それはたいていの場合、
死をもってあてられた。
生きるためには戦うしかない。
戦うことが生きることだ。
強ければ、
部下がつき、
弱いものを好きにできた。
イーストブルーからは、
鬼人と恐れられる「ギン」
ウエストブルーからは、
魔獣と恐れられる「ゾロ」
次のバトルは皆の注目を集めていた。
見守る各グループの幹部たち。
「鬼人か。
妙な武器をもってやがるな」
「トンファーか。
あれが当たれば即死だろうよ」
「ロロノア・ゾロの刀を見たか。
ありゃ妖刀だな」
「見物だな、この勝負」
ゾロはちらりとイーストブルーの方を見た。
サンジはボスのシャンクスの後方の目立たないところに立っていた。
見てろ、
サンジ。
オレの戦いを。
ゾロにとってはストリートファイトは望みの戦いだった。
命をかけた真剣勝負。
くだらねえ殴り合いや駆け引きの枠におさまりきらない戦い。
望むところだ。
溢れる怒気や殺気は全てここで発することができる。
生まれついての戦いへの意志。
気づいた時には戦っていた。
だから死するときも戦いの場だ。
この戦いを見ることのできるものはそのグループで認められたものだけ。
戦いに参加することは名誉。
緊張と矜持と生と死のすべてがここにある。
その時々で戦いの条件は変わる。
今回は広さ20メートルほどの広間が戦いの空間だ。
場所など関係ねえ。
ゾロは愛用の刀を鞘から抜いた。
数かぎりなく人を斬ってきた妖刀。
戦う時は無心になり、
確かに刀と共鳴しているのを感じる。
目の前にギンの姿が見える。
凶悪な雰囲気をただよわせた鬼人。
戦いに私情は無用。
心を乱したものが破れさる。
憎しみとすさんだオーラがギンの体からたちのぼる。
ギンはトンファーを握りしめた。
サンジさんを狂わせたのはこの男。
抹殺するしかない。
全てを元通りにするためには、
この男を殺す。
憎い憎いゾロを殺す。
サンジさんの愛を一身に受ける男がいることへの懊悩。
サンジさんの体を好きにしているゾロ。
サンジさんが体を開く男。
許せねえ。
サンジさんは綺麗なままでいねえと。
時々見せる無意識の淫らな表情やしぐさ。
オレが守っているのに。
これからも守る。
このトンファーで。
「ファイト!!!」
合図とともにゾロとギンが対峙する。
どちらも接近戦を得意とするタイプ。
技は一撃必殺。
じりじりと間合いをはかる二人。
「うおおおおお」
怒号とともにギンがトンファーを振り下ろす。
ゾロはぎりぎりで身をかわし、
体勢を整える。
噂通りの破壊力だ。
だが当たらなければいい。
「三千世界!!!!」
鋭い剣が空間を切り裂く。
ギンはぎりぎりのところで剣を交わした。
やるじゃねえか。
互いに戦士としての笑みを浮かべた。
幾度か間合いをつめ、
攻撃を仕掛けるが、
なかなかダメージになるような一撃にならない。
ギンの視界の片隅に固まったようになっているサンジが入った。
「・・・?」
ゾロはギンの視界の先の人物をとらえた。
一瞬二人の動きが止まる。
「オレを殺してもサンジさんはアンタのモノにはならねえ」
突然ギンが小声でゾロに話かけた。
「サンジはもうオレのもんだ」
ゾロの言葉にギンは歪んだ笑みを浮かべた。
「こそこそ会うのがか?
ゾロ、アンタは戦士だ。
戦うことに何の迷いもねえ。
あの人を苦しめるな」
トンファーが地響きをたてて地面に叩き付けられた。
ゾロは反動で飛ばされつつ、
ギンに対して怒鳴り付けた。
「あいつはオレのもんだ」
そろそろ決着の時だ。
渾身の一撃。
「サンジさんのためにもオレはアンタを殺す!!」
振り下ろされたトンファー。
斬り込むゾロの剣。
一瞬、時が止まったかのように見えた。
どちらも動かない。
観衆はかたずを飲んで勝負の行方を追いかける。
「ちっ、効くじゃねえか。
たかが球のクセに」
ゾロががくりと膝をついた。
「サ・・・ンジさんを・・・不幸に・・・する・・・な」
ギンはボタボタと流れる血を拭おうともせず、
ゾロに手を伸ばし、
それから地面に崩れ落ちた。
「ギンさんっっっっ!!!」
「ゾロが勝ったぞ!!!!」
男たちが一斉に勝負の結末について騒ぎだした。
「さすが、魔獣のゾロだ!!!
大したもんだ。
あいつがいりゃウエストブルーは無敵だ!!!」
「バカな・・・ギンさんが殺られるなんて!!!
チクショウ!!!」
サンジは意志のない人形のようにただ立っていた。
目の前にギンが運びこまれてきても動くこともできなかった。
おびただしい血。
ぐったりした体。
サンジはただ立ちすくんでいた。