R20
悪の華
XS

 届かない大空

契約(九代目×S・家光×S ほか)
Squalo14-22
R18

1



 
ゆりかご事件の事は、ボンゴレ内部で戒厳令を敷き、
内部の者でも何が起きたかを知るものはほとんどいなかった。
ある日、突然姿を消した御曹司ザンザスと、
ますます目にすることのなくなった独立暗殺部隊ヴァリアーについて、多少気になっても、
人嫌いの御曹司がますますひねくれたのだと解釈されるだけであった。

ボンゴレに内部抗争などあってはいけないのだ。
そんなことはあるはずはない。

九代目は、他のファミリーに対して、
以前と何ら変わらない態度で接したし、
他のファミリーも、かすかな変化に気づくことはできなかった。

ザンザスは氷の中で凍てついたままだ。
九代目は、凍り付いたザンザスを見るたびに哀しみにうちひしがれた。
どうしてこうなってしまったのか。
慈しみ、すべてを与えてきたつもりだった。
この子に、ボンゴレの血が流れていなくても、
私はかまわなかったのだ。
偽り続けて、父と子を演じ続けられると思っていた。
私には、何も手に入らない。
望んではいけないものを望んだというのか。
ボンゴレの血の前に、これ以上、心を殺して生きろというのか。
血の掟を知りながら、この子を養子にした私が間違っていたというのか。
なぜ、逆らう。
なぜ、私のものにならない。
お前を汚すつもりなどなかった。
大切に、大切に、育ててきた。
それなのに、なぜだ。
なぜ、お前は・・・。

「九代目、またここにいらっしゃったのですか。
守護者たちが探していましたが」
沢田家光は、氷の中のザンザスをじろりと見た。
こんなガキに、九代目が振り回されてはならない。
いくら二代目に似ているからといえ、他人の空似にすぎない。
どうしてザンザスに、ボンゴレの死ぬ気の炎がともせるのかは分からない。
けれど、ボンゴレの継承者でないことは間違いない。
なぜ、この方は、この子どもに振り回されるのだ。
九代目は、穏やかで、誰もを均等に愛する方だったはずだ。
若いころのオレは、この方の側に仕えることを喜びとし、
聖人のようなこの方の側にいながら、
聖人のように清らかな心になれない自分に苦しんだ。
この方は、道を踏み外すことなどない。
欲望や、独占欲など持たない遠い存在だ。
ずっと、そう思っていた。

でも、もしかしたら、違うのかもしれない。
ゆりかご事件は、九代目のあやまちから起きた事件なのだ。
ザンザスを側におくというあやまち。
この方の、心の奥深くに潜み続ける欲望。

「九代目。重要な話があります。ヴァリアーの処分についてです」
九代目は、哀しみをたたえた目で、家光を振り返った。

「ヴァリアーの力は、ボンゴレにとって必要です。
今回の功労者であるオッタビオに指揮をさせればよいかと思います。
一番問題なのは、スペルビ・スクアーロです。
九代目、貴男もご存知なのでしょう。
御曹司と、彼の関係は」
家光は、九代目の表情が、かすかに曇るのを見たが、さらに続けた。

「スクアーロは、あのテュールを倒すほどの力を持っています。
ザンザスのあとを継ぐなら、本来ならばスクアーロのはずです。
だが、あの子どもは危険です。
スクアーロがいなければ、ザンザスはこれほど短期間にクーデターを起こす事はできなかった。
あの血に飢えた鮫のような子どもの存在が、ザンザスの怒りを加速させたのです。
御曹司は、早熟でいろいろな女と派手に性行為をして使い捨てていたけれど、
ある時から、ほとんど女を呼ばなくなったということをご存知でしょうか。
クーデター直前、ザンザスの相手をしていたのは、スクアーロだけということをご存知でしょうか」
家光は、一気に言い切ると、青ざめて震えている九代目の言葉を待った。
九代目は、ザンザスの度を超した女遊びさえ黙認していた。
女が冷たくなり、二度と日の目を見ることができなくなることもよくあったが、
それでも何も言わなかった。
九代目は気づかなかったのだろうか。
ザンザスにそっとよりそうスクアーロの姿を。
単なる忠誠にしては、淫媚な雰囲気をまとっていた。

「あの・・・銀の子が・・・?
テュールを倒したあの子が・・・?
ザンザスと一緒に私を倒しにやってきた・・・。
そんなことが・・・」
九代目は、信じられずに首を振った。
ザンザスがあの銀の子どもとよくない遊びにふけっているという噂は届いていた。
けれど、それを真実と認めることはどうしてもできなかった。
マフィアのボスに女遊びはつきものだ。
ザンザスが手当たり次第に女遊びをしていることは知っていた。
あの子は魅力的だから、そういうことがあってもしようがない。
それは、しようがないことなのだ。
男が女を求めるのは自然の摂理なのだ。
時には自然の摂理から外れた遊びにふけってしまうこともあるかもしれない。
しかし、それも一時のあやまちにしかすぎない。

・・・あの・・・銀の子ども・・・。
憎しみのこもった目で私を見たあの子に、
ザンザスは触れたというのか?
あんな子に・・・?
それは単なる推測にすぎないかもしれないのだ。

「スクアーロは、我々に逆らうことなど許されない。
ああいう物わかりの悪いガキには、身体に刻みつけてやらなければならない。
九代目、あれは、ザンザスが抱いた身体です」
それは、悪魔のささやきだった。

九代目の心に秘められた闇をひきずり出す、悪魔のささやき。
押さえつけてきた、欲望と独占欲。

「われわれが、罰すればいいのです」
家光は淫媚な笑顔を浮かべた。
罪には罰が必要で、スクアーロは罰せられなければならない。
九代目は十分、我慢をし、自分を殺しつづけてきた。
もうよいのです。
貴男は少し自分に正直になってよいのです。
秘めた想いを少し吐き出されるとよいのです。
あなたも聖人ではない。
おれもあなたに近づけて光栄に思えます。


九代目はしずかにうなずいた。




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