R20
悪の華
XS

マフィアの血
Xanxus24-Squalo22
X×S ほか S受

名声




3




その女は、九代目の別宅の離れに匿われていた。
スクアーロは見覚えのある建物である事に気づき、
気分が悪くなった。
見張っていると、九代目がその女に何度か話しかけていた。
女は笑みを浮かべて返事をしていた。
ヴァリアー幹部たちは、
交代で九代目の別宅の動向と、女の動きを監視した。
別宅内にいる限り、手出しすることはできない。
女の腹は確かに大きくなり、
新しい命が存在していることを示していた。
「あの女、ちょーむかつく。全然出てこないし」
辛抱強くないベルは、すこし見張るとすぐあきてしまった。
「うぬう。ほとんど動かんな」
粘り強いレヴィは、気長に様子を伺っていた。
スクアーロも通されたことのある広いテラスに女はいて、
ゆったりとくつろいでいるようだった。
九代目と並んで座っている様子は、孫を待ちわびる老人と、息子の嫁そのものだった。
「ムッ。うまくとり入ったものだね」
マーモンは、冷たい声で言った。
「ボスには一言も言わないで、九代目に保護されるなんて。
どんな嘘話を言ったのやら!!」
ルッスーリアはいまいましげににらんだ。
九代目があの別宅にいる間は手出しできないけれど、
もうすぐボンゴレ本部での集まりがある。
その時に、仕留めてみせるわ。

女の名はジュリエッタと言った。
弱小マフィアの一人娘で、
女であったが、誰よりも頭が良かった。
普通の戦いでは、決してのし上がることはできない。
最高のマフィアであるボンゴレに取り入る方法をいろいろ考えた末、
御曹司であるザンザスの嫁になるのが一番だと考えた。
ボンゴレ十代目は沢田綱吉という日本人の気の弱そうな若者だった。
十代目を継いでいるものの、その実力については半信半疑で、
九代目が健在なので、みなその指示に従い、その動向に左右されていた。
九代目にはザンザスという息子がいた。
マフィアにふさわしい男だと噂され、十代目を継ぐと思われていたのだが、
あまり表には出ず、十代目も日本人に譲ったらしい。
マフィアのトップは沢田綱吉が継ぐが、九代目個人の膨大な資産はザンザスのものとなる。
沢田綱吉を調べると、日本人の恋人がいた。
イタリア人のジュリエッタとは接点もない。
ザンザスは、めったに人前に出ないものの、
そのへんにいる女達を適当に相手にしているようだった。
過去に婚約したこともあるようだったが、その女はマフィアの抗争で殺されていた。
ジュリエッタは、数年に渡り、ザンザスの交際相手の女のタイプを調べ続けた。
特定の相手はおらず、パーティーに連れが必要な時に適当に見繕い、そのまま情事になだれ込むらしかった。
気に入らない女はほとんど消されるようで、生存率は20%を切っていた。
女は使い捨ての道具であり、愛情はひとかけらも感じられなかった。
命がけの賭けだった。
まずザンザスの目に止まらなければならない。
もちろん美しくなければだめだが、派手すぎるのもだめ、地味すぎるのもだめだった。
美しい長い髪が好みのようだったので、ジュリエッタは髪を伸ばした。
ザンザスの一番の側近には、美しい銀髪の男がいた。
二人で並んでいると絵のように美しかった。
ただならぬ関係だという噂もあるようだったが、
ジュリエッタの目的はボンゴレの血を受け継ぐことで、
既成事実さえできればよいので、
ザンザスが誰を愛そうが構わなかった。
ザンザスは二代目に瓜二つで、
おそろしいほどのカリスマ性を漂わせていた。
ほとんど喋らなかったが、女達はうっとりとザンザスを見ていた。
欲望の処理に使われているだけと分かるのに、それでもいいと思わせるほどの魅力があった。
ザンザスはひとかけらの関心もジュリエッタに示さなかった。
ジュリエッタも深追いしなかったので、殺されずにすんだ。
九代目との不和を利用し、九代目に連絡を取ると、人のよい老人は簡単にジュリエッタを招き入れた。
ボンゴレの血を継ぐ子どもを産もうとしているジュリエッタを丁重に扱ってくれている。
無事に産んで、認知されてしまえば、なんとかなる。
あと少しで、地位や名声は私のものになる。
ジュリエッタは豪華な揺り椅子に座り、うっとりほほえんだ。

九代目が出かけた後の屋敷は、
警備が手薄になる。
マーモンは誰にも気づかれないよう、
ジュリエッタに幻術をかけた。
ジュリエッタの目の前には、
ザンザスの幻影があらわれた。
「女、てめえはここで何をしている。オレはジジイが憎い。ジジイと一緒に殺してやろう」
銃を手に近づいてくるザンザスを見て、ジュリエッタは悲鳴を上げた。
裸足のまま外に出て、必死に逃げた。
「あなたの子よ、本当よ!!
ちゃんとしたじゃない!!
忘れたの?」
ジュリエッタは必死で弁解したけれど、ザンザスは怒りをあらわにして追いかけてきた。
逃げて続けて、
道路に逃げたと思った瞬間、地面が消え、まっさかさまに崖から転げ落ちた。
「ナイスよ、マーモンちゃん!!」
ルッスーリアが死亡を確認して、合図を送った。
「つまんねーの。王子のナイフで刺したかったのに」
「うぬう。自業自得だ」
様子を伺っていたベルとレヴィは動かなくなった女を見下ろした。
「さあ。帰るわよ。スクアーロが本部にいる間に、死亡報告行くかしら」
「無理じゃね。ここに残ってる連中、鈍そうだし」
殺しが終わると、もう死体には興味がない。
ルッスーリアたちは、せいせいした気持ちでヴァリアーに向かった。










TOP