R20
悪の華
XS

遠い明日の誓い
Xanxus34-Squalo32
X×S ほか S受


干天



4




ザンザスはむっつりと酒をあおっていた。
カスザメはまだ帰らない。
べつに任務があるわけではない。
いなくてはならないわけではない。
いつも鉄砲玉のように出て行き、騒々しく帰って来る。
くだらねえ。
あんなドカスの事を考えるとは、時間の無駄だ。
銃の手入れでもするか。
しばらく手入れをしていたが、集中できずにその辺に放り投げた。
カスザメがいないと静かでせいせいする。
それなのに、いなければいないで、いらいらして落ち着かない。
他のやつはさらにドカスなので、退屈しのぎをさせる相手もいない。
戻って来たら、殴って犯してやる。
最近は女を連れて出歩いたり、寝たりするのも面倒なので、
処理はカスザメを使う。
やつが役に立つといったら、それぐらいのものだ。
どうでもいいカスが何をしようと、勝手だ。
好きに何でもすればいい。
やつは修行だと言いながら、時々どこかで男をくわえこんでくる。
さんざんいたぶってやっているのに、まだ足りないらしい。
オレに忠誠を誓いながら、だれとでも寝る。
ただの部下のくせしやがって、オレを敬いやがらねえ。
素直にひれ伏すこともねえ。
あんなカスを気にする必要なんてねえ。

スクアーロがヴァリアー本部に戻ると、
下っ端の隊員たちが何人も血を流して倒れ、呻いていた。
「どおしたぁ!!!」
ヴァリアー本部に敵が攻め込んでくるなどありえないことだ。
「はっ・・・ボスに・・・やられました・・・」
「食べたい肉が準備できなくて・・・」
「本当にかっ消されるかと・・・」
隊員達はボロボロで動く事もままならないようで、この状態では任務があっても使えそうにない。
「クソボスがぁ!!!!」
スクアーロは足音も荒く、執務室に向かった。
広場のあたりに大きな穴があき、瓦礫だらけになり、風が吹き込んでいた。
スクアーロが執務室に入ると、すかさず煉瓦がとんできた。
「痛いぞぉ!!! 何しやがる、クソボスがぁ!!!」
ザンザスはじろりとスクアーロを見た。
地団駄を踏まんばかりに悔しがっているのを見ると、
少しいらいらが治まった。
「ボスぅ、ジャッポーネの和牛があったはずだぁ!! それは食ったのかぁ?」
スクアーロはボスの好きそうな肉があることを知っていた。
最高級の和牛だ。
和牛なら、沢田綱吉から差し入れがあるが、絶対に受け取らない。
それでルッスーリアがザンザスのためにわざわざ取り寄せたのだ。
「何だそれは」
ザンザスの表情は変わらない。
相変わらず不機嫌なままだ。
「ルッスーリアが取り寄せたって言ってたぞぉ」
ルッスーリアは、隠しておいてボスを喜ばせるのだと言っていたが、
非常事態の現在、その肉でしのぐしかない。
「食うだろ? 待ってろぉ。コックを呼ぶぜえ!!」
「クビにした」
「ゔぉおおい、どうするんだぁ!!!!!」
スクアーロは怒鳴った。
気に入らないからといって、しょっちゅうコックはクビになる。
大体は追い出されるだけだが、時々、本当にかっ消される。
料理の腕がいいだけでは、とてもボスのコックはつとまらない。
「てめえがなんとかしろ。10分だけ待ってやる。準備しろ」
「ゔぉおおおおおおおい!!!!」
スクアーロはいそいで厨房に向かった。
ボスさんのわがままに逆らったら、
建物ごとかっ消されてしまう。
もちろんスクアーロが簡単にかっ消されるわけはないが、
この建物が壊滅するのは間違いない。
すでにあちこちかっ消されかけて、
そのたびに修繕しているのだ。
厨房には誰もおらず、秘かに頼みの綱としていたルッスーリアもどこにいるのか分からない。
探している時間はない。
スクアーロはものすごい勢いで、火をつけ、肉を焼いた。
焼きながら、ワインや皿の準備もした。
最高のスピードで準備し、
肉を持って行った。
ザンザスは、目の前にさし出された皿を見て、それから時計を見た。
「遅え。11分43秒もたっている」
「ゔぉぉおおおおおい!!
無理な注文するなあ!!」
「カスが。肉の一つも焼けねえのか。できないなら、素直にできなくてすみませんでしたとでも言いやがれ」
「んだとぉ!!」
猛烈に悔しがるスクアーロを無視し、ザンザスは目の前の肉を食べてみた。
成り行き上、何度もザンザスの肉を焼いているスクアーロは、
焼くたびに少しマシな焼き方を覚えるようで、食えなくもない味にしあがっていた。
「ワインを持って来い」
ザンザスが命じると、スクアーロはむっつりしながら瓶をとってきて、グラスに入れた。
「優雅さがたりねえ。まったくだめだ。ワインをつぐ時は、もっと上品にしねえか」
「ゔぉおおおおい、オレは殺し屋だぞぉ!!! そんなもん必要あるかあ!!」
潜入任務でしても差し障りがないように、ある程度のマナーは練習している。
ソムリエの真似事のような事をして、見破られなかったこともあるのだ。
ボスは御曹司だから、いろんな基準がとても高い。
高すぎて、たいていのことが基準以下となり、それが気に入らないのだ。
ボンゴレのことだけでなく、
いろいろなものがボスの審美眼には届かない。
理想や希望が満たされることがないから、
ボスはいつも渇き続けている。
いつも怒り続けている。
たった一度の食事でも理想と現実のずれに憤る。
怒りはあらゆることに向けられる。
決して安らぐことはない。

ザンザスは肉を食い終わると、
黙って待機しているスクアーロを見た。
騒々しいやつだが、最近は静かにいることも覚えたらしく、
気配を消して待つ事ができるようになった。
スクアーロは静かに窓の外を眺めていた。
前髪はいつの間にか長く伸び、さらさらとほほにかかっている。
白い顔にかすかに光があたり、
髪の毛はきらきら輝いていた。
ザンザスは思わず見入ってしまい、
それからまたいらいらした気分になった。
ふん。
今夜は呼び出しだ。
そしてその身体にたたきこんでやるのだ。
自分の身分というものを。
燃えさかる怒りが消えることはない。
荒れ狂う業火は渦巻き続けている。
カスは黙ってオレに従えばいい。
すべてを支配するのはこのオレだ。







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