R20
悪の華
XS

遠い明日の誓い
Xanxus34-Squalo32
X×S ほか S受


干天



5



ボンゴレが秘かに主催する、富豪たちの集まるパーティーに、
めずらしくザンザスが出ていた。
取引先の社長どもに顔を見せるだけですぐ帰る予定なので、
女も連れていない。
ボンゴレの正式任務の時は、ザンザスの護衛としては一番の側近であるスクアーロが着く。
今回は、一般人相手の顔見せだったが、
めずらしく護衛にはスクアーロが着いていた。
一般人には分からないように、
長い髪は帽子の中に隠され、
メガネをかけ、
いかにも秘書という感じだ。
ザンザスは、商談相手の社長と一言二言あたりさわりのない会話を交わしていた。
別件でパーティーにやってきていたシャマルは、
たまたまそこに出くわした。
ボンゴレの中でいると、マフィアの世界にどっぷりと漬かってしまい、心まで淀んでしまう。
だから、たまにシャマルのことを知らない連中の多い、どうでもいいパーティーに出て息抜きをする。
今回、ここに来ているシャマルは、道楽者の伊達男といったスタンスだ。
毒にも薬にもならない女たちとうわべだけ楽しい時間を過ごす。
こんなパーティーに来る女にはろくなのがいない。
それは分かっていても、たまには気分転換がしたいのだ。
シャマルは、ザンザスから離れ、様子を伺っているスクアーロに近づいた。
スクアーロはザンザスから5mぐらい離れて、会場が見渡せる壁に立っていた。
地味な服を着て、見事に気配を消していた。

「めずらしいな。お前さんが護衛とは」
シャマルは同じく人目につかないように壁の側の椅子に腰掛けた。
「・・・てめえかあ。何でこんなところにいるんだぁ」
スクアーロはシャマルをちらりと見た。
今日の護衛は全く張り合いがない。
素人ばかりで緊張感もまったくない。
ボスがなぜ急にスクアーロを指名したのかは分からないが、
誰がついてきても問題ないような任務だった。
することがないので、ザンザスの姿をぼんやり見ているだけだ。
こんな風に、ザンザスを見ることなどほとんどない。
外に出る時に連れていくのは、たいていレヴィかルッスーリアなのだ。
レヴィもルッスーリアも地味に変装してボスに着いて行く。
「ドカスが静かにできるわけがねえ」と言われたので、
「できるぜえ」と言ったらめずらしく指名された。
ボスの警備に一人で着いてきたのは初めてかもしれない。
そういう意味では緊張するぜえ。
もし刺客がいるならば、入りこみやすいパーティーではある。
ボスは新しい人脈とコンタクトをとる気はないようで、
資料にあった社長たちと相談しているようだ。
ボスを近寄る女たちは、何か言われ、ボスの側から離れている。
相変わらず、目立ってるぞぉ。
ボスさんは、かっこいいからなあ!!
ボンゴレ関係者もそれなりに混ざり込んでいるが、
みな一般人を装っているので、
人々にとけこみ、何食わぬ顔をしてパーティーに参加していた。
シャマルは視線をザンザスに向けながら、
スクアーロに話しかけた。
「御曹司がこんなところに出てくるのも久しぶりだ。
会社はうまくいってるらしいな」
「みたいだぞぉ」
「この前のボンゴレ本部のパーティーで、沢田綱吉がどうして体調不良になったか知っているか?」
シャマルはの問いかけに、スクアーロは何も答えない。
ボンゴレ十代目が体調不良でしばらく席を外していたことは知っているはずだ。
沢田家光と険悪な雰囲気だったことも、ヴァリアーは気づいているはずだ。
急に親子喧嘩するのもおかしい。
「親子喧嘩だと聞いたぜえ。バカバカしい」
スクアーロは何でもないことのように言った。
確かにそう伝わっているのだろうが、当事者のはずなのに、気づいていないのか?
だいたいゆりかご事件も派手な親子喧嘩ともいえる。
スクアーロは孤児だったと聞いている。
ヴァリアーは天才の集まりと言われるが、その分、何か欠損している部分がある。
スクアーロもそうだ。
もの凄く欠けた部分がある。
そこが十代目やその守護者たちとの決定的な違いだ。
「家光とお前が密会してるところを見ちまったらしい」
スクアーロは否定しない。
それは、肯定したようなものだ。
「ザンザスは知っているのか?」
「ボスには関係ねえ!!」
それまで我関せずという態度だったのに、突然怒りを露にした。
シャマルは確信した。
ザンザスは何も知らないのだ。
スクアーロはザンザスのためなら何でもする。
そこにつけこめば、簡単に好きにできるだろう。
家光は精力的な男だ。
妻の奈々という女は鈍い女のようで、家光がマフィアの重要幹部であることすら知らないらしい。
やつには表の顔と裏の顔がある。
九代目につくし、影になってボンゴレを支えて来た忠誠的な姿と、
容赦なく敵を切り捨て、汚い工作をして敵を潰す闇の姿と。
九代目は聖人のようで、シャマルの性に合わなかった。
温和で決して道に外れたことはしない。
言う事はいちいちもっともだった。
できた人すぎてつい敬遠してしまった。
だが、それに心酔する者は多く、いまだに九代目を尊敬している者は多い。
家光は若頭と呼ばれていた頃から、九代目に絶対的な忠誠を誓っていた。
九代目にたてつく者を、何もせずに生かしておくはずはない。
おそらく、ゆりかご事件の後、ずっと罰を与え続けてきたのだろう。
九代目はご存知だったのか?
あの方なら、家光を止められたはずだ。
スクアーロには選択肢はなかったはずだ。
男だから妊娠する心配はないし、口も堅く、おそらく抱き心地もよい。
弱みを握っているから、簡単に言う事も聞かせられる。
嫌な男だ。
十代目となった綱吉にも適当な事を言ってごまかしている。
綱吉はまっすぐでお人好しだ。
本当の事を知ったら、家光を排除しようとするだろう。
家光の闇は、ボンゴレに必要だ。
やつは残酷で汚い仕事でも平気でこなす。
それこそ、突貫工事のように無表情でやってのける。
純粋に暗殺を任務とするヴァリアーより、ずっと醜くて汚い仕事を請け負っている。
そういう男からしたら、スクアーロをたまに抱くくらい何でもないことだろう。
分からないではない。
でも、このままにしておくのも、すっきりしない。
初めてシャマルがスクアーロを見たのは、14の時だった。
左手を切り落とした銀の子ども。
男は見ないはずなのに、それから何度となくかかわるはめになってしまった。
もう18年もたつのか。
今日は完璧に変装してるが、
黙っていると臈長けたように美しく、大変目立つようになっている。
本人はその変化を自覚しているようではない。
こんなに年月が経っても、いまだに御曹司だけを見ている。
何も知らない御曹司だけを見ている。
スクアーロは何も言わない。
ずっと何も言わなかった。
この先も何も言わないつもりか?

ザンザスは、スクアーロの視線を感じながら、
金持ちの社長達と仕事の話をしていた。
こいつらは取引相手に実際に会わなければ納得できないタイプのやつらだ。
最初から代理の社長をたてておけばよかったのだが、
面倒だったので、こうなってしまった。
女を連れるのも面倒だったので、
自分だけで来ることにした。
カスザメはたいていアジトで待機させるのだが、
ここのところ大した任務もないので、
連れてくることにした。
誰にでもできる仕事だ。
わざわざ次席を連れて来るようなことではない。
スクアーロは退屈そうにしながらも、
ザンザスの様子を伺っていた。
そこにシャマルがやってきて、何か話しかけた。
スクアーロは憤慨していた。
ボスには関係ねえ。
確かにそう口が動いた。
シャマルが何を言ったか分からなかったが、
ドカスの表情ははっきり変わった。

シャマルはザンザスが見ていることに気づいていた。
わざとスクアーロを手招きして、
持ち場を離れさせた。
「沢田綱吉には何と説明すればいい?」
「知るかぁ。オレは何も言う事はない。都合が悪ければ、奴が止めりゃいいんだ」
スクアーロは吐き捨てるように言った。
「お前には選択権はないってことだな。
ザンザスなら止めさせることができるんじゃないか?」
シャマルはわざと言葉を続けた。
あまりいい方法ではないが、このままにしておくのも後味が悪い。
「ボスには関係ないと言っただろうが!!」
「まあ、ザンザスに知られたらただではすまないかもな」
スクアーロは黙り込んだ。
許されるはずはない。
覚悟はとうにできている。
でも、ずっとボスの側にいられるのではないかと錯覚してしまう。
「脅しかぁ」
スクアーロはぽつりと言った。
シャマルはぼりぼりと頭をかいた。
「いや。本当ならそのままにしといた方がいいんだろうが。
まあ医者としての良心かもな。
ゆりかご事件以降、継続的に逆らえない相手から性的虐待を受けていたらしいことは分かっていたし」
「ゔぉおおおい、慣れてるからいいんだぁ!! 二人くたばったしなあ!!」
二人?
どういうことだ?
家光だけではなかったのか?
スクアーロに手を出せるといえば、
地位が上回るものしかいない。
九代目の守護者か?
それとも・・・。
恐ろしい考えに、シャマルの背筋は凍り付いた。










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