R20
悪の華
XS

遠い明日の誓い
Xanxus34-Squalo32
X×S ほか S受


慈雨



1




スクアーロが意識不明の重体だと知らされたシャマルは、
ヴァリアー本部に向かった。
今回だけは、男は診ないなどと言っている場合ではなかった。
恐れていたことが起きたのだ。
ザンザスは怒りを爆発させ、怒りをスクアーロに向けたのだ。
憤怒の炎で焼かれたスクアーロの身体は、
見た目にはどうもないように見えたが、
内臓を焼かれているようだった。
こんなことになるために知らせたのではない。
スクアーロはまるで眠っているだけのようだった。
ザンザスは、無表情でスクアーロを眺めていた。
その顔からもう怒りは失われていた。
スクアーロはザンザスの怒りを受け止めたのだ。
身を挺して、憤りを受け入れた。
雨属性とはとても思えないやつだが、
ザンザスの心を潤すことのできるのはこいつしかいない。
シャマルは人払いをすると、ザンザスにだけ所見を述べた。
「内臓をやられている。9割だめだと思ってくれ」
「ふん。生き汚いやつだから、死ぬわけがねえ」
まだ悪態をついているザンザスだったが、
シャマルにもスクアーロの生を望んでいることが分かった。
バカなやつだ。
どうして、もう少し、簡単に生きることができないのか。
もっと楽に生きる道を選ばないのか。
苦しみ続けてどうなる。
怒り続けてどうなる。
何も得られるものはない。
今度こそ、間違うな。
怒りに惑わされるな。
はりめぐらした刺で自分を守り、人を傷つけることばかりを考えるな。
本当に大切なものが何かを考えろ。
こいつはすべてをお前に差し出した。
傷を負ったお前の背に、自分の羽根を折って差し出した。
早く気づけ。
それがどんなにかけがえのないものかを。

ザンザスは、眠り続けるスクアーロを見た。
少し眠っているだけだ。
うるさいカスザメのことだ。
何もなかったようにすぐ目覚めて、騒々しくわめく。
きっと、そうだ。
すぐに目を覚ます。
こいつがそう簡単にくたばるはずがねえ。
てめえはオレに誓った。
感謝する日が必ず来ると。
本当にオレとやっていくための覚悟があるなら、とっとと起きろ。
てめえの誓いを見せてみろ。

1日たっても、2日たっても、スクアーロの意識は戻らなかった。
生死の境を彷徨い続け、
何度も血圧が下がり、
危篤だと言われた。
それでも、スクアーロは死ななかった。
死ななかったけれど、
その目が開くことはなく、
その唇が動くこともなく、
その手が何かをつかむこともなかった。
スクアーロは静かに眠り続けた。
眠っている間だけは、静かで心が落ち着いた。
何も考えずにいられた。
スクアーロは長い長い夢を見た。
鳥になり、風になり、月になり、ザンザスの側にいる夢を見た。
守りたかったのだ。
ザンザスを傷つけるものすべてから。
ザンザスにしあわせになってもらいたかったのだ。
出会った時から、ずっと。
傷だらけの心をどうにかしてやりたかった。
いつか、その時は来るのだろうか。
怒りが解け、荊だらけの心が安まる日が。
あきらめない。
どんな小さな道も一歩から。
絶対に、あきらめない。
ザンザスに誓った。
どこまでも、ついていく。
いつまでも、一緒にいたい。
永遠の眠りにつく日まで、側に。







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