R20
悪の華
XS

遠い明日の誓い
Xanxus34-Squalo32
X×S ほか S受


慈雨



3





それは、春が近づく暖かい日だった。
ザンザスは、ヴァリアー本部の横の道を歩いていた。
久しぶりの任務に出て、外の空気を吸った。
本部に戻ると、書類が山積みになっているのは分かっている。
スクアーロが眠りについてから、もう4ヶ月近くになる。
ただ眠っているように見えるのに、
いっこうに目を覚まさない。
ルッスーリアは、4ヶ月ぐらいたいしたことはないと言う。
やつらは8年待ったと言った。
季節がいくつ過ぎても、待ち続けたという。
それをあたり前のことのように言う。
ドカスが!!
なぜ、目を覚まさない。
ザンザスが歩いていると、
突然空が暗くなり、雨が降り始めた。
しばらく乾燥続きで、ろくに雨も降っていなかった。
地面に雨粒が当たり、渇いた大地に一瞬にして吸い込まれていった。
恵みの雨だった。
万物を潤し、育てる雨だった。
うっとうしい雨がなければ、何一つ生きることはできない。
ザンザスは、雨に濡れるのも構わず、天を仰ぎ見た。
灰色の雲からは、ひっきりなしに雨の粒が落ちてきた。
スクアーロが意識を失う前に見せた涙のようだった。
あの時、スクアーロの状態に気づかなければ、自らも焼きつくしていたかもしれない。
それほど激しい怒りだった。
だその時の怒りごとスクアーロは眠ってしまったようで、
もうあれほどの怒りは沸かなかった。
カスザメ、てめえは泳ぎを止めたら死んでしまうんじゃねえのか?
どうして、てめえは眠り続けている?
ザンザスはしばらく雨の中、立ち続けていた。
濡れたまま本部に戻り、
その足で眠ったままのスクアーロのところに行った。
幹部たちはまだ任務から帰ってきていないので、
部屋には誰もいなかった。
ザンザスはびしょぬれのままで、スクアーロの姿を見た。
目を閉じて黙って眠っていると、
今まで相手にしてきたどんな女よりも美しく見えた。
じっとしていても、見飽きない。
うるさくて騒々しくても見飽きなかった。
だから、いろいろいびった。
こいつがいないと、つまらねえ。
すべてが味気なくて、何をしても満足感が得られねえ。
こいつの頭に食い物がジャストミートした時の成就感は貴重だった。
なぜだ?
お前はオレに誓ったはずだ。
オレについてくると、誓った。
オレを待たせるな。
じっと見続けていると、
ザンザスの髪や顔から、スクアーロのほほに水滴が落ちた。
かすかに閉じられた瞼が動き、銀のまつげが開いた。
それから、色素の薄い銀青色の目がゆっくりと動いた。

スクアーロは、びしょ濡れのザンザスがいるのを見て不思議に思った。
ここは地獄かあ?
それとも天国かあ?
オレはボスの炎でくたばったんだよなあ。
何か夢を見ていた気がするが、もうよく覚えちゃいねえ。
どこだぁ、ここ?
って、ヴァリアーの本部っぽいが・・・。
「・・・ボス・・・何で濡れてるんだぁ・・・?」
スクアーロは、渇いた喉から声を絞り出した。
自分の声とは思えないぐらい小さな声しか出なかった。
「ドカスが!!!! てめえは、のうのうと寝やがって!!!」
ザンザスはそれだけ言うのが精一杯だった。
それ以上喋ると声が震えてしまいそうだった。
「ゔぉぉ・・・点滴かぁ?」
スクアーロは起き上がろうとして、くらりとした。
崩れ落ちそうになるところを、ザンザスに抱きとめられた。
何がどうなっているのか分からなかった。
分からなかったけれど、
びしょ濡れのザンザスにぎゅっと抱きとめられると、
何も言えなくなった。
ボスは怒ってねえ。
それどころか、悲しそうだ。
こんなザンザスを見るのははじめてだ。
「ボスぅ、大丈夫かあ?」
「どこにも行くな」
スクアーロはザンザスにしがみついた。
何でか知らないが、ボスは傷ついている。
オレは側にいるぞぉ。
ボスがいらないって言ってもいるぞぉ。

ヴァリアー本部に戻って来たレヴィは、
スクアーロの病室の前で立っているルッスーリアとベルを見つけた。
「ぬおお、貴様ら、一体何を」
言いかけたレヴィは部屋の異変に気づいた。

ザンザスが抱きしめているのはスクアーロで、
スクアーロの手がザンザスの背に回っていた。
ぬおおお、スクアーロの奴、甦りくさったか!!
そう思ったものの、ボスの様子を見ていたら、何も言えなくなった。
ボス・・・あやつの復活をそんなに・・・。
ぎゅっと抱きしめているその姿を見たら、
とめどもなく涙が出た。
先に来たルッスーリアは、
嗚咽を押さえきれなかった。
よかった。
本当によかった。
とうとう、ボスが気づいた。
憎む以外にも生きる道があることに。
不器用すぎるボスが、やっと愛に気づいた。
スクはボスにとってかけがえのない相手。
他の誰でもだめ。
本当に大切なものが何か気づいた。
長い長い冬だった。
でも必ず春はやってくる。
ずいぶん遠回りしたわね。
お互い傷つけあったわね。
もう、間違えないで。
もう苦しむのはたくさんよ。
様子を見ていたベルは鼻をすすった。
「ふん。王子が泣きそうになるなんて、信じられないし」
「そうね。めそめそしているのは私たちには似合わない。
スクの復活祝いの準備よーーーーー」
「レヴィ、いつまでも泣いてるんじゃないわよ!!  
ボスのしあわせはあんたのしあわせでしょ!!」
「そうであった!!!
ボス、おめでとうございます!!」
どんな時でもボスを敬って止まないレヴィは、びしっと敬礼をした。










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