R20
悪の華
XS

遠い明日の誓い
Xanxus34-Squalo32
X×S ほか S受


誓い



4




ボンゴレファミリーは敵をすべて制圧し、誰もがひれ伏す地位と権力を手にいれていた。
その力を顕示するのが目的のパーティーが開かれ、
めったに目にすることができないヴァリアーも総出で参加していた。
「嬉しいよ、ザンザス、来てくれて」
沢田綱吉が話しかけると、見るからに不機嫌なザンザスが悪態をついた。
「話しかけるな。向こうへいけ!! かっ消すぞドカスが!! 死ね!!」
気の毒なぐらい青ざめる綱吉をあわてて獄寺たちが引き離した。
「十代目、久しぶりのザンザスは相変わらず失礼極まりない奴ですね!! お気になさらずに!!」
獄寺までががっかりしながら綱吉をなぐさめていた。
「ははっ。相変わらずだな。でも、パーティーに来たのな」
山本は固まって移動するヴァリアーの集団を目で追った。
「・・・そうだね。来てくれただけいいと思わないと」
「やつら目立ってますね。他ファミリーの連中はやつらを見ただけで青ざめてやがる」
「さすが、ヴァリアークオリティだね」
マフィアぞろいなので迫力のある男たちが揃っていたが、その中でもそこだけ特別に目立っていた。
ただならぬ殺気が溢れ出ており、恐ろしくて誰も近寄れない雰囲気があった。
ボンゴレを裏で支えているのは、間違いなく彼らだった。
沢田綱吉は、恐怖すら感じた。
今でこそ、はっきり権力を奪おうとはしないが、もし寝返ったら勝てる自信はない。
ザンザスとはもう戦いたくない。
ザンザスの憤怒の炎は、ザンザス自身も傷つける。
最近は、ずいぶんおだやかになったと聞いていたが、綱吉に会うと相変わらずだ。
まあ、会うだけで奇跡に近いけれど。
十年前に比べ、ザンザスはずっと大人になった。
そして何だか、すごく色気がある。
ザンザスがちらりと右を見ると、側にいたスクアーロがすっと近寄った。
それはあまりにも自然で、あたり前の光景だった。

「今、手を繋いだのな!!」
スクアーロの事をずっと好きな山本は表情を変えた。
初めて出会った時からあこがれの存在だった。
スクアーロを追いかけて剣の道に入った。
剣士としての力や地位は手に入れたけれど、欲しい人は手に入らなかった。
あこがれの人は、ずっとザンザスのものだった。
スクアーロだけが、ザンザスを追いかけているようにみえた。
それなら、チャンスはあると思ったけれど、
とうとうザンザスがスクアーロの大切さに気がついてしまったようだ。
あんなにまっすぐで一途な人はいない。
その剣そのもののように、迷いのない生き方をする。
リスクを恐れず、誇り高く生きる。
その目が見るのはザンザスだけ。
そばに置きたくなるのはあたり前だ。
今ごろ気づくなんて、遅すぎたぐらいなのな。
スクアーロは多くは望まない。
でも、もう望んでいいんじゃないかな。
あんたがしあわせなら、オレもあきらめられる。
おめでとう。
言ったら殴られるから、言わないけれど、オレにとって大切な人なのは変わらない。

「めずらしーな、ザンザス。総出で来ると迫力があるな」
ヴァリアーに近寄ることも出来ず、遠巻きにながめる連中ばかりだったが、ディーノは気にせず近づいた。
ボンゴレの力を見せつけるバーティーだから、
ヴァリアーが来るのは当然だが、
ザンザスがいるだけでヴァリアーの恐ろしいほどの実力を感じさせる。
誰もボンゴレに立ち向かおうとは思わないだろう。
この男を相手にしたい奴は世の中には誰一人としていないだろう。
もちろん、オレもザンザスとは戦いたくねーな。
怒りと憎しみの固まりのような奴だったが、最近、雰囲気が少し変わった。
憎しみ以外の感情に気づいたのだ。
さっきだって、わざとスクアーロの手を一瞬繋いだ。
この場で、わざわざそうしたってことは、スクアーロに手を出すなってことだよな。
オレのものだ宣言だよな。
喜ぶべきか、嘆くべきか。
スクアーロがしあわせになるのは嬉しいけれど、少し寂しい。
ザンザスの存在は血と肉のようなものだから、オレの入る場所なんて最初からないけどな。
最近のスクアーロはまぶしいぐらい綺麗だから、きっとしあわせなのだ。
それなら、いい。
オレが手を引く条件はそれだけだ。
祝福は言わないし、しない。
それはザンザスがしなければいけないからだ。
不器用で言いたい事の言えないザンザスが、必死で考えればいい。
無償の愛が、奇跡に近いものだということに気づくといい。
それほどの値打ちのあるものをこいつは手に入れたのだ。

「ふん。跳ね馬か」
ザンザスは恐れて近寄りもしないカスどもを冷たい視線で眺めていた。
どいつもこいつも、くだらねえやつらばかりだ。
およそボンゴレの役に立ちそうにない。
その点ではディーノはマシな方だ。
見かけより度胸もあるし、実力もある。
したたかで計算高い面もあり、油断すると簡単にヴァリアーにも入りこむ。
ボンゴレの誰にでも友好的に接し、ボンゴレの者ではないかという錯覚すら起こさせる。
食えない奴だ。
敵にするとやっかいな奴だ。
しぶとい奴で、今だにカスザメの前をうろちょろするのを止めない。
ドカスは頭が弱いので、すぐ着いていく。
ガードは誰にでも緩い。
そして、さっぱり学習しねえ。
己のセキュリティの弱さには全く気づかず、いろんな奴に気を持たせる。
色事関係にはまったく疎く、たまに考えているかと思えば、とんちんかんなことしか言わねえ。
黙っていると見飽きないぐらいの姿をしているのに、言動がそぐわねえ。

「ゔぉおおい、跳ね馬ぁ、来たのかぁ!!」
以前のスクアーロならそう言いながら、ザンザスの側を離れた。
側にいない方がいいと思っていたからだ。
でも、今は違う。
このパーティーでわざわざ手をぎゅっと握ってくれたのだ。
めざとい奴らは見ていた。
見せるために、ボスはそうした。
スクアーロも家光がこっちを見ていることに気づいていた。
嫌な嫌な家光を、ボスが牽制してくれたのだ。
ボス、ありがとうなぁ。
オレはボスに誓ったことを守るからなぁ。
どんなことをしても守るからなぁ。
でもって、オレもボスと一緒にいられるように、誰にも殺られないからなあ!!
もっともっと強くなるぞぉ!!
誓ってやるぜぇ!!
いつまでも一緒にいると!!

ザンザスは返事はしたものの、側から離れないスクアーロを見て目を細めた。
ほんの少し、利口になった。
こいつは律儀に約束を守る。
なぜ、いろいろな事を誓わせたのか、早く気づけ。
答えはとうに出ている。
過去の記憶などもういらねえ。
くだらねえことで怒るのもバカバカしい。
てめえは、オレの側にいればいい。
どんな時でも、ずっと。
オレが生きるかぎり、ずっと。

シャマルは、ヴァリアーがパーティー会場に現われた時から様子を見ていた。
現われた瞬間からざわめきが起こり、客たちは彼らから目を離せないでいた。
ヴァリアーの連中はまったく気にしてないようで、好き勝手に移動していた。
ザンザスとスクアーロは、禍々しい雰囲気を漂わせながらも、
ときどき視線を絡ませ、互いの様子を伺っているのが分かる。
一瞬だが、宣言の意味でザンザスが手をつないだ時、スクアーロは顔を赤らめた。
そういうことか。
やっとザンザスは気づいたのだ。
他人に手出しされてはいけないことに。
長かった冬は終わったのだ。
他人の恋愛などどうなってもいいが、やつらがうまくいって何故か嬉しい気分になっている。
マフィアの闇で生まれた子どもたちにも、光が射してもいいはずだ。
地獄のような荊の道ばかり歩いてきたやつらが、安らぎを見つけてもいいはずだ。
ザンザスは御曹司育ちだから常識がない。
スクアーロは剣にしか興味がないから常識がない。
その上、二人とも我が道しか行かない。
その道は常にバラバラで重なることはなかった。
それが、とうとう重なったのだ。
もう二度と間違えるな。
同じ道をともに進め。
巻き込まれるのは迷惑だ。
やつらのことなんぞで、はらはらしたくない。
でも、よかったな、スクアーロ。
大好きな大好きな御曹司がお前を選んでくれて。

沢田家光は、自分がいることに気づいたザンザスが、一瞬だがスクアーロの手を繋いだのを見た。
おーおー、熱くなりやがって。
九代目は、ザンザスがあんな男になると知っていたのだろうか。
あの方の考えていたことは今となっても、分からない。
本当にスクアーロを慈しんでいるように見える時もあった。
スクアーロを使ったことを悪いなどとは思っていない。
我々にとっては都合がよく、楽しめる遊びだった。
ガキじゃないから、激しく淫らな遊びだった。
スクアーロの性感帯を開発してやったのだから、そんなに恨まれる覚えはねえのに、
仇のように睨みやがる。
そんなに大事なら、どうしてもっと早く愛でてやらなかった。
嘘の文句一つで好きなようにできたろうに。
殴って泣かせてばかりだったようなので、同じことをしただけだ。
それが今ごろになって気づいたわけだ。
金持ちは貧乏人の気持ちは分からない。
マフィアは一般人の気持ちは分からない。
いいものばかり食っていると、それがいいものだと気づかない。
ザンザスはボンゴレの地位以外は何でも手に入る御曹司だから、持たざる者の気持ちなど分からない。
一生分からないと思っていたが、
スクアーロにたかる害虫を駆除しようとしているところを見ると、
ちっとはあいつを大切にしようと思い始めたらしい。
あいつの美食ぶりは有名だ。
スクアーロが極上だということに、やっと気づいたらしい。
遅すぎるが、手遅れではない。


九代目の守護者コヨーテ・ヌガーも、ヴァリアーの様子をずっと見ていた。
ザンザスは椅子に深く腰をかけ、泰然と座っていた。
その側を幹部達が取り囲んでいる。
それは実に絵になる光景だった。
ザンザスは、自分が注目を集めていることを知っている。
出席者はヴァリアーのボスの動向を固唾を呑んで見守っていた。
一目で、その実力がただならぬものであることが分かったからだ。
今日のパーティーの主役は無冠の帝王であるザンザスであるとすらいえる。
そのカリスマ性は計り知れず、二代目の血を引いていると誰もが信じるのもうなずけた。
なぜ、ボンゴレの血が流れていないのか。
流れている方が自然な気がするのだが、指輪はザンザスを選ばなかった。
九代目は、ザンザスに何を求めたのか。
スクアーロに何を求めたのか。
今となっては、すべてが謎のままだ。
あの二人が、奥底に潜む色欲への願望を引きずり出したのは間違いない。
今ですら、見る者すべてを魅了し、視線を集めている。
あれは魔物だ。
闇に咲く、悪の華。
ボンゴレが生んだ悪の華。
退廃的な美を漂わせ、破壊と恐怖の王はそこに君臨している。
人々はただひれ伏すことしかできない。
九代目、あなたの望みは何だったのです?
今のザンザスをごらんになったら、どう言われるだろう。
素晴らしい?
それとも、残念ですか?
貴男の不幸もまたあの赤い目の男によってもたらされたのです。
その存在に捉えられてしまったのが、すべての間違いだったのです。
我々は貴男に誓った。
命を賭けて守り、ついていくと。
けれど貴男はもういない。
私にはもう守るべきものはない。
守るのはあなたが愛したボンゴレだけだ。
赤い目の少年は、立派な男になった。
貴男が愛した子どもは、もう我々の手の届くところにはいない。
すべてを支配できるほどの男になった。
九代目がたわむれに抱かれた身体は、ザンザスの元に戻った。
スクアーロはもともとザンザスのものだった。
望まぬ関係を強いられ続けていたが、ずっと耐え続けていた。
それがあるべき所に戻ったのだ。
それで、いいのだ。
誰もが罪と罰を背負って生きている。
ザンザスとスクアーロは罪を犯し、罰を課せられた。
でも、もうやつらが罪を犯した九代目はおられない。
罰も必要ない。
解放してやってよいのだ。
憎しみを忘れてやってもよいのだ。
きっと生きておられたら九代目はやさしい笑顔を向けられるだろう。
持たざるものへの施しの笑みだ。
ザンザスが憎んで止まない、慈善の笑みだ。
どうしてあんなにすれ違ってしまったのだろう。
どうしてあんなに歪んでしまったのだろう。
憎しみたくはなかったはずだ。
怒りを持ちたくもなかったはずだ。
憐れみたくもなかったはずだ。
すべては過ぎ去ったことだ。
もうどうにもできない。

彼らは明日を見つめて生きている。
遠い明日を信じて戦い続ける。
その存在は、希有にして最強。
一人一人でいても十分目立っているが、
ともにいると、さらに輝きを増す。
彼らは闇に咲く悪の華。
ボンゴレがある限り、闇の中で華は咲き続ける。
美しい姿や香りで人々を惑わせ魅了し続ける。
迂闊に触れると、その刺で刺される。
凶悪で美しい刺のある華。
もう決してしおれることはない。

悪の華は、
永遠に咲く。
遠い明日まで、
ずっと。
 














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