ゼフ・サンジ
 
 
 

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レストランはものめずらしさもあり、
客足が絶えることはない。
今日もさまざまな客がやって来る。
家族でおとずれる客。
恋人とおとずれる客。
友人とおとずれる客。

どんな客にも最高の料理を出す。
もう一度来たいと思わせるような味。
バラティエはそう思わせる店だった。
こわもてのコックに、
ウエイターは怯えてやめていくものも多い。

客が多ければ、多いほど、
仕事は多い。

昼が過ぎ、
夜になっても客足が絶えることはない。

ゼフは閉店まぎわのレストランを眺めた。
最後の客が幸せそうな笑顔を浮かべて出ていく。
おそらく恋人どうしの祝いの食事だったのだろう。
今日もこのレストランはきちんと仕事をした。

海賊の時代とは違う。
あか足のゼフと呼ばれ、
恐れられた時代は、
緊張と冒険に満ちていた。
死と生とつねに隣合わせの生活。
今は違う。
だが、自分は変わったとは思わねえ。
自分のやりてえことをやる。
同じだ。

ゼフは明かりの消えかけた厨房の隅にいる小さな子供を見つけた。
「ガキは寝る時間だぞ。
チビナス」

小さな手のひらで懸命に何かをまわしている。
フン、卵をまぜる練習か。
時々下ごしらえをまかされるようになったので、
いつも懸命に練習している。
だが、うつらうつらしながらの練習などしない方がましだ。

「チビナスって言うな!!
クソジジイ!!」
口だけは達者に言い返す子供。

「チビナス。
今から一度だけ、
手本を見せてやる」
ゼフの言葉にサンジは表情を変えた。

何一つアドバイスなんかくれず、
殴ってばかりのクソジジイが、
何でかしらねえけど、
料理を教えてくれる!!

ゼフは黙って材料を準備した。
小麦粉。
卵。
バター。
チョコレート。
砂糖。
リキュール。
さまざまな食材が準備されると、
料理にとりかかる。

すげえ。
すげえ。

サンジは無骨なゼフの手が滑らかに動くのを見た。
手品みてえに見事に粉をまぜ、
かき混ぜる。

すげえや。

無駄のない動きで、
まぜられた材料は、
奇跡のように形を変える。

クソジジイが見せてくれてる。
きっと、本当に一度きりしかねえ。
だってジジイはウソはつかねえから。

だから、
見ておくんだ。

ゼフはかぶりつくようにして見ているサンジにちらりと目を落とす。
必死で見ている。
いつもは見ていたらケリ出した。
自分の道は自分で見つけなければならない。
人に教えてもらおうなんて甘ったれたガキは論外だ。

まぜた材料を型に入れ、
オーブンにセットする。
焼いている間にチョコレートを溶かす。
甘い香りがキッチンに漂う。

サンジはゼフの一挙一同を見のがすまいとした。

やっぱり、
すげえ。
なんて・・・。
なんて見事な動き。
すげえな。
使った後だって全然よごれてねえし。
あっという間にタネつくって。

・・・ケーキかな。

甘そうで、
やわらかそうで。
極上のスポンジが出来てる。

わあ・・・。
焼き上がった。
すげえな。
うまそうだ。
ほかほか湯気がたって、
見事な色だし。

ゼフは言葉もなく見続けるサンジの目の前に焼き上がったスポンジを置いた。
それから、少し冷やすと、
とかしておいたチョコレートをかける。

サンジはいつもの憎まれ口をたたく余裕もない。
・・・こうしてりゃ、
ただの子供なんだがな。

周りが固まったところへ、
ホワイトチョコを絞り込む。

ああ、字を書くんだな。
クソジジイがこんなに集中して、
ゆっくり書くなんて。
そうか、
飾りはおそろかにしちゃいけねえんだ。
ココが一番大事なんだ。

ゆっくり、
ゆっくり、
集中して、
キモチをこめて、
文字や模様を書くんだな。

そう、
キモチをこめて。
今、ジジイはキモチをこめて書いてるんだ。

H・・・a・・p・・p・・y

B・・i・・r・・t・・h・・d・・a・・y

ああ、息を止めて書くんだ。
誕生日のケーキだ。
そうか、
誕生日のケーキって簡単につくれるもんじゃねえんだ。
ジジイですら、
こんなに張り詰めて、
字を書くんだ。
 

まだ、
書くのか・・・。

S・・・

a・・

n・・

j・・・

・・・・

途中から、
字が・・・。
字が読めなくなった。
なんて、
書いてある?

そんなはずはない。
そんなはずは・・・。
だけど・・・。
ジジイは・・・。

涙が出た。
何でか分からねえけど。
ぼろぼろ出た。

何で・・・。
何で・・・。

ひとりぼっちの誕生日。
そんなの平気だ。
いつもそうだったし。
オレはそんなの慣れてる。
どってことねえ。

なのに、
どうして。
 
 
 
 
 

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