忘却の空
 
 

温室

ワイパー×サンジ
 
 

3
 
 
 
 
 
 
 
 
 

サンジは激しく貫かれて、喘ぎ声をあげた。
閉じ込められた自己を解放する方法をサンジはこれしか知らなかった。

なぜ、自分は生きているのか?
なぜ、自分は生かされたのか?

分からない。
分からないけれど、
毎日、朝は来て、夜は来て、また新しい一日がはじまる。

幼いサンジを拾って来たゼフに対する罪の意識。
自らを罰し、全てを忘れるためには、こうするしかないんだ。

どんなに笑っていても、
どんなに怒っていても、
いつでもゼフの影がつきまとう。

ジジイは偉大だ。
だけど、苦しい。
その存在に圧迫されて、息ができない。

逃げることなどできない。
戦うこともできない。

ジジイに自分の空虚さを見抜かれるのは恐ろしい。
ジジイに自分の醜さを見抜かれるのは恐ろしい。
自分の中味はからっぽだ。
中を空けると空洞だ。

オレはすでに存在しなかったはずの人間。
もともと産みの親の名前すら知らない。
誰も頼るものはなく、
心を許すものもない。

年端もいかぬガキのころから、
人をうらやむことは嫌だったから、
誰かを憎み生きて来た。

苦しみの根源は、
他人のせい。
そう思うと、すべてが簡単になる。
オレは悪くなんかない。
人を愛せないオレは、悪くなんかない。

オレのいた孤児院はどこかの組の息がかかっていたらしい。
突然の襲撃を受け、
片っ端から邪魔なガキどもは撃ち殺された。
オレももちろん「邪魔なガキ」に入っていたはずだった。

なのに、ゼフはその脚を犠牲にしてまで、
オレを助けた。

どうして?
どうして?
どうして?

熱を失い朽ちる骸になった「仲間であったもの」から目をそらすことのできないオレは
ジジイに抱き上げられた。
そして、オレはバラティエ組に連れてこられた。

ジジイは何一つ理由を言わなかった。
オレも理由を聞かなかった。

聞くのが、恐ろしいから。
 
 

オレに与えられた、
上等の布団。
きちんとした教育。

これは一体何だ?

何も求めず、どうしてこんなことをする。

だってよ、こんなことをされたら、困る。
オレにはそんな値うちはねえのに。
オレはジジイを憎めなくなっちまう。
誰かを憎んでしか生きてこなかったのに。
 
 
 

苦しい。
もう何も考えたくない。

だから、いつもワイパーのところに来る。
ワイパーはオレに罰を与えてくれる。

身体の奥深くまで入り込み、
オレがオレであることを忘れさせてくれる。
 
 
 

苦しくて、
だけど気持ちよくて、
何もかもがどうでも良くなる。

もっと、めちゃくちゃにして。
オレに足りないものを入れて。
 
 

ワイパーが触れた部分が熱い。
熱くて熱くて焼き切れそうだ。
このまま炎になって燃えつきてしまえたらいいのに。
そしたら、再び正気に戻って自分のしていることを悔いることなどない。
 
 

薄汚れたガラスに映る、
重なりあった裸体。
広い部屋に響く声。
 
 
 

これは罪。
 
 
 

もう後戻りなどできない。
快楽にはより強い快楽を。

麻薬と同じだ。
こんなことを続けているのは正気じゃない。
でも、止められない。

一時の快楽を求め、全てを投げ出す。
一時の忘却を求め、全てを捨てる。
 
 
 

ここは閉ざされた世界。
ここでは何をしても自由。

誰もとがめず、
誰の目も気にしなくていい。

罪を犯しても、誰も気づかない。
抑圧されていた自我が解放を求める。

どうして、人が決めたよりよい道を望めないのかは分からない。
ゼフが望むようにどうしてふるまえないのかも分からない。

望むようにできない自分を責め、憎み、失望して、
それでもジジイのもとで生きていくしかない。

オレは清く正しくがんばりたかった。
でも、できない。
言う事を大人しく聞き、
言われたことだけをするなんて、できない。
 
 
 

いくらがんばっても、できない。
 
 

だから、オレはここに来る。
ジジイの食材をくすね、
淫行をするためだけにここに来る。
 
 

ワイパーはオレを助けてくれると思ったけど、
今となってはどうだか分からない。

もう、引き返せない。
身体はワイパーに抱かれることを喜び、
待ちわびている。
 

うすい膜を破るように、
ワイパーは少しずつオレの中心に近づいてくる。
オレはそれを喜び、
それを恐れる。

ワイパーがオレを狂気のように欲しているのを知りながら、
何気ない顔をしてここに来る。
 
 
 
 

ワイパーに身体を差し出し、
銃の撃ち方を教えてもらった。

ジジイが決して教えてくれないようなことは全部ワイパーから聞いた。
 
 

いつか。
これは自分の血と肉となる。
 
 

だけど、
今はこの快楽に溺れよう。

快楽に酔いしれ、
そしてまた、罪を重ねる。
 
 
 

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