忘却の空
 
 

温室

ワイパー×サンジ
 
 

4
 
 
 
 
 
 
 
 
 

くり返される情事と、
次第に失われていく理性。
八方塞がりの日常から逃れられる唯一の手段。
その時だけはワイパーもサンジもすべてを忘れ、
ひたすら快楽の高みにとんだ。

その行為は麻薬のようにサンジの身体と心を蝕んだ。
サンジはずるずると快楽に溺れた。
ワイパーに命じられるまま、
身体を開き、
男を受け入れた。

それが背徳的な行為だと知っていたから、
誰にも言わなかった。

あの強くて誰もが恐れるワイパーが、
オレを欲しがり、
オレの目の前でひざまずく。

そうすると、オレはとてもいい気分になる。
 

「あっ・・・んんっ・・・」
サンジは組み敷かれて喘ぎながら、
うす汚れた天井を見た。

オレにはこの天井と、床と、壁と、
ワイパーの身体しか見えない。
いつも同じ。
オレたちはここで繋がることしか許されていない。

したたりおちるワイパーの汗がサンジの身体を濡らす。
喘ぎ声はワイパーの口で塞がれて、
声すらも失われる。

規則正しく、
時には乱暴に、
サンジの身体の奥深くにリズムを刻み続けるワイパーの熱。
焼かれて、
燃えて、
真っ白になるまでこうしていたい。
サンジはワイパーに答えるように、
夢中で腰をふった。

欲しければ奪えばいい。
欲しければ求めればいい。

時を忘れ、
ワイパーとサンジは交わり続けた。
 
 
 
 

いつの間にか、
あたりに闇が立ちこめていた。

歪んだ時間の中、
サンジは我に帰った。

「もう・・・行かねえと・・・」
身体を離そうとしたら、
ワイパーの手ががっちりと腰を掴んだ。

「まだ、足りない」
サンジの中はワイパーの精であふれ、
より深い結合に押し出されたそれは太腿を伝い、ぽたぽたと床に落ちた。

「あっ・・・だめだって・・・。
・・・ジジイが・・・」
喘ぎながら言葉を吐き出すサンジに、
ワイパーは動きを止めた。
 
 

ジジイ。
偉大なるゼフ。
あの男さえいなければ、
サンジはオレのものだ。
サンジの一番はオレのはずだ。
まさか、あの男はサンジを抱いてはいないだろうな。
サンジの身体には、オレのつけた痕しか残っていない。
だが、必要とあれば、痕をつけずに抱くこともできる。
 

ワイパーはサンジをつきあげながら、囁いた。
「ゼフから解放されたら、
オレだけのものになるか?」
 
 
 

自由に。
自由になりたい。
ゼフの壁は偉大すぎる。
その高い壁に阻まれて、身動きすらできない。
窒息する。
必死であがいているのに、苦しい。
壁に塞がれたこの場所ではないどこかに逃れることができたら。
 
 

「オレが、お前を自由にしてやる」
 
 

ワイパーの言葉にサンジはかすかにうなずいた。

重ねられた罪を消すことなどできない。
与えられた宿命から逃げ出すことなどできない。
 
 
 
 

ただ、目を反らしたかっただけなのだ。
少しの間、
気を紛らわしたかっただけなのだ。
 
 
 

サンジは唐突に離れたワイパーの様子がおかしいことに全く気づかなかった。
 
 
 

身体が離れた瞬間、
いつもその情事の名残りの欲望を身体に漂わせながらも、
サンジは後悔した。
後悔するのに、
ワイパーに求められたら、
止めることなどできない。

サンジはのろのろと服を身に付け、
ふらふらと立ち上がった。
 

厨房に帰るのだ。
どんなに苦しくても、
自分の居場所はそこにしかない。

ジジイのもとに帰るのだ。
料理していれば、
嫌なことは忘れられる。
 
 
 
 
 

今日を乗り切れば、
明日が来る。
明日を乗り切れば、
明後日が来る。
いつか終わりが来るその時まで、
そうやって生きていけばいいのだ。
そうやって生きていくしかないのだ。
 
 
 
 
 
 

5
 
 

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