11
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act11*葛藤
ゾロはブランカが目覚めるのを待った。
サンジ。
そっと触れるが反応はない。
慣れ親しんだ肌の感触。
だが明らかに違う痩せた身体。
サンジは細いが、抱きしめてもいくらでも耐えることができた。
だが、これはどうだ。
目の前に横たわる身体は少し力を入れても壊れてしまいそうだ。
陰性植物のような暗い輝きを放つ身体。
ほとんど陽にさらされていない白い肌。
自分をなくすとこれほど弱くなるものなのか。
夢を失うとこれほど脆くなるものなのか。
サンジ。
お前の夢は消えることはない。
オールブルーがある限り。
夢に終わりはないんだ。
終わらせてはいけないんだ。
生あるかぎり道は開ける。
だからオレとともに行こう。
オレはお前と行きたいんだ。
未来への道を。
*
*
頬に触れる暖かい手の感覚。
ブランカはゆっくりと目を開けた。
既視感。
懐かしい。
目の前には緑の頭の剣士。
ダレダ、コレハ。
水面に浮かびあがった感覚は水中深く沈んでいく。
ああ、ゾロって奴だ。
ここ、どこだ?
ブランカは天井を見た。
うす汚れた部屋の内装を見た。
見覚えがない。
記憶を辿る。
連れてこられた。
その事実に気づいた途端身体が震えるのが分かった。
オレのミスだ。
どうしたらいい?
早くボスの元に帰らねえと。
だってボスのところでしかオレは生きられないんだから。
何でか知らねえけどそう決まってるんだ。
*
*
「サンジ」
ゾロは目の前で身体を固くしているブランカにそっと触れた。
ブランカは目を見開いた。
この男はその「サンジ」を愛している。
だけどそれはオレじゃない。
「サンジ」
ゾロはもう一度名を呼んだ。
細い首に手をかける。
ブランカはされるままになっていた。
少し力を入れるだけでこの命は手に入る。
ゾロはゆっくりと力を入れた。
もう苦しむのは嫌だ。
もうこんなサンジは見たくない。
これはサンジじゃない。
オレには分かる。
こいつは生きたいと思っていない。
だったら、オレがここで仕留めてやってもいい。
これ以上身体を汚さねえように。
オレのためにこいつを殺してもいいのか。
目の前の無抵抗な身体。
だが、殺さなければ、犯ってしまうだろう。
そうしたら、あの男と同じになってしまう。
この身体の虜に。
空っぽな身体。
そんなものに夢中になるのは嫌だ。
他に道はないのか。
一度身体に溺れたら、もう抜け出せない。
肉欲の世界には踏み込みたくねえ。
サンジが「サンジ」として生きられねえなら。
せめて、オレが手を下してやろう。
オレはこれまで数限り無く人を斬ってきた。
今更だ。
サンジ。
お前はもうオレの夢の奥まで食いつくしちまった。
オレも限界だ。
お前の命を奪う罪。
そのために受ける罰。
そんなものは恐ろしくねえ。
もうオレは業火に焼かれている。
お前を見る度にオレの身体を覆い尽くす黒い狂気。
もう終わりの時はそこまで来ている。
全てを終わらせるといい。
お前がいても、お前がいなくても。
もうオレも生きられない。
*
*