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誰がそれを言い始めたのかは分からない。
「凶剣」
その男の剣はそう呼ばれた。
不吉で魔物のような剣。
誰も剣を交えようとはしない。
「剣豪ゾロ」
「三刀流のゾロ」
誰一人知らぬ者はない剣士。
だが、不吉なその剣に誰もが戦うのをためらう。
「あれは凶剣だから、剣を交わしてはいけない」
もはや誰も戦うものはない。
ゾロの持つすさんだ雰囲気に人は怯える。
誰も近寄らない。
小さな港の小さな飲み屋。
浴びるように酒を飲んでいる男。
緑の髪にイヤリング。
腰には三本の刀。
「なあ、兄さん、人を探してるんだって?」
ずるそうな小男が側に近づく。
「あんたロロノア・ゾロだってな。あの大剣豪の」
返事がなくてもその小男は続けた。
「かの海賊王の仲間がこんなところに人探しとは・・・」
ゾロは黙ったまま、その小男を睨み付ける。
途端におどおどする男。
「あんたの探してる男によく似たヤツをしってるんでな・・・」
「うるせえ。さっさと言え」
「わわわ・・・わかったよ。」
びびりまくる男。
「うちのシマを仕切ってる奴のとこにいるブランカって奴なんだけど」
「どんな奴だ?」
「金髪で眼鏡かけてて、巻き眉で・・・」
ガタン。
椅子を蹴ってゾロが立ち上がる。
「そいつはどこにいる?」
胸ぐらを掴まれ小男は怯えた。
「そんな、すぐには会えねえよ。ボスの愛人らしいし・・・」
「どこに、いる」
ゆらりと立ち上がり、剣を抜くゾロ。
小男はじりじりと後ずさる。
なんて冷たい目だ。
コイツは気違いじゃねえか。
変な欲を出すんじゃなかった。
酒場の空気は一変した。
凍りついたような時間。
誰もが分かる。
小男がゾロの機嫌をそこねたら死しかないことを。
「言うよ。だからその剣をひっこめてくれ!!」
ゾロは憎悪に満ちたまなざしで小男を見つめた。
小男から聞いたこと。
そいつの名前はブランカ。
サンジに良く似た男。
黒いスーツで。
タバコを吸ってて。
金髪で巻眉。
長い前髪。
同じだ。
ボスの秘書で。
愛人。
料理なんかしない。
船にも乗らない。
暴れたりもしない。
女好きでもない。
違う。
雷鳴。
雷雨。
最後の戦い。
海賊王になるための。
オレたちは全ての力を出して戦った。
オレはサンジのあの時のまなざしを忘れない。
信じられないという顔をしてオレを見た。
オレはあいつの手を離す気はなかった。
どんなことがあっても。
なのにあいつはオレの手を離した。
涙に濡れた瞳。
どうしてだ。
なぜ自ら海中に身を投じた。
オレは腕を切ってもよかったのに。
オレはその時失ったものの重さを知った。
唯一無比。
気づいた時、サンジはもういなかった。
オレの側から消えちまった。
どうしてだ。
お前は生きている。
オレがお前の死を目の前に見るまではオレはあきらめねえ。
サンジ、お前にはオレの声が聞こえねえのか。
お前にはオレの想いは届かねえのか。
オレはお前を探す。
探す。
オレの邪魔をする奴は斬る。
斬ってばかりだ。
なのに見つからねえ。
どうしてだ。
だが、オレは這ってでも探す。
オレの心はお前を呼んでいる。
サンジ。
オレはてめえのところに行く。
*
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