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act8*用心棒
また、いる。
ブランカはゾロの姿を見つけた。
最初に会ってから、毎日のように姿を見かける。
ボスはあの男を雇ったらしい。
用心棒として。
海賊王の剣士。
誰かがそう言っていた。
それはどんな人生なのか。
オレのとは随分違うだろう。
この町で生まれて、育って。
知っている人間もごく僅か。
自由。
オレはそんなもの知らねえ。
今だってボスの所有物だ。
ゾロは「ブランカ」を見た。
何を思ったのか、「ブランカ」を愛人とする男はゾロを雇いたいと申し出た。
サンジだと断定できないゾロは不承不承その話に乗った。
つまらない用心棒の仕事。
たまに見かける「ブランカ」はいつもボスにぴったりと寄り添っていた。
けだる気で無表情な白い顔。
あの支配者に愛されているという肢体。
あまりにもサンジと似ている。
あまりにもサンジと違う。
目の前を横切るブランカ。
声をかける隙もない。
*
*
「オイ」
声を掛けられてブランカは振り返った。
そこにはロロノア・ゾロがいた。
「眼鏡見せてくれねえか」
ボスの仕事が遅れ、待ちくたびれたブランカは誰もいないはずの遊技室に入った。
だがそこにはゾロがいた。
全然気配しなかったな。
ブランカは黙って自分の眼鏡を差し出す。
だが、ゾロの視線は眼鏡にはない。
ゾロはブランカの顔だけを見ていた。
「なあ、てめえサンジだろ?」
ブランカは黙ってゾロを見ていた。
こいつは誰だ?
オレハコンナヤツハシラナイ・・・。
ゾロはぼんやりと突っ立って自分を見ているブランカに近づく。
確信に近い思い。
本能が告げている。
コレハサンジ。
どれほど違って見えようとも。
どれほど変わってしまっても。
サンジだ。
理屈ではなくて。
なんの証拠もなくて。
でも、サンジだ。
どうしてなのか分からねえけど。
サンジだって分かる。
オレには分かるんだ。
ブランカはゾロをじっと見た。
分からねえ。
知らねえ。
オレには分からねえ。
奥の部屋で声がした。
「ボスが帰ってきた。オレは行かねえと」
ブランカはゾロの横を通りすぎようとした。
「待てよ!!」
ゾロはとっさに「サンジ」の腕をつかむ。
簡単に腕の中に落ちてくる相手。
思わず口付ける。
抱きしめられた腕の中で力弱くもがくブランカ。
激しい口付けに目眩がしそうだ。
ゾロは理性が飛んでいくのを感じる。
駄目だ。
止まらねえ。
このままでは何をするか分からねえ。
ぎりぎりのところで踏み止まり、手にした相手を突き離した。
急に突かれたブランカはバランスを崩して床に倒れた。
うなだれた顔。
かすかに震える身体。
それすら扇情的。
ゾロは歯をくいしばった。
人の気配に我に返る。
咄嗟にゾロは隣室へ姿を隠した。
息が苦しい。
あまりにサンジが欲しくて。
あいつといると完全に理性がとんでしまう。
ブランカは必死で立ち上がる。
ボスに見つかったら?
オレは罰を受け、アイツも酷い目にあわされる。
駄目だ。
それは駄目だ。
どうしてだか分からねえけど、とにかく駄目だ。
急いで逃げ出す。
今の自分の顔は誰にも見せられない。
隠さなくては。
*
*
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