Delirious  Blizzard
 
 


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頂上が近づくと、
視界が開けてくる。
かぎりないパノラマの風景。
それはその場に立ったものでないと分からない壮大さだ。

写真だとか映画とか文章では伝わらない圧倒的な世界。
 
 
 

「オイ、こっからは自分で歩け」
頂上間近になってゾロが突然ウソップを下ろした。
それからゾロは振り返りもせず、
頂上をめざして歩きはじめた。

「あわわわわ」
ウソップは雪にまみれながら、
あわてて立ち上がった。

目に入るのは、
先を進む山岳部員たちと、
かぎりない青い空。
担がれていた時には見えなかった、
青い空。

ウソップは声もなく見とれた。
世の中にはこんなに美しいものがあったのか。

立ち尽くしているといきなり後ろから蹴りを入れられた。
「うおっ!!!」

「とっとと行けよ」
サンジがまた最後尾になり、ウソップをせきたてる。

・・・オオオ、オレは歩くんだ。
歩いてあそこへ行くんだ。
ウソップは必死で重い足を前に進めた。

どんなに遅くても、
どんなにゆっくりでも、
歩みを止めないかぎり、
前へ進める。
やがて、頂上がやってくる。
まぶしく輝く白い雪と、
青い青い空。

「オオオ、オレは今、猛烈に感動している!!!!」
ウソップは雪につっぷして泣いていた。
美しすぎる風景に。
絶対の存在に。
登ることのできた僥倖に。
登らせてくれたゾロやサンジに。
溢れる想いに胸がいっぱいになる。
 
 
 
 
 

ゾロは空を見上げた。
風を感じる。
下界では感じることのない研ぎすまされた感覚。
澄んだ空気。
見渡すかぎりの雪山と青い空。
ここにしかない空間。
これを手に入れるために長い時間をかけてここに辿り着く。
本来なら人が存在するべき場所ではない。

空を見上げ、
ふと視線を横に向けた。

サンジがいて、
笑っていた。
それは幸せそうでいて寂しそうな笑顔だった。

ゾロはそれを見た。
 
 
 
 
 

「オイ、ロロノア・ゾロ」
部長の声にゾロは我にかえった。
「風に向かって進むだけなのは、利口じゃねえ」

あア?
オレのことか?
ちっとは部員どもに合わせろってことか。
明らかにオレはこの部では、はみだしてるさ。
こんなペースの登山では満足できねえ。
だが、他の奴はこれで充分らしい。
ぐったりして座りこんでやがる。
ここまで来てみれば分かる。
更に先が見えるのは、
スモーカー、あんたと、
そこのサンジ。
そのくれえしかいねえようだ。
ゾロはスモーカーを睨み返した。

あんただって同類だろ。
こんな登山では満たされねえ。

「山は独りでは制覇できねえ。
人生も同じだ」
スモーカーの言葉にゾロは反論した。
「他人なんざ必要ねえ」

「てめえにも、そのうちわかる」
スモーカーはそれだけ言うと、
背中を向けた。
 
 
 
 

ゾロは再び青い空を見つめた。
なぜ山だけを見ていたらいけねえんだ。
オレはくだらねえ部員どもに合わせるつもりは毛頭ねえ。
オレはオレの道を進む。
それは誰にも指図されねえ。
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 

「オイ、あの雲を見ろ!!!」
不意に誰かが叫んだ。
山の天候は変わりやすい。
雲はすべるように流れていく。

今まで視界に入らなかった雲が大きさを増し始めている。

雪雲だ。
ゾロは直感した。

「下山する!!!」
スモーカーが指令をくだし、
部員たちはあわてて下山の準備をはじめた。

でけえ雪雲だ。
あれ程でけえのは、
見たことがねえ。
ゾロは身体の中からぞくぞくするようなうねりを感じた。
興奮か、
恐怖か、
不安か。
まるで敵を前にしての戦慄だ。
雪山での負けは死を意味する。
勝ちは生だ。
 
 
 

嵐が近づいていた。
 
 
 
 


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