Delirious  Blizzard
 
 


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夢を見た。

真っ白な雪の中、
ずっと目の前には大きな背中。
サンジはその背中に向かって呼びかけた。

「ジジイ!!
オレを置いてく気かよ!!!」

その背中の主は振り返らずに答えた。

「そうだ、チビナス。
てめえも大人になったら、
オレを追いかけて来い」

どんなに叫んでも振り返らない男。
オレは、
知っている。
それが誰だか。
 
 
 
 
 

「・・・・しろ!!!」
誰かの声がする。
いつか抱き上げられた記憶の中の誰か。
・・・あったけえ。

ああ、オレはこの腕が欲しかったんだ。
・・・・このぬくもりが・・。
 
 
 
 
 

「オイ、しっかりしろ!!!」
記憶の中とは違う声がサンジを呼んでいる。
それから、乱暴に頬をたたかれた。

・・・あ・・・、
ジジイじゃ・・・ねえ・・・。
・・・違う・・・。
ジジイじゃ・・・・。

ああ、そうか。
ジジイはもういねえんだ。
雪の山に登って、
そして二度と帰らなかった。

・・・そうだ。
この山に登って、
帰って来なかった。

この山のどこかにジジイはいる。

それなら・・・、
オレもここにいてもいいかな。
 
 
 
 
 
 

ゾロはぼんやりとしているサンジの頬をさらに強くはたいた。
雪崩に巻き込まれ、
一瞬意識を失った。

雪の中から這い出した時、
すぐ側に倒れているサンジに気づいた。
身体は半分雪に埋もれ、
まぶたは閉じられていた。

助けねえと。
ただ、その思いしかなかった。
必死で嵐のあたりにくいところに引きずってきた。

雪のせいで自分も感覚がはっきりしない。
白い顔。
ぐったりした身体。
その存在だけがゾロを動かした。

何度も怒鳴るようにして声をかけ、
身体を揺すぶった。
やっとゆっくり開いた、
焦点のあわない瞳。
 
 
 
 
 

サンジの瞳からは、
涙がこぼれ落ちていた。
流れ出た瞬間に、
氷の結晶と化す涙。
 
 
 
 

ゾロは言葉も失ってそれを見た。
 
 
 
 
 

触れてはいけないものに触れてしまった気がした。
 
 
 
 

吹き荒れる嵐の中、
ゾロはサンジの顔をただながめていた。

声も出なかった。
何を言ってもいけない気がした。
 
 
 
 

ゾロは思わず手を伸ばした。
サンジの白い顔を冷たい手がなぞる。
 
 
 
 

サンジはだんだんと感覚を取り戻して来た。
目の前にいるのは・・・、
自分を育ててくれたクソジジイじゃなくて・・・・。

同じ山岳部のゾロ・・・。
ムカつく愛想のねえ筋肉男のゾロじゃねえか。
オレ、なんでコイツのことをジジイだなんて・・・。
オレ、なんでこんなとこにいるのか。
コイツ、だよな。
オレをここに連れて来たのは・・・。
 
 

ああ、
そういうことか。
 
 
 

ゾロはサンジが意識を取り戻したのに気づいた。
そして我にかえった。
 
 

吹き荒れる嵐。
見えない視界。
見渡す限り、雪。
いくら考えても結論は一つ。
 
 
 

「オレたちは、遭難したんだ」
 
 
 
 
 


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