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クロコダイルの「お籠り」は、
ここのところますます盛んになっていた。
すべての権力を手に入れ、
向かうところ敵なしとなった今、
自由な時間を生み出すことはたやすい。
それなのに、人前にはほとんど顔を出さず、
クロコダイルのために作られたカジノや闘技場、
ショー会場などに足を踏み入れることもなかった。
なんて、清廉潔白なお方なのだ。
あの方こそ、われわれの主にふさわしい。
人民の熱狂的な歓声はますます高くなるばかりだった。
人々はクロコダイルによる支配を喜び、
王位について欲しいと熱望した。
クロコダイルはしばらく民衆をじらした後、
王位につくことに同意した。
民たちは進んでクロコダイルのための城を建てはじめた。
尊敬と、憧憬と、愛情と。
誰もが誇りを持ち、
貧しいながらせいいっぱいの寄付金を差し出した。
クロコダイル王が幸せになるならば、
身を削ってもかまわない。
人々は競うようにして、
持てるものを差し出した。
慈悲深い我らの王に、捧げものを。
それは民としてのつとめ。
何も知らない民衆と違い、
クロコダイルを知るものは、
恐れおびえながら捧げものをした。
クロコダイルに服従するもののみが、白く潔白。
逆らうものは、真っ黒な罪を負わされる。
真実を語ろうとするものは生き延びることができない。
生きて行くためには、
クロコダイルの手先のようになり、
自らの意志を捨てて動くしかない。
考えてはいけない。
逆らってはいけない。
真実は死んだ。
正義は死んだ。
残されたのは罪と闇と偽りの笑顔だけ。
クロコダイル王のための私室がどのようなものであるか、
人々が知る必要はない。
どれほど贅をつくし、作られているか知る必要はない。
「すばらしい部屋だわ」
設計書を手にしたニコ・ロビンはつぶやいた。
要塞のように幾層もの警備箇所を乗り越えていった広い空間につくられた豪華な部屋と、
華やかな庭や水場。
出入り口は少なく、
使用人の部屋もごくわずか。
ここは、あのコのための箱庭。
あのコを愛でるための場所。
あのコと二人きりで過ごすことを目的としてつくられた巨大な建造物と庭。
クロコダイルはそこに誰一人入れるつもりはない。
アルビダと、私は世話係として認知されたようだ。
あとは数人の、しゃべれないように舌を切られた召使い女と、
宦官にされ、舌まで切られた奴隷をここに置く気だ。
どうやら彼らを総括するのは私のようだ。
クロコダイルはあのコに気を許している。
思い知るがいいわ。
あのコがもし失敗しても、
クロコダイルに与えるダメージはとてつもないものだ。
たった一人だけ愛する相手に裏切られる苦しみ。
クロコダイルのみつけた大切な宝。
それは、決してあの男のものにはならない。
いくら抱いて汚しても、
決してあの男のものにはならない。
サンジは私たちに残された、
最後の希望。
闇の中で消えそうになりながらも、
輝き続けている。