◆
105
◆
「ロロノア・ゾロ、おれと戦え」
鉄球を持った顔色の悪い男は、
突然攻撃してきた。
「社長!!」
運転手が叫び、
ロロノア社長はかろうじてその球をかわした。
「誰だ、君は。
私は、君を知らない」
社長はあくまで冷静に話を続けた。
「貴様は・・・あの人を捨てたんだ・・・。
あの人こそ本当の天使なのに・・・!!
それを・・・もてあそんで・・・捨てた!!
その上、お前はのうのうと仕事を続け、
オールブルーまで差し出した。
おれは、お前を許さない!!」
「なんのことだ・・・」
社長はいつもの頭痛が襲ってくるのを感じた。
顔色の悪い男の鉄球が腹に当たったが、
視界がぶれ、世界がゆがんだだけで、不思議と痛みを感じなかった。
男を止めようとした運転手が一振りで、
叩きのめされるのを、
スローモーションのように見た。
こんな痛みなど・・・、何でもねえ・・・。
おれは・・・もっと・・・。
頭がずきずき痛んだ。
「おれはお前を殺す!!
ロロノア・ゾロ!!
剣をとれ!!」
社長の腹にまた鉄球が当たり、
社長は血を吐いて、膝をついた。
目の前には、
刀が投げられた。
・・・刀?
おれは、こんなものは知らん。
頭はますます痛み、ぐるぐると世界が回りはじめた。
それでも、社長はなんとか刀を手にした。
・・・しっくり来ねえ。
こんななまくら刀じゃだめだ。
それに、数も足りねえ・・・。
「死ねーーー!!」
鉄球が振り下ろされ、
血を流しながら、
倒れて様子を伺っていた運転手は、
思わず目を閉じた。
おそるおそる目をあけると、
刀で男の鉄球を受け止める社長の姿があった。
ばかな。
社長は、ロロノア・ゾロの双子の弟で、
別に育ち、剣などもにぎったことのないエリートだと・・・。
ロロノア・ゾロは死んだのだと・・・。
社長は、
無意識のうちに、
鉄球を受け止めた。
身体が勝手に動いた。
鉄球の男の動きが手に取るように分かった。
その動きに合わせて、
剣を動かすのが、
楽しかった。
命を賭けた戦いであると分かるのに、
楽しかった。
自分の中にこんな感情があるのだと思うくらい、
わくわくした。
なぜ、身体が動くのか分からなかった。
自分はスポーツなど無縁のはずなのに、
男の動きが見切れた。
真っ暗な部屋の扉があき、
光が差し込むような感覚すらした。
刀はずっと自分のそばにあった。
片時も離れない友だった。
身体は動き、
心は無になった。
「一刀流獅子歌歌!!」
鉄球の男は、
一撃のもと崩れ落ちた。
崩れ落ちながら、涙を流した。
「ロロノア・ゾロ・・・。
あの人を・・・、
サンジさんを・・・助けてくれ・・・」
その男は、
泣きながら懐の中から、
震える手で緑色のものを取り出した。
それは、
緑色の腹巻きだった。