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クロコダイル国王誕生の前夜祭は華々しく行われていた。
国中が、新国王をたたえ、
民衆は、うかれ騒いだ。

王は理想そのものだった。
強くて理知的で、寛大なお方。
あの方についていきさえすれば、間違いない。
あの方を信じていさえすれば、間違いない。
人々の希望そのものだった。

「クロコダイル国王ばんざい!!」
「ばんざい!!」
あちこちで歓声が上がり、踊りの音楽が流れてくる。

「ククククク。愚かな民どもだ」
クロコダイルは虫けらを見るような目で、
民衆を見下ろした。
わずかな酒をふるまい、
少し路銀を分けてやれば、
目先のことしか見えてないバカどもは簡単にだますことができる。

貴様らは、このオレの駒にすぎない。
見苦しくて目障りな連中だが、
明日の祝典を彩る歓声を上げさえすれば、
あとは無用な存在にしかすぎないから、
どうとでも排除できる。

クロコダイルは不快なものから目を反らし、
いつもの寝室に向かった。

この部屋で奴を抱くのも今日限り。
明日からは、城の中で思う存分楽しむのだ。

クロコダイルは大股で部屋に入った。
入り口のところでかしこまって頭をたれているアルビダをちらりと見た。

この女は、新しい城には不要だ。
もうプリンスは我が手中におちた。
近いうちに処分するとしよう。

部屋に入ると、プリンスはしどけなく横たわり、微笑みを浮かべていた。
どうやら、何かの本で見たらしい。
最近はずいぶん学習熱心になって、
いろいろな性的な本を読んで、研究しているらしい。
気持ちよくなる薬というのを欲しがり、
いろいろ買ってやると喜ぶのだ。

今日もあまり時間がとれないが、
明日からは夜通しかわいがってやろう。

クロコダイルは淫らな笑みを浮かべると、
プリンスの身体にのしかかった。




サンジは近づいてくる男の身体の重みを受け止めて、
目を閉じた。

クロコダイルはいつもより、落ち着きがない。
だから、気づかれるわけはない。

自分の身体の奥に仕込んだ、毒薬。
最初は媚薬のように感じられるという、禁断の毒薬。
娼妓の暗殺用に使われたという毒薬。
心中にも使われたという毒薬。

刃物じゃ、この男は殺せない。
オレのケリなどでは太刀打ちできない。
これしか、方法はない。

だってよう、この男がゾロを殺した。
あの本をくれた、
あの背の高い黒髪のおねえさまは、
麦わらの一味ももう存在しないと言っていた。
そんなはずはない。
サーは、オレがいい子にしてたら、
ルフィたちにはひどい事はしないって・・・。

サーの言うのが嘘?
それとも、あの美女の言うのが嘘?
誰を信じればいいのか、
もうおれには分からない。

こんなことをしても、何の意味もないかもしれねえ。
でも、もう、いいんだ。
もう、何も考えたくないから。
すべてを終わりにしたい。
そしたら、オレは、真っ黒な闇にすいこまれ、
何も考えなくてよくなる。

闇の中には何があるのか?
きっと、苦しくて悲しいことが待っている。
でも、今以上に、苦しいことなんてきっとない。

サンジは、クロコダイルの荒い息を感じた。
最後の時が近づいていた。

きつく目を閉じたまま、
サンジは心の中に、
広がるミドリを思い浮かべた。

クロコダイルに貫かれた瞬間、
それまで感じたことのない痺れと、浮遊感がサンジの身体じゅうにゆきわたった。
意識がゆるやかに広がり、
ざらついた心は不思議にしずまり、
悲しみも苦しみも、
胸をえぐられるような痛みも消えた。

サンジは、自分の魂が、しずかに、しずかに、ふうわりと浮き上がっていくのを感じた。
サンジを縛り付けていた身体がなくなると、
気持ちが軽くなった。
心は徐々に重さを失い、
どんどんどんどん、どこかに流されていった。

あたりは真っ暗になり、
そして、真っ白になった。

真っ白にぼやけた世界は、
徐々に形をとりはじめ、
そこはきらきらした川に変わった。
その川はしずかに流れ、滝があり、大きな湖につながっていた。

その中には、いくつものミドリ色の大きな藻が浮いていた。

藻だ。
マリ藻だ。

巨大なミドリ色の藻の群れの中に、
人のようなものが混ざっていた。

その男はどうやら寝ているようだった。

「ゾロ!!」
サンジは叫んだ。

サンジは夢中でゾロにかけより、
その身体を抱きしめた。

抱きしめた瞬間、
ゾロの身体はサンジの腕の中から消えた。

ゾロが、消えてしまった。
ここに、いたのに!!
オレの目の前にいたのに!!
どうしてなんだ!!

どうして?

サンジの目から、
しずかに涙がこぼれおちた。




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