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そこには、音もなく、光もなく、
空間と存在は一つになっていた。
痛みも苦しみも憎しみもない。
不安も屈辱もない。
愛も執着も欲望もない。
喜びも悲しみもない。
はじまりも終わりもない。
自我もない無の世界。
ゾロはその世界にぽっかりと浮かんでいた。
調和のとれた静謐な世界。
居心地がよく、
ずっとそこでいるのは楽だった。
その世界を誰かが、
ゆさぶった。
「ゾロ!!」
誰かがゾロの名を呼んだ。
心をこめて、
名を呼んだ。
・・・誰だ?
オレの名を呼ぶやつは・・・。
その誰かは、
ゾロの心を抱きしめた。
こぼれ落ちた涙は、
きらきらと輝く不思議な宝石となって、
美しい光を放った。
・・・この石をオレは知っている。
オールプルーだ。
サンジの涙がオールブルーになった・・・。
サンジ?
頭の中を記憶がぐるぐるとうずまいた。
オレは知っている。
アレはオレの・・・。
出会いの笑顔、
別れの泣き顔、
すねた顔、
起こった顔、
女にだらしない顔、
エロいことをした時の淫らな顔。
ゾロの心には、
すべてが甦った。
サンジ!!
ゾロはがばりと跳ね起きた。
「アニキーーーーー!!」
「良かった!! 生きてた!!」
「エッエッエッ、おでがんばっだ!!」
部屋の中には、クロとミホークと、見た事もない医者たち。
その横に、ヨサクとジョニーと、チョッパーがいた。
「ししし、生き返ってよかったな」
麦わらのルフィとナミやエースまでそこにはいた。
「ご苦労だった。君たち。
ロロノア社長は、仮死状態から奇跡的に意識を取り戻した。
諸君には、お引き取り願おう。
社長の身を心配してもらったことには感謝する」
クロが冷静に礼を述べ、
灰色の服を着た男たちが慇懃に出口を指し示した。
「庭師のヨサクとジョニーだったか。
ご苦労。
もう、仕事に戻るとよい」
ミホークが静かに言った。
「・・・アニキ・・・!!」
ヨサクが叫んだ。
「倒れる前、確かに、この人はゾロのアニキに戻ってたんだ!!」
ジョニーも叫んだ。
「しししし、元気になってよかったじゃないか。
大騒ぎになってたから、びっくりしたぞ。
また、死ぬのかと思った。
ゾロ、おれたちは、お前に用があって来たんだ。
麦わら盗賊団は、これから、あるものを盗みに行く。
ゾロ、お前、おれの仲間になれ」
ルフィがゾロをまっすぐに見て言った。
「ばかばかしい・・・。
もうすぐクロコダイル国王即位の時間だぞ。
こんな時に、何を盗むというのだ・・・」
クロが吐き捨てるように言った。
「まさか・・・貴様ら・・・!!」
ミホークの顔色が変わった。
「ゾロ、おれたちの宝を取りもどそう」