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スモーカーはのどかな景色を見ながら、
葉巻をふかしていた。
明日、あの国賊クロコダイルは国を盗る。
極悪非道の麦わら盗賊団によるロロノア・ゾロの館の破壊壊滅事件からもう1年以上がすぎた。
スモーカーは瀕死の重傷であったが、生き延びていた。
人里はなれた、この『スワン牧場』で生き延びていた。
そこは奇妙な牧場で、
多少、牛や馬や羊もいたが、
猛烈な数の白鳥が飼われており、
そいつらは好き勝手に暮らしていた。
経営者はみな奇天烈な容貌と格好をしており、
落ち着きなく、うるさかった。
「じょうだんじゃなーーーーーいわようっっっっ!!」
見慣れた異形のプリマが連なって踊っている。
・・・やつの、父と母と兄と姉と弟と妹らしいが、すべて同じに見える。
スモーカーが意識を取り戻してからというもの、
毎日毎日毎日毎日、こいつらの姿を見る。
どうして正気を保てているのか不思議なくらいだ。
「グア」
スモーカーの足下に、
白くて間のぬけた生き物がまとわりついている。
ある日、水辺に落ちていた卵を拾ったら、
そいつがコレだった。
エサをやったのがいけなかったらしい。
妙にスモーカーに近づいてきて、グアグアと鳴く、うるさいアヒル。
ちっ。
スモーカーは苦々しい気持ちでそいつを見た。
頭の悪そうなアヒルは、
知っていた誰かに実に似ていた。
「じょうだんじゃなーーーーいわようっ!!」
ボン・クレーがくるくると回っていた。
スモーカーは回るボン・クレーに目を止めた。
いつもなら、すぐに目を反らすところだが、
目を反らさずにボン・クレーを見つめた。
ボン・クレーの背にはでかでかと「オカマ道」と書かれていた。
回り終わってスモーカーに近づいてきたボン・クレーの手には、
スモーカーの「正義」と書かれたコートが握られていた。
「麦わらちゃんたちが、
明日、盗みを働くのよう!!」
スモーカーは、ボン・クレーから「正義」のコートをうけとった。
「やつらが・・・なぜ今になって・・・」
「麦わらちゃんたちは、
ずっとあきらめずに待っていたのよう!!
クロコダイルの圧政を快く思わないものは必ず存在するはず。
ニコ・ロビン、別名ミス・オールサンデーがあちしたちに情報をくれたのよう!!
あのコのことよう。
サンジは生きていて、
クロコダイルの寵愛の対象だと。
クロコダイルの城は要塞と同じ。
あの城に入ってしまえば、
もう誰も手出しできない。
もっとも警備が手薄になるのは、
国王の戴冠式の時だと。
麦わらちゃんたちは、本気よう!!
本気で、オールブルーと、サンジを取り戻す気なのよう!!
あちしも行くわよう!!
男の道をそれるとも、
女の道をそれるとも、
踏み外せぬは人の道。