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「で、なんでてめえがここにいるんだ」
ゾロは憮然とした顔でエースを見た。
いつものようにメシを食いにきたら、
エースが先に食っていた。
メシの時はいつもサンジがいて、
ゾロを待ってる。
サンジは自分はメシを食わずに待っている。
だから、誰かが食事していることはなかったのだ。
「いやあ、サンジと買い出しに行ってよ!!!
いや、うめえなコレ!!!」
エースはそう言いながら、山盛りの料理をガツガツ平らげていく。
それをサンジは嬉しそうに見ていた。
・・・面白くねえ・・・。
ゾロはなんでかムカついた。
・・・いつもだ。
サンジのせいで、ムカつく。
イライラしたり、
落ちつかなかったり・・・。
「てめえの御主人様はオレだろが!!!
てめえはオレだけにメシつくってりゃいいんだよ!!!」
ゾロの言葉にエースが驚いたような顔をした。
オイ、聞き捨てならねえな・・・。
「んだと・・・、
エースはてめえと違って買い出しを手伝ってくれるんだ!!!!
悔しかったら、行ってみろってんだ!!!
やんのか、コラ!!!」
サンジが椅子を蹴って立ち上がる。
「あァ?
行ってやろうじゃねえの!!!!
外へ出ろ!!!」
「上等だ!!! 」
口争いを続けながら、
ゾロとサンジは食堂から出て行った。
エースは黙々と食い続けている。
外からは、
ドカッとかバキッとかいう音が聞こえてきた。
二人で暴れているらしい。
ゾロ用に作られたメシはまだ湯気をたてている。
エースはゾロの席に座ると、
誰もいないのをいいことに、
堂々とゾロ用のメシを食い始めた。
・・・うめえな。
しかも、オレのとは微妙に味付けが違う。
ゾロ好みにちょっと甘さを控えた味付けなんだろう。
ただのコックとしても極上ってわけだ。
あの唐変木なゾロがあそこまでこだわるとはな。
やっぱ、狙いは同じか。
ま、あのゾロがどんだけ自覚してるかが問題だけどな。
ゾロとサンジがひとしきり暴れて食堂に帰って来たら、
自分で茶を入れて飲んでいるエースがいた。
皿の上はどれも綺麗に食い尽くされていた。
「オイ・・・オレのメシは?」
「ああ、食った」
ゾロはエースとは長いつきあいだ。
・・・こういう奴だった。
「てめえ、よくも・・・・」
ゾロのこめかみに青筋が立つ。
何も知らないサンジも帰って来た。
エースはゾロに近づくと、
耳もとで小声でささやいた。
「メシうめえな。
もっともオレは本人も食いたいけどな」
顔色の変わるゾロを無視して、
サンジに話しかけた。
「いつでも買い出しにつきあってやるからな、サンジ」
そう言って、軽くキスをした。
「ごちそうさん」
「エース・・・てめえ・・・」
何考えてんだ・・・。
ていうか、挨拶代わりにキスする国の出か?
サンジは去って行くエースの後ろ姿を睨み付けた。
「・・・オイ・・・」
背後から、
物凄く不機嫌そうなゾロの声がする。
振り返ると、
キレそうなゾロとからっぽの皿。
なんだ・・・もう食ったのか、ゾロの奴。
最初はそう思い、
そんな時間はなかったということに気づき、
さっきのエースの態度を思い出す。
「!!!
あのクソエース!!!
ゾロの分まで食いやがったのか!!!!」
やっと気づき、
悔しがるサンジ。
「クソ・・・。
せっかくうめえ子牛の肉を買って来たってのに。
ああ、待ってろ。
また作ってやるから・・・」
サンジはぶつぶついいながら厨房のほうに向かった。
それから、
ゾロのメシを作り直した。
ゾロは何も言わずに、
黙々と食っている。
明らかに怒っている。
クソ、エースがいい奴だなんて思ったオレがバカだったぜ。
食い逃げみてえなマネするとはな。
だってよ。
あんなにうまそうに食われたら、
また作ってやろうと思うじゃねえか。
けど・・・、
ゾロ、
何にも言わねえな。
だっていいと思ったんだよ。
エースはゾロの友達だし、
ちょっとくらい他の奴に作ってやっても。
怒ってんな・・・。
そりゃ、てめえが「御主人様」だよな。
だけど、ココにいて、そんなこと忘れてた。
あーあ。
クビかなあ。
勝手なことした使用人のなれの果てってやつ・・・・。
ゾロは元気をなくしたサンジを見て、
またムカムカしてきた。
エースがいたのにもムカついたし、
メシを食われたのにもムカついた。
エースの言葉からも、
エースがサンジを狙っていることは分かった。
エースは男でも女でも気に入ったものは手に入れる主義だ。
流した浮き名も数多いし、
いつも違う相手を連れている。
今回は自分のところのコック。
ただそれだけのはずだ。
なのに、ムカつく。
エースがサンジにキスしたのにもムカついた。
一番ムカついたのは、
キスされてたサンジにだ。
なんでいつものように蹴らねえんだ。
たいして怒りもしねえし・・・。
「オイ・・・てめえは、エースのもんじゃねえぞ。
オレのもんだ」
ゾロは苦虫を噛み潰したような顔をして言った。
エースにゃやらねえ。
「あァ?
・・・分かってるよ、ゴシュジンサマ!!!!」
サンジは立ち上がると、
急いで片付けを始めた。
ゾロは今はオレの「御主人様」だよ。
オレはこいつの命令を聞かなきゃならねえ。
オレは使用人なんだ。
ゾロは友達なんかじゃねえ。
でも仕えてるって気もしなかった。
・・・オレ、
結構ココ気に入ってたのにな。
レディはいねえし、
料理は少ししかつくれねえけど、
それでも・・。
「オイ、てめえら、何してやがる!!!」
ゾロに一喝されて、
ヨサクとジョニーとチョッパーは一目散に逃げ出した。
サンジが帰って来てから、
スパイのように聞き耳をたてて潜んでいたのだ。
「エースさんはサンジのアニキを狙ってるよな・・・」
「・キ・・・キスしてた・・・」
「ゾロのアニキ・・・サンジのアニキが好きだと思わねえか?」
皆、汗を流しながらも激しく肯定の意を示す。
ゾロはサンジをひとりじめする気だ。
それは嫌いだからじゃなくて・・・。
三人の中では恐るべき結論が出されていた。