◆
23
◆
店先には沢山の果物が並んでいる。
ゾロは奥にひっこんだまま、
いつまでたっても出てこないサンジをイライラしながら待っていた。
どの店に入っても、
サンジはべらべらと喋り、
いろいろとつまみ食いをして、
一向に買い物をしない。
サンジは全く気にしてないようで、
店員が恐ろしそうにゾロをちらちらと見ている。
サンジは必ず店主と話をするのだ。
仁王立ちで不機嫌そうな強面の男が居られたのでは商売あがったりなのだが、
店主の方もサンジの専門的な話に合わせているようだ。
つまらねえ・・・。
くだらねえ・・・。
女がいるとハアト目になり、
買い物すらままならない。
何か言うと文句を言う。
・・・ムカつく。
あのうるさい口をどうにかしてやりてえもんだ。
てっとりばやいのはあれだな。
口で塞ぐのがいい。
・・・それから、もっと・・・。
・・・オイ・・・。
これって、やべえんじゃねえのか。
相手はあのアホコックだぞ。
いくらムカつくからって・・・。
何でヤりたくなるんだ・・・?
オレはあいつをヤりてえのか?
何で、ムカついた後の最後にしたいことが、
あいつをヤることになるんだ・・・?
エースがヤるんなら、
オレがヤったほうがいいだろ・・・。
いや、そういう問題じゃなくてな。
「・・・イ、オイ!!!!」
ゾロはサンジの声に我に帰った。
印象的な青い瞳がゾロを覗きこんでいる。
「全く、立ったまま寝てんのかよ・・・」
呆れたように言って、
大きな紙袋をゾロに押し付けた。
そして、また次の店へ行く。
ゾロは自分が危険な方向に走りつつあることにやっと気づきはじめた。
ムカムカはサンジのせいだ。
ムカムカをおさめるためには、
ヤるしかねえ。
ゾロは自分がとばしすぎだとか、
情緒に欠けるとか一瞬も思わない。
ヤったら、ムカムカしねえだろ。
この前みてえにイイキモチになる。
いくら考えても、
ムカムカは「サンジのせい」で、
「ヤるしかない」のだ。
「ゾロ、これも持てよ」
サンジは何かを考え込んでいるようなゾロを訝しく思いながらも、
次々に食材を買い込んだ。
まあ、なんだかんだ言っても、
荷物持ちはやってるんだ。
褒美に酒でも買ってやるか。
・・・いけね、こいつは「ゴシュジンサマ」だった・・・。
下手な事したらいけねえんだった。
でも、ま、いいか・・・。
「酒買うか?」
「おう」
短い答えが返ってくる。
まったく、言葉数の少ねえヤツ・・・。
サンジは苦笑した。
ゾロは見かけよりいい奴だ。
筋肉にエネルギー使いすぎてるけどな。
酒屋に入り、
ゾロの好きそうな酒を適当に見繕い、
試飲を頼む。
「なあ、これなんてどうだ?」
サンジが店の奥の棚から古ぼけた瓶を取り出してきた。
「うめえ」
ゾロは一口飲んでそう言った。
「へへ、そうだろ」
嬉しそうなサンジの笑顔をゾロはしばらくじっと見た。
胸がざわざわする。
落ちつかねえ。
なんでだ?
ゾロは急に酒を飲む手を止めて、サンジをじっと見た。
?
何だ?
サンジもさすがに見つめられていることに気づいた。
何故だか言葉を失って、
じっと見つめ返してしまう。
ケンカしてねえと、
調子が狂う・・・。
なんてのかな、苦手なんだよ。
ゾロに見られるのって・・・。
どうしていいか分からねえっていうか・・・。
なんでか固まっちまうんだよ。
滅多に見ねえゾロの真剣なツラ。
どうも弱ええんだよ、このツラに・・・。
サンジが何か喋ろうと口を開きかけた途端、
いきなり強く身体を引かれて、
口付けられた。
口に酒が流しこまれる。
クラクラした。
唐突に身体を離され、
サンジは一瞬ふらついた。
・・・何・・・今の?
心臓がドキドキしている。
ゾロの方に視線を向けると、
もう酒瓶を手にしている。
「そいつを買う」
ゾロは店主に声をかけた。
サンジの選んだ酒を全てゾロは買い占めている。
まだドキドキしているサンジはゾロが金を払っている様子をぼんやり見ていた。
それから我に返る。
「てめえ・・・、今の・・・」
「意味なんてねえ!!」
ゾロにきつく言われて、
サンジはムっとした。
ゾロ自身、咄嗟に自分がしたことの意味が分からなかった。
サンジが、おとなしくじっとしてるから、
つい、しちまった・・・。
意味なんてねえだろ・・・。
こいつはエースともしてたし・・・。
あれ以上やったら止まらなくなりそうだった・・・。
やべえな・・・。
クソ・・・。
そばにいたら、
何やるか分からねえ・・・。
いや、最後はヤっちまうよな、どうみても。
・・・結局、そこか・・・。
また、そこか・・・。
どうしたんだ、ロロノア・ゾロ。
ゾロは悩んでいた。
19年間で初めての悩みである。
自分は何かがおかしい。
サンジはいいコックだが、アホだ。
間違いない。
なのに、なんでかサンジをヤりたくてしょうがねえ。
何でサンジなんだ?
アルビダともヤってたが、
最近はヤる気がしねえ。
ヤりてえのは、コイツだ・・・。
わからん・・・。
帰り道、考え込むゾロにサンジも無言のままだ。
なんだよ・・・、この間。
なんで静かなんだよ・・・。
喋ってケンカしてる方がよっぽどラクだっての・・・。
気になってしょうがねえよ。
第一、なんでオレがこんなやつに、気おくれせにゃならんのだ・・・。
クソ・・・。
ムカつく・・・。
サンジは流れていく景色をじっと睨みつけた。
こういう展開は初めてだ。
なんでオレはゾロとうまくいかねえんだ。
ケンカするか、落ちつかねえか、どっちかだ・・・。
クソ・・・なんだか落ちつかねえ。
なんでだよ・・・。