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25
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ゾロは眠りに落ちかけていたが、
部屋の外で物音がしたのに気づいた。
人の気配がする。
ベッドから身をおこし、
そっとドアの隙間から廊下の様子を覗いた。
ゾロの寝室に通じる廊下は大理石の一枚板が敷き詰められており、
普段はここに足を踏み入れるものはない。
見覚えのある人陰が、
視界のはしに入った。
・・・サンジか。
薄暗い月明かりだけが、
サンジの姿を浮かび上がらせていた。
サンジはゾロに気づかず、
廊下の端から端へと行ったり来たりしている。
俯いて何かぶつぶつ言っている。
いつもの黒いスーツでなく、
白いバスローブのようなものを羽織っている。
はだしの足がローブから覗いていて、
ゾロは思わず目を奪われた。
・・・何してるんだ、アイツは・・・。
サンジはさっきからうろうろし続けていた。
ナミさんの指令には、
この格好でゾロの寝室に行けと書いてあった。
タバコは厳禁。
シャワーあがりで行くこと。
酒を飲んで行ってはいけない。
そして、余計なことは喋らず、「オールブルー」についての情報はちゃんと得ること。
「 "サンジ君がシャワー室入ったら、
ウソップに自動警備装置を動かさせて、
ゾロの部屋にしか行けないようにしとくから、
安心して行くように(はあと)。"」
ナミさんの指令書には何でかハアトマークまでついていた。
この家には一応最先端のセンサー警備装置もついている。
それをウソップが一部操作した。
入らせたくないところに、
痺れる電磁波を好きに飛ばせるというものだ。
触るとびりびりする。
まあ命に別状はないけど・・・。
・・・ナミさんの計画は今まで失敗したことはねえ。
今夜のは、よく分からない計画だけどよ。
たしかに意表はつくかもしれねえけど・・・、
ウソップの方が、こういうことは得意では・・・。
ああ、でもウソップはゾロを怖がってたか。
えれえビビってたもんな。
ゾロって誰にでもガンつけるから。
クソ・・・。
ちゃんとそのナリで来たものの、
入れねえ・・・。
酒でも飲んでたら、
イキオイにまかせてゾロの部屋に乱入できんだけどよ・・・。
イライラするし・・・、
うう・・・ちっと寒いしよ・・・。
でも、ナミさんの指令だし、
やるしかねえけど。
ゾロはもう寝てるだろ。
やっぱり寝てたら起こすんかよ。
大体、こんなカッコで入って、
何ていやあいいんだ?
目的はあいつの口を割らすコトだろ・・・。
ろくに話もしたことねえのに、
言うわけねえだろ・・。
だけどやるだけはやらねえと・・・。
警察の手が入って、
オレらも取り調べの対象になるのは避けてえよな。
後々の活動を考えても・・・。
ゾロはうろうろし続けるサンジをしばらく見ていた。
「オイ」
サンジは弾かれたように顔をあげ、
あわてて言いつくろった。
「ああ、何でもねえよ。
ちょっと警備装置がイカれちまってるみてえでよ・・・」
・・・って、ゾロに接近するんじゃなかったのか?
いかん、いかん、
ついいつもの調子で・・・。
「いや、どってことねえって。
てめえは気にすんな」
オイ、違うだろ!!!
心の中でつっこみを入れるが、
べらべらといつもの調子で適当なことを言ってしまう。
オールブルーだ・・・。
オールブルーのこと言わねえと。
「てめえには大事なお宝があるんだろ。
それを守って、大事に抱いておねんねすりゃいいだろ」
言った途端、
ゾロの表情が冷たいものになった。
・・・しまった。
やべえ。
何か気づかれた?
ゾロは固い表情のまま、
サンジの腕をきつく掴んだ。
サンジはひきずるようにしてゾロの部屋につれて行かれた。
ゾロの目が見たこともない光を放っていた。
ゾロは魔獣の目をしていて恐れられている、
そう言われているらしいが、
今までそういう目を見たことはなかった。
闇を奥に潜ませた、暗い瞳。
全てを斬り捨てるような・・・。
ああ、コレがその目か。
サンジは戦慄を感じながらも、
吸い寄せられるようにその瞳を見た。
ゾロは驚いたように自分を見返すサンジの瞳から目を逸らせなかった。
腹が立った。
また、オールブルーか!!!!
くだらねえ宝石。
こいつも、同じだ。
オールブルーなんてただの石ころにしか過ぎねえ。
ムカツク。
ムカツク。
それを追い求めるやつらなどくだらねえ。
サンジもその一味で・・・。
あの泥棒女、ナミの一味であると確信している。
だけど、今までそんなそぶりを見せなかったので、忘れていた。
オールブルーがなんだってんだ!!!
凶悪な感情が身体中を支配する。
ムカツク。
オールブルーにもムカツクし、
目の前のサンジにもムカツク。
そんなにあの宝石のコトが知りたいのか?
てめえ、そんな格好でこんなトコに来て、
どういうつもりなんだ・・・。
誰にでもこんなことしてんのか、コイツは・・・?
てめえがそのつもりなら、
ヤってやろうじゃねえか。
サンジは突き飛ばされるようにして、
ベッドに寝かされた。
間髪を入れず、
ゾロの身体がのしかかってくる。
ゾロは無言のままだ。
バレた?
すげえゾロやべえ雰囲気だ・・・。
・・・あっ・・・、
何・・・?
ゾロはサンジのバスローブをはだけると、
すっかり冷えた身体に手を触れた。
・・・何で、こんなに冷えてんだ・・・コイツは・・・。
かなり鈍いゾロにもサンジが長時間廊下でいたことくらい分かる。
無言で見返す視線が絡まる。
ゾロはサンジの顎をとらえると、
貪るような口付けをした。
コイツはオレのもんにする。
オレだけのモノに。