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ゾロが2度目の昼寝から目をさますと、
もうとっぷりと日が暮れていた。
・・・あァ、夜じゃねえか。
そういえば、
あの金髪が新しいコックか。
・・・サンジとか言ったな。
アイツ、オレとそう変わりゃしねえよな。
前のコックのシャンクスはガキの時からいたのに、
突然「やっぱり辞める」、
と言ってさっさと出て行った。
オレが物心ついた頃から、
毎日シャンクスは言っていた。
「ゾロ、男は食い物にケチをつけるような細かなやつではいかん」
と。
時々「心意気を鍛えるため」
に妙な食い物を食った。
だからオレは何でも食える。
シャンクスの料理でオレが一番食いやすいのは生だ。
それか自分で焼いて食うようなもの。
まあ、あいつのおかげかもしれねえがオレは好き嫌いはねえ。
土がちょっとついてても払って食えばいいし、
生でもよく噛めばいいし、
腐りかけでも食えるし。
シャンクスは「強い男は何でも食うもんだ」と言っていた。
その通りだ。

ゾロが食堂に来ると、
昼間の金髪が机につっぷして寝ていた。
テーブルの上には皿がたくさん並んでいる。
・・・フォークとナイフ出し過ぎだ。
この量は、
「外面用(シャンクスはそう言っていた)」
だろ。
皿だってシャンクスはいつも一枚しか出さなかった。
ひどい時は新聞の上に無造作に食い物を置いてあった。
シャンクスは、
「資源の有効利用だ」
と言っていたが・・・。
なのにこいつは10枚くらい出して、
ちまちまと盛り付けてある。
つまらねえ食事会の時の盛り付け方だ。
全部かためて押し付けたら、
きっと一枚の皿に入る量だ。
無駄な気がするが、
・・・ま、しようがねえか。

食ってみる。
・・・この味は。
なんだか違う。
シャンクスのより、
やわらけえのか。
よく分からんが・・・。
確かに違う。

・・まあ、いい。
食おう。
シャンクスは、
「食う時は食い物の事など考えるな」
と言ってたし。

・・・よく寝てやがるな、こいつ。

ゾロは食事が済んでも寝ているサンジをしばらく見ていた。
・・・・酒でもとってくるか。
食堂横の酒蔵に入ると、
酒を探し始めた。
 
 
 
 
 

・・・・?
サンジはガタガタ言う音を聞いて、
まぶたを開いた。
・・・あ。
寝ちまってた。

目の前の料理を見ると、
見事にからっぽになっていた。
へ・・・?
御主人様ってのが来たのか・・・。

ん、酒蔵で音がしている。
・・・誰かが酒を探している。

そっと近づいてみると、
しゃがみこんだ黒い影が酒の瓶をあさっているようだった。
 
 
 
 
 

ゾロは手にした瓶をみて満足して笑みをうかべた。
「サケ」だ。
やっぱりあったじゃねえか。

立ち上がろうとした瞬間、
背中にすざまじい蹴りがくわえられた。
「ぐあっ・・・」
一瞬、息が止まる。
何が起こったかもわからない。

手にした酒瓶をとりおとし、
ゴホゴホと激しくせきこんだ。
せきこんでいる体を乱暴にひきずりだされた。
 
 
 
 
 

「あり?」
 
 
 
 
 

間の抜けた声が頭上から聞こえて来た。
ゾロが油断していたとはいえ、
普通のやつならひとたまりもないほどの破壊力のある蹴りだ。
痛みをこらえてゾロはそいつを見た。
・・・金髪のコックが、
しまったという表情で立っていた。

「いやあ、わりいわりい。
泥棒かと思ったもんでよ」
手をひらひらさせながら謝る相手にゾロはキレそうになってきた。
 
 
 
 
 

「詫びになんか食い物つくってやるよ」
コックは悪びれずに続けた。
普通の奴なら医者がいるところだ。
ゾロはそれでも気をとりなおした。
シャンクスもヘンなやつで、
急に攻撃してきたりした。
ときどき料理攻撃などといって、
砂糖を使う料理に塩をつかったり、
塩を使う料理に砂糖をつかったりしていた。
メシをかくして置いてあったり。
ゾロの知っているおかかえコックはシャンクスしかいない。
常識の通用しないコック。
・・・こいつも、そうなのか?

「つまみをくれ」
ムカつくところを押さえて、
酒を取り出す。

「待ってろ」
そう言うと、
サンジはどこかに消えた。
ゾロは手持ちぶさただったので、
がらんとした食堂に座って待った。
ここにはめったに長居することはないのだが、
久しぶりに長時間座った。

「待たせたな」
そういうとコックは様々なつまみを出してきた。

ゾロは見て思った。
皿が多い。
シャンクスみてえにつめこんでねえ。
しかも種類も違うように見える。
まあ、食うまでは分からねえ。
シャンクスの「つまみ」は、
同じ形なのに味が全然違ったり、
違う料理と見せ掛けて、
全部同じ味だったりするからだ。

「食え」
ゾロは食って、
ひとつひとつ味が違うことに気づいた。
やっぱりシャンクスの料理とはちょっと違うな。
どう違うかはよく分からんが・・・。
食っていると、
コックはべらべらと喋り始めた。

「なあ、御主人様ってのはドコに居るんだよ。
オレがちょっとうたたねしているうちに、
メシ食っていったみてえなんだけど・・・。
オレに気づかれねえように食うなんて、
きっと上品なレディだ。
(ナミさんも酒は強かったしな)
いや、よく聞いてなかったもんで・・・。
オレとしては、
レディがいいんだけどよ。
そうだな、
年は16.7で、
髪の毛はちょっと長くて・・・」

何言ってる。
オレが食ってるのにも気づかねえで、
熟睡してたよ、てめえ。
ガキみてえなツラして。
ゾロはちびちびと飲みながら、
サンジのざれ言を聞き流していた。

「そうだ!!
名前!!
名前、なんて言うんだ、御主人様の!!!」
突然想いついたように叫ぶサンジを見てゾロは内心呆れていた。

「・・・ゾロ」

「ああ、ゾロか。
・・へえ。
あれ、お前、ゾロ・・・だっけ?」

「そうだ」
憮然として返事をするゾロの前でサンジは固まっていた。

え・・・、
こいつ?
この男が・・・、
オレの「御主人様」?
 
 
 
 
 
 
 


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