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スモーカーとボン・クレーはゾロの館に向かっていた。
「二つのオールブルー」については謎のままだ。
ゾロにいくら連絡をとろうとしても返信はない。
−−社長は忙しくて誰にも御会いになれません。
機械的な返事が帰ってくるだけだ。
ゾロは世界一の権力を目ざしているという。
オールブルーがもう一つあるならゾロの会社にあるのか、
それともゾロの館にあるのか、どちらかだ。
「ガーーーッハッハ、楽しみよねい!!!!
ゾロの館ってあちし行くのは初めてようっっっ!!!!」
ボン・クレーは嬉しそうに調査書類を手にしていた。
そこには「善良な市民の通報により、オールブルーがもう一つあるらしいという疑いがわいた為、協力を要請する」
という主旨の文章が書かれていた。
スモーカーはむっつりして葉巻きをふかしていた。
・・・何が善良な市民だ・・・。
エースのことか?
それとも、ボン・クレー・・・貴様か・・・。
まさか、オレの名にしてねえよな。
ボン・クレーが捏造した書類では勿論スモーカーが密告したことになっていた。
「公に出来ない理由でその情報を知ることになった」
と記されていた。
彼らは、ゾロがいないのをいいことに、
一気にゾロの館を捜索するつもりなので、
精鋭部隊を引き連れていた。
今日はどうしても抜けられない用でミホークもクロもいないことは確認済みだ。
後で知れたら、かなり責任問題を問われるような行為だ。
「ガーーーッハッハッ、あちしが見つけてみせるわようっっっ!!!!」
スモーカーにしても賭けである。
この事件は訳がわからねえ。
盗難らしい盗難はまだ起きてねえんだ。
盗難が起きる前に我々は阻止せねばならん。
だから守る対象を捜している。
おかしな話だ。
持ち主よりも警察が熱心に守ろうとしているとはな。
オールブルー事件は我々への挑戦状だ。
警察の威信をかけて守らねばならねえ。
スモーカーたちはゾロの館に乗り込んだ。
「あの・・・ゾロのアニキは不在で・・・・」
ヨサクとジョニーがびくびくした様子であらわれ、
ボン・クレーを見て、怯えて後ずさった。
警察の部隊は一気に館に突入した。
総勢30人の捜査のプロたちである。
・・・あいつは・・・どこだ。
スモーカーはサンジを捜していた。
宝石のことは知らねえようだが、
事件にかかわりがねえという気もしねえ。
ひっかかる。
なぜだか分からねえが、ひっかかる。
「屋敷中を捜索しろ!!!!
世界一の秘宝を捜せ!!!!」
ターゲットをはっきりと宝石に絞った精鋭たちが、いっせいに調査についた。
様々な所を手当たり次第に捜しているはずだ。
「てめえら、勝手に触るんじゃねえ!!!!!」
聞き覚えのある怒鳴り声とともに、
部下たちが蹴り出されてきた。
厨房を調べようとした男たちがサンジに追い出されたらしい。
スモーカーは暴れるサンジに声をかけた。
「家宅捜査に協力しろ。
さもなくば公務執行妨害で逮捕する!!!」
「なんだと、このケムリ野郎!!!!
こいつらオレのキッチンをぐちゃぐちゃにしやがって!!!」
暴れようとするサンジをスモーカーは抱え込んだ。
「チクショウ、離しやがれ、クソ野郎!!!!!」
サンジは足をばたつかせ、
スモーカーから逃れようとしたが、
接近戦には弱い。
サンジが暴れたぐらいでは、
スモーカーはびくともしなかった。
「離せってんだよ!!!!!」
ばたばた暴れ続けるサンジを小脇に抱えて、スモーカーは捜査の状況を確認しようとした。
!!!!!!
操作員たちは、
一瞬固まった。
スモーカーが暴れてわめくサンジを軽々と抱えてやってきたのだ。
・・・警部・・・、
どこかから、さらってきたって感じなんですけど。
オイ・・・、
あの男は、例の・・・・。
警察でヤったって相手じゃねえのか。
まるで犬かネコじゃねえか、
あれじゃ・・・・。
気の毒に・・・、
あの金髪、手も足も出ねえって感じだな・・・。
スモーカーは己自身が捜査を撹乱しているなどとは微塵も思わなかった。
「ジョウダンじゃなーーーーーーいわようっっっっ!!!!!
スモーカーがサンジを抱きかかえて歩き回ってるですってぇぇぇぇぇ!!!!!!
見に行くのようっっっっ!!!!」
ボン・クレーは捜査半ばにして、
職務を放棄した。
目的地はスモーカーとサンジがいる所である。
毎日、サンジのエロ画面を食い入るように見てたのようっっっ。
いくらスモーカーが堅物だっていっても、
その気になってしまったのよねい!!!!
あのコはエースが狙ってるのようっっっっ。
エースは、あちしが友情のために愛することを捨てた相手なのようっっっっ。
それをスモーカーが横取りしようとするなんてっっっ。
許せないわ、あちし。
仕事を捨ててまで、友情を守るあちし。
なんて素晴らしいのかしら。
友情って素晴らしいのよう。
スモーカーは暴れ続けるサンジをじっと見た。
ガーガーうるせえ奴だ。
・・・何かに似てるな。
しばらく考えて、
はたと気づいた。
アヒルだ。
ガキの頃飼っていた、
ガーガーうるさくて、
ペタペタ歩いてつきまとった、
あのアヒルにそっくりじゃねえか。
アホでうるさくて、うっとうしくて、
エサだって適当にしかやらなかった。
けど、なでてやると、
尾をふって喜んでやがった。
・・・あのアヒルはある日、
いなくなった。
オヤジは言った。
「道楽で生き物を飼うのは間違っている」と。
オレは知らずに、
アヒルを食っちまっていた。
アヒルを食うために飼っていたと知らなかったのは、
オレだけだった。
情をかけるのなんざ、無駄なことだ。
生き物には運命がある。
それぞれの役割がある。
あのアヒルはオレたちを生かすために役立った。
それは分かっているけれど、
苦い思い出だ。
アヒルを見るたびに、
オレは複雑な気持ちになる。
そのアヒルにコイツは似ている。
絶対・・・、
アヒルに似てやがる・・・・。
アヒルだ。