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ロロノア・ゾロはコンピュータの画面を睨み続けていた。
最高の地位を手に入れることは容易ではない。
忍耐と鍛練と、
それ意外の何かが必要だ。
剣士としての修業にも似たものだ。
己の邪念を振り払い、
ただ目の前の取り引きに意識を集中させる。
複合企業の経済状況は秒きざみで変化している。
取り引きは最高のタイミングを見切ってするしかない。

それは剣を振り下ろす瞬間に似ている。
一瞬の決断が全てを左右する。

クロにもミホークにも、
望む地位を手に入れるまでは、
誰とも接触しないように手をうたせた。

気がかりは、
館に残してきた、
アホなコック。
食事のたびにあのアホのことを思い出す。
笑った顔だとか、
すねた顔だとか、
怒った顔だとか、
泣いた顔だとか。

ゾロはそんな思いを振り払うと、
つまらない数字の羅列をながめ続けていた。
 
 
 
 

「社長、大変です!!!!」

誰一人入ってはならぬはずの社長室に、
社員が入って来た。
・・・誰だ。
こんな事くれえで、
意識を途切れさせてはならねえ。

「警察に保管されていた、オールブルーが盗まれました!!!!!」
ここの株がこうで・・・、
待て・・・、
今、なんと言った?

「警察からヒナ警部とおっしゃる方が見えています」

ああ、警察に持って行った宝石だな。
ふん、やはり盗まれたか。

「くだらん。
そいつに会えば、
オールブルーが返ってくるのか」

ゾロは画面の数字を見つめるのを止めようとはしなかった。

「ええと、それと・・・、
コックのサンジって方も一緒に・・・」

サンジだと?
ゾロの眉がぴくりと動いた。
あのアホがなんでここに・・・・。

「ハラマキ男を出せと・・・、
社長室の前で騒いでいるのですが、
追い払いましょうか」

ゾロは額に手を当てた。
・・・・あのアホが・・・、
何しにきやがった。
オレがもうちょっとで、
世界一の地位を手に入れるって時に・・・・。

「・・・追い払います」

何で来やがった・・・。
てめえはどうしてすることなすこと、
オレの神経を逆なでするようなことばかりするんだ。

・・・だから、
アホは困るんだ。
クソッ、救いようのねえアホだ・・・。

ゾロはしばらく固まっていたが、
画面から目を離し、
不機嫌きわまりない声で社員に命令した。

「通せ・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 

黒檻のヒナはゾロの館にいるスモーカーたちに事件を知らせると、
宝石の持ち主のロロノア・ゾロに直接知らせるため、
ゾロの会社までやってきた。

側には、
なぜか有頂天状態のサンジがいた。

・・・スモーカー君は、
「ゾロに会いたければコイツを連れて行け」
などと言ってたけど、
どういうことなのかしら。
心外よ。
ヒナ、心外。

ゾロの館に駆けつけた時、
またえぐえぐ泣いていたクセに、
ヒナが声をかけた途端、
目はハート、
足が地についてない様子で、
愛のソネットだか何だかをひっきりなしにしゃべり続けていた。

「ああ、運命の出会いは本当にあるのです。
貴女とオレは運命の赤い糸で結ばれているのです!!!!!
クールでそっけない貴女も素敵だ!!!!」

・・・スモーカー君、
なんなのこのコ。

ヒナが完全無視しているのにもめげず、
サンジのテンションは上がったままだ。

なぜこんなコをスモーカー君は相手に・・・。
ヒナ、理解できないわ。
スモーカー君は外見だけ気に入ればそれでいいのかしら。
疑問だわ。
ヒナ疑問。
バカにしか見えないわ。
それも前代未聞の・・・。
 
 
 
 
 
 

「社長はこちらにいらっしゃいます」

慇懃な社員の案内のもと、
ヒナとサンジは豪華な部屋に案内された。
 

ああ、お姉様・・・。
今までの忌わしいできごとの数々は、
この貴女とオレの幸せの瞬間のためにあったのですね。

サンジはふらふらとヒナの後をついていった。
 
 
 
 
 
 
 

ゾロは夢遊病のようにヒナの後をついてくるサンジを見て、眉をつり上げた。
アホか・・・。

それから、
何故だか、がっくりした気分になった。
相変わらずサンジがアホだったからだ。
サンジの最高にアホな姿を見たというのに、
その姿を見ただけで、
落ち着かなくなる自分に気づいたからだ。
 
 
 
 
 

サンジはいつの間にかゾロがいるのに気づき、
あわてはじめた。
「コラ、クソハラマキ!!!!
何日も帰ってこねえで、
こんな豪華な部屋でてめえだけいい思いをしようっていっても、
そうはいかねえぞ!!!!
オレ様の料理を食わねえで、
どういうつもりだ、あア?
てめえなんぞに、
もうオレ様の料理を食わせてやらねえぞ!!!
てめえのくだらねえ修業用のメニュウも考えてあるんだ!!!!
オレ様の才能をむだづかいさせるんじゃねえ!!!!」

ゾロは目の前で、
真っ赤になりながら、
べらべらとまくしたてるサンジをじっと見ていた。

「・・・あんだよ、コラ。
文句あるのか、ええ?
ヤろうってんなら、
相手してやってもいいんだぜ、あァ?」

久しぶりに見たサンジは、
記憶の中より、
ずっとずっとアホで、
ずっとずっと可愛い。

・・・まいったな、こりゃ。
ゾロはぼりぼりと頭をかいた。
 
 
 
 
 
 

「じゃ、ヤるか」

ゾロの言葉にサンジは首をかしげた。

「そういうわけだから、
アンタ、消えてくれ」

ヒナはゾロに詰めよった。
「ロロノア・ゾロ。
貴男は警察に来てください」

「行かねえよ、無能な警察になんざ。
責任はあのスモーカーがとるはずだ。
そのまま伝えればいい。
それとも、お前、覗きが趣味か?」

「無礼な男ね。
失望よ。
ヒナ、失望」

ヒナが足音も荒く立ち去ろうとし、
サンジはあわててヒナの後を追った。

「お姉さま!!!!
 ああ、美しい太陽!!!!
オレは太陽に照らされる月!!!
あなたなしでは生きては・・・・、
うおっ!!!!」
ヒナについて部屋を出ようとするサンジをゾロががっしりと押さえつけた。

ヒナはようやっと「ヤる」の意味に気づいた。
・・・衝撃。
ヒナ、衝撃よ。
ロロノア・ゾロは今から、
淫らな行為をする決意をしているようよ。

・・・無関係。
ヒナには無関係よ。
 
 
 
 
 

素早くヒナはその部屋から遠ざかってゆく。
もちろんサンジは放置されたままだ。

目の前で、非情にもドアが閉められ、
サンジはバタバタともがいていた。

「お姉さまがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
ああ、貴女との幸せな時はあまりにも短い!!!!
終わりの時は残酷だぁぁぁぁ!!!!」
 
 
 
 

・・・いや、始まってねえし。
ゾロはあまりに相変わらずなサンジにため息をついた。
 
 
 
 
 
 

ゾロはサンジを押さえつけていたが、
手首に残る鬱血の痕に気づいた。

・・・なんだ・・・、
こりゃ・・・。

あわてて袖をめくると、
両手首とも、あざになるほどの手の形がついていた。

あきらかな拘束の痕。

・・・誰だ。
誰が、やった。

誰に、ヤられた?
誰に、ヤらせた?
 
 
 
 
 

サンジはゾロの顔つきが険しいものになったことに気づいた。
ゾロの視線はサンジの手首にすいよせられている。

そこにはスモーカーにつけられた痕がくっきりと残っていた。

・・・え、何?
なんだか、ゾロ、
すげえキレたツラになってんだけど・・・。
怒ってる?
何だか知らねえけど、クソスゲえ怒ってる・・・。

ゾロの身体から、
黒い炎が立ち上るような感じがして、
サンジはびくりとした。

全ての獲物を食らいつくすような魔獣の視線。
 
 
 
 

びくびくしながらも、
サンジは強がってみせた。
「・・・ヤるって、こんなとこで暴れていいのかよ。
オレのひと蹴りで大事な機械が壊れちまうぜ」

「・・・ヤるのは、ケンカじゃねえ・・・」

あり?
ケンカじゃねえのか。
んじゃ、何をヤるんだ?

へ・・・・?
ま・・・まさかな・・・。

アレじゃねえよな。
仕事中だし・・・。
レディたちにはとても言えないような記憶が蘇り、
サンジは汗を流しはじめた。

オイ、これってやべえんじゃ・・・・。
ヤるって・・・。
ヤられる?
なんでヤろうとなんてするんだ、ゾロの奴・・・。
アホだから、
誰かに入れ知恵されて思いついたにちげえねえ。

うおっ、
オレが言ったんじゃねえか!!!!
だけどそりゃ、ケンカするってことで・・・。
 
 
 
 
 

「ちちち、違うんだ、これは・・・」
サンジはウソップのようになりながら、
あわててごまかそうとした。
 
 
 

ピンチじゃねえか・・・オレ。
ひぃぃいいいい、
食われちまう!!!!

駄目だ!
これ以上ヤられたら、
オレはヘンになっちまうから。
 
 
 

オレはオレでいられなくなっちまう。

悪りいのは、ゾロだ。
オレじゃねえ。

・・・オレのせいじゃねえ。
オレのせいなんかじゃねえ。
 
 
 
 
 


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