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「・・・・でね、サンジ君が狙われてるの。
ちょっと、ルフィ、
話聞いてたの?」
「しししし。
聞いたぞ。
サンジを攫われないようにするんだな。
ところで、
ゾロって誰だ?」
ナミはルフィを思いきり殴った。
「あんた、聞いてないじゃないのよっっっ!!!!
オールブルーの持ち主よっっっ!!!
1コ盗んだでしょっっっ!!
でもって今はサンジ君とデキてるのよっっっ!!!!」
「あー、そうだったっけ?
そういや、ハラへったなあ。
サンジのメシ食いてえなあ」
ルフィはぶつぶつ言いながら、
手元にあった菓子の缶を開けた。
「サンジの作る、骨のついた肉食いてえなあ・・・」
言いながらも、せっせと食い続けている。
ナミは頭を抱えた。
・・・確かに今、クロコダイルの恐ろしさをさんざん伝えたはずなのに。
まったく、この調子で大丈夫なのかしら。
でも・・・、
ルフィなら、
なんとかしてくれる。
それは、
確信に近い思い。
数々の奇蹟的な盗みを成功させてきたルフィ。
だからこそ、
民衆は「麦わら盗賊団」を愛するのだ。
民衆が喝采し、
話題になればなる程、
警察からはきびしくマークされる。
今回の盗みで対峙する敵はあまりにも巨大だ。
でも、私たちは負けはしない。
どんな困難な盗みでも狙った獲物は逃がさない。
それが「麦わら盗賊団」の信念だ。
私たちは勝つ。
警察に。
クロコダイルという、
悪党に勝つ。
サンジは相変わらず、
いじけ続けてていた。
ひでえ。
ひでえじゃねえかよ。
このナイスガイで、
レディにモテモテのオレ様が、
ここ何日も人前に出ていねえ。
腹巻のせいだ。
腹巻ののろいだ。
お姉さまにお会いしたくても、
もうダメだ。
このまま腹巻の国で一生を終えるのか。
一流料理人のこのオレが、
腹巻に死すのか。
ああ、運命は残酷だ。
美しいお姉さまや、
ナミさんに、
あーんなことや、
こーんなことをしてさしあげたかったのに・・・・。
腹巻の国に住んで孤独な死を迎えるんだ。
オレぁ、もうダメだ。
腹巻の国に住むのは・・・、
オレ一人・・・、
・・・・。
じゃねえ・・・。
マリモマンも住んでるよな・・・・。
ゾロも・・・。
それって、ゾロと二人っきりってことかよ。
・・・。
まずいだろ。
ソレは・・・、
なんていうか、
まずい。
ゾロと二人っきりってのはいけねえよ。
何がいけねえかって、
妙にドキドキするし、
落ちつかねえんだ。
最近、
ゾロがよく近くに来る。
腹巻のせいで、
オレはゾロとしかしゃべれねえから、
文句を言う。
ゾロはひとしきり文句を聞いてから、
いつも「腹巻はいい」としか言わねえ。
アホじゃねえの?
そりゃちょっとぬくいけどよ。
・・・いかん、いかん、
腹巻の毒が頭にまわったのかもしれん!!!!
腹巻みてえなだせえものが世に存在していいはずねえ!!!
いや、存在するぶんには構わねえが、
このおしゃれなオレがそんなものをしていいはずがねえんだ!!!!
間違ってる!!!!
・・・アタマを冷やそう。
一瞬でも腹巻の美点が頭に浮かんだとは・・・、
毒が回ってる・・・。
オレぁますますダメになっちまった。
腹巻を笑顔でするようになっちまったら、
人間おしまいだ。
腹巻してても何も感じねえのは、
ゾロぐらいでいいんだ。
オレは腹巻なんぞに負けねえぞ。
サンジはぶつぶつ言いながら、
シャワー室に入り、
冷たいシャワーを浴びた。
腹巻退散!!!
クソむかつく!!
これもあのマリモのせいだ!!
マリモマンのくせしやがって・・・。
いきなりシャワー室のドアが乱暴に開けられ、
サンジは固まった。
・・・ゾロ?
なんだよ。
すげえ目がすわってるんだけどよ。
あ、オレ、今、ハダカじゃん。
あァ?
ヤる気かよ・・・。
・・・あ、また、ヤる気かよ・・・。
ヤるってアレか?
チクショー、
バカにしてんのか?
ゾロは泣きそうな顔をして睨んでくるサンジを見て、
困った顔をした。
腹巻を脱いだらヤるぞと宣言して数日がたつが、
サンジはあれだけ悪態をついていた腹巻をしつづけている。
腹巻姿を見ようとすると暴れる。
文句ばかり言って、
いじけてうらぶれつづけている。
ちらちらとしか見えないサンジの姿は、
ものすごくバカバカしく、
それでいてものすごく愛らしくみえた。
見るたびに胸にたまる、
言葉にあらわせない想い。
もっと近くでみてえな。
もっと触りてえな。
どうやれば逃げねえんだ。
どうやればオレに近づいてくるんだ。
サンジは完全にゾロから逃げるのではなく、
寄って来ては文句を言って逃げていく。
かまって欲しいんなら、
そう言やあいいのによ。
逃がしたくねえ。
手にいれてえ。
アホなのは関係ねえ、というか、
この際、どうでもいい。
オレにはコイツが要るんだ。
サンジをヤっちまうのはたやすい。
バカだから隙をついて接近戦にもちこめば、すぐヤれる。
もうコイツの弱いところも知ってるし、
感じるところも知っている。
エロい顔とかエロい身体とかも、もう知っている。
アホなので立ち向かってくるし、
ちょっとバカにするとすぐムキになるので、
ヤろうと思えばすぐヤれる。
ヤったらすげえ気持ちいい。
ヤリてえ。
シャワー室のとこに腹巻とか脱いであったのを見て、
ついふらふら来ちまった。
やっぱりこいつエロい雰囲気漂ってるから、
ヤリたくてたまらねえ。
だけど、
なんだかヤったらいけねえ気もする。
なんでか泣きそうなツラしてるからだ。
すげえ困ったようなツラしてるからだ。
ヤっちまえば、いいだろ。
いつものように。
サンジが泣いたって、
いいはずだろ。
アホだから、
こいつはちっと痛い目にあったっていい。
オレのもんだから、
オレが好きにしていいはずなんだ。
オレが決めた。
サンジはオレのもんだと。
決めたからオレのもんだ。
誰がなんと言おうとオレのもんだ。
問題ねえ。
なんの問題もねえ。
だから、
ヤっていいはずだ。
なのに何故か調子が狂う。
こいつがいじいじしているせいだ。
オレは悪くねえ。
悪いのは腹巻をバカにするコイツのせいだ。
オレはコイツをヤりてえんだ。
ヤりたくて、ヤりたくて、
ヘンになりそうなんだ。
「ヤらせろ!!」
ゾロの言葉にサンジはびくりとした。
いつもなら、問答無用でヤられている。
ゾロは凶悪な顔つきでサンジを見ている。
それからゆっくりと近づいてくる。
サンジはぼんやりとゾロを見ていた。
腹巻してても、
コイツってばオトコマエかも。
ぼうっとゾロを見ていると、
ゾロが息がかかるほど近づいてきた。
サンジはゾロから目をそらすことができず、
ずっと見続けていた。
ゾロはツバがかかるほど近くまで来てから、
もう一度言った。
「ヤらせろ」
サンジの目がゾロの方をじっと見ている。
深くて青い青い瞳。
光を吸い込んでしまうような青。
オールブルーだ。
ゾロはそう思った。
泥棒たちの捜す「オールブルー」の1つは盗まれた。
だが・・・、
オレの「オールブルー」はここにある。
誰にもやらねえ。
これだけは絶対に・・・。
オレだけのものだ。