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「だけどよう・・・、
ゾロのやつは腹巻を沢山もってやがるんだ・・・・」

ウソップは今朝急に購入された
大型の鍵付き冷蔵庫の向こうから聞こえてくる声に嫌になっていた。
何故か食材が全てなくなっていて、
サンジが買えと言ったらしい。
突然の注文にも、
そこはさすがロロノア家。
すぐさま上等そうな冷蔵庫がやってきた。

ウソップはその近くで、
ずうっと愚痴を聞かされていた。
サンジはかげにかくれて、
しゃべり続けている。
もともとサンジはかなり話好きだ。

ところがここのところサンジは「腹巻の呪い」とやらで、
人前に出られなくなったらしい。
理由はよく分からないが、
「ゾロのせい」らしい。

おかげでウソップはずっと愚痴を聞かされ続けていた。
 
 
 

今朝、
大量の血痕がシャワー室で発見された。
ゾロは警察は呼ばないと言ったので、
ヨサクとジョニーが後かたづけをした。
チョッパーにも訳が分からなかった。

ゾロかサンジがケガしたのでは・・・。
そう思いあわてて様子を見にいったが、
ゾロはどうもなかった。
サンジはキッチンでわめき散らしていて、
どう見ても元気そうだった。

ウソップはこそこそとあたりの様子をうかがい、
館の様子を見回した。
どこにもおかしなところはない。
誰か侵入者がいたのか?

キッチンからは大量の食材が消えているという。
食い物が消えた?
ウソップはそれを聞いて、
自分たちの盗賊団の長を思い浮かべた。

ルフィが来たのか?
サンジに昨夜のことを少し聞こうとして、
人目につかぬように冷蔵庫の影にかくれて話しかけた。

それが間違いのもとだった。
サンジはべらべらとしゃべりはじめた。
「久しぶりに話をする相手が鼻人間だとしても、
腹巻の国に住んでねえから、
許してやる」
そう前置きするとわけの分からないことを、
しゃべり続ける。
 
 
 
 

ちらちら覗き見えるところによると、
サンジはまたゾロの腹巻をしているようだった。
「ああああ、
オレは腹巻の国でしか生きれねえんだ!!!!
ああ、運命よ!!!
地に落ちた魂の行く末に天使が待っているのか!!
天使のようなおねえさまが!!!」

・・・。
ひどくなってやしねえか・・・。
ウソップはどんよりとした気持ちでサンジの言葉を聞いていた。
ウソップが嫌気がさしてそこから動こうとしたら、
カベを蹴破るほどの鋭いケリがくる。
サンジは蹴った後であわてて見えないところに隠れるのだが、
それでもちらちらと腹巻は見える。
というか、
見え見えなんだけど・・・。
「見たらオロすぞ、コラァ!!!」
 
 
 
 

見ただけで殺されるなんて・・・。
・・・あわわわわ、
こええ・・・、
こええよ・・・、
あぶねえって・・・、
サンジ・・・。
 
 
 
 

おどしておいてサンジがすることと言えば・・。
さんざんウソップに愚痴るだけだった。

命の危険すら感じながら聞かされることといえば、
「腹巻が盗まれた」
「ルフィが全部食い物を持って帰った」
ということをくどくど言うだけだ。

「だってよう。
腹巻してねえとヤられちまうんだ!!!!!」
そのうち明かされた、
日々の腹巻生活の謎に、
ウソップは心から脱力した。
毎日こそこそ誰にも会わず・・・、
自分から視界に入ってきては、
目の前にいる者を、
蹴りとばす・・・。
腹巻なんてどうでもいいだろ・・・。
そりゃだせえよ。
確かにだせえよ。
かっこわるいさ。
だからって、
違うでしょ−−−−−!!!!!

こいつらのせいでオレたち・・・、
いやオレがどんな目に合わされてきたことか!!!
痴話喧嘩だろ!!!!!
おまえらのラブラブの巻き添えくうのはごめんだ!!!!
 
 
 
 

「は・・・腹巻もいいかもしれねえよ・・・。
サンジ、
は・・・、腹巻があるといいかも知れねえぞ・・・」

言った途端に物凄い蹴りが来た。
ドカッ。

壁が丸く崩れ落ちた。

に・・・、
逃げるんだ・・・。
 

ウソップは倒れながらじりじりと後に動いていく。
サンジは倒れているウソップの側に立ちはだかった。
 
 
 
 
 

「てめえ、いつから腹巻の国の回し者になりやがった。
そんなにしたけりゃてめえがしろ!!!」
そう言うと、
自分のしていた腹巻をウソップに投げつけた。

ウソップはしくしく泣いていた。
・・・もう、いやだ。
こんな・・・。
この盗賊王にして人々に崇拝されるウソップ様が・・・、
なんでゾロの腹巻を・・・。

サンジは異様なオーラをただよわせている。
・・・こええ。

ウソップはやむなく、
ぬくぬくの腹巻をつけた。
 
 
 
 
 

「気分はどうだ?」
サンジが居丈高に問いかける。

・・・うううう。
ウソップはしくしく泣いていた。

「最悪だろ?」
サンジの言葉にウソップはうなずいた。

「最低だろ?」
ウソップはまたうなずいた。
たかだか腹巻をしただけなのに、
この敗北感はなんだ?

これが「腹巻の呪い」なのか・・。
なんともいえずうらぶれてみじめな気持ちになる。
そう・・・、
なんともいえず情けない気分になるのだ。

しくしく泣くウソップの目には同情の灯がともった。
それを見たサンジの目にも同意の灯がともる。
もはや二人に言葉は要らなかった。

・・・不憫なヤツ・・・。

言葉はなくても腹巻の妙なぬくもりが全てを語っていた。
二人の友情は腹巻によって深められたのである。
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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