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「被疑者が逃走したわ!!!
目立つ金髪をさがすのよ!!!
服装は特徴的な腹巻にオヤジシャツ!!!
ただし、絶対に傷をつけてはいけないわ!!!」
ヒナは小電伝虫を手にとり、
部下たちに指令を出した。
だが、返信がまったくない。

まさか・・・、
つきぬけた壁を通ると、
ものすごい数の男たちが倒れている。
あのコがやったの?
やはり、ただものじゃない。
だけど、私にはあのコがこの事件の被疑者だとは思えない。

「こちらは警察だ。
犯人は逃走した!!
善良な市民は全力をもって捕獲せよ!!
ただし、傷をつけてはならない。
くりかえす、犯人は逃走中である!!」
突如拡声器から、
館の外に大声での放送が行われた。

ヒナ警部は、
その時、
自分の知らないところで、
いろいろ手配されていることを初めて知った。
「犯人」ですって?
新しい証拠が何一つないというのに!!!
わたくしはあんな放送など許可していないわ。
なのに、あれは何なの?
どうして、あのコにだけ傷をつけてはいけないの?
なぜ非協力者は射殺してもよいという非公式命令まで出ているというのに、
あのコには傷一つつけてはいけないの?
おかしいわ。
疑問だわ、
ヒナ、疑問。

「ヒナ警部、警視総監がこちらに向かっているとの情報がありました!!」
ヒナは顔色を変えた。
これは、たかだか盗賊の逮捕にしかすぎないのだ。
この逮捕劇はそんな次元ではないはずよ。
どういうことなの?

連絡をうけてすぐ、
警視総監が部下もほとんど連れずに、
ゾロの館に乗り込んできた。
「どういうことだ、ヒナ警部。
クロコダイル警視監より至急ここに来るようにと連絡があった。
いったいこの騒ぎは何なのかね」
どういうことなの?
ヒナの顔に緊張の色が浮かんだ。
明らかに、これはおかしい。
クロコダイル警視監が、連絡を?
確かこの計画もクロコダイル警視監のものだったはず。
 
 
 

「館の内部に突入しろ!!!
抵抗するものは射殺してもよい!!!
くり返す、
こちらは警察である。
突入を許可する。
犯人は無傷でとらえねばならないが、
協力者は射殺してもよい!!!」

「バカな!!!」
警視総監は驚きの表情を浮かべた。
警察が民間人に殺人の許可など、
許されるものではない。

「犯人は金髪でくわえたばこの黒いスーツの男!!
その者だけは無傷でとらえろ!!!
くり返す、
犯人は無傷でとらえろ」

ヒナは放送を聞いて歯ぎしりした。
明らかに、
この場にいないもののしわざだ。
サンジはどんな時でも黒いスーツを着て、
たばこをふかしていた。
あらゆる状況でそうだったのだが、
今だけは違うのだ。
なぜかサンジはゾロとそろいの趣味の悪い腹巻姿なのだ。
それをあの放送者は知らない。

「あの放送はどこから流しているのだ!!!
ヒナ警部、止めさせろ!!」
警視総監がさけぶ間にも、
ガラの悪そうな民間人が、
どやどやと部屋に乱入してきた。
あちこちで銃声が聞こえはじめた。

「貴様ら、落ち着け!!!」
警視総監が躍起になって、
興奮した人々を押しとどめようとしている。

「お前、邪魔をするな!!!!
さては、盗賊一味か!!!」
険悪な雰囲気がその場にたちこめはじめた。
 
 
 
 

その時、
再び放送がはじまった。
「邪魔するものは武力を行使しろ!!
警察はそれを許可する!!」

いけない!!!
ヒナはこの策略の真意に気づいた。

ズガーーーーン。
銃声が響き、
立ちはだかっていた警視総監の身体がゆらりと傾いた。

くずれおちる身体に見向きもせずに、
凶悪な表情の男たちが、
わめきあい、
走りあっている。
 
 
 
 
 

クロコダイルはこれを狙っていたのだわ。
正義の代表である警視総監を、
正義を信じる愚かな民衆に殺させる。
自らは手を汚さずに、
警察をのっとり、
それからどうするつもりなの?

ヒナは緊急用のクロコダイル専用の電伝虫を取り出した。
しばらくコールしたあと、
冷静なクロコダイルの声が聞えてきた。

「クロコダイル警視監、
警視総監がお亡くなりになりました。
一般市民を煽動する放送がいまも行われ続けています」
ヒナは冷静に伝えた。

電伝虫の向こうからは、
かすかな笑いの波動が感じられる。
これで、
警察はクロコダイルの手中におちたも同然だ。
 
 
 

「よかろう。
問題ない。
ところで、ヒナ警部、
サンジはもうとらえたのだろうな」
クロコダイルは予定通りに事が進み、
勝ち誇った気分になっていた。
データによると妙に女に弱いサンジは
ヒナ警部の手で簡単に捕らえられるはずだ。

「申し訳ありません。
それが現在逃亡中なのです」

「何だと?」
あきらかに動揺する気配が電伝虫の向こうから伝わって来る。
ヒナは少し意外に思った。
警視総監殺害という目的は果たしたはず。
利用されたサンジという犯人がどうなろうと、
クロコダイルには関係がないはずよ。
おそらく、あの放送はクロコダイルのさしがね。
だったら、
今はサンジも射殺対象に入っているはずよ。
生きていようが、
死んでいようが、
どうでもいいことに違いないわ。

「クロコダイル警部、
現在被疑者サンジはあの放送とは異なる服を着ています。
ですから、武力行使の対象となっているはずですので、
現在の生死は確認できておりません」

「バカな!!!!!
ヤツに傷をつけるな!!!」
クロコダイルは信じられないような情報を聞いた。
電伝虫の向こうからは、
ヒナが冷静に情報を伝えている。

「現在は、ロロノア・ゾロがよく着ている、
趣味の悪いシャツに、
腹巻をしています」
ヒナの情報を聞いた瞬間、
クロコダイルの中で何かが切れ、
力まかせに小電伝虫を床にたたきつけた。
 
 
 
 
 

ミスタープリンス、
なんてナメたマネをしくさる!!!
貴様はバカの一つ覚えのように黒スーツとくわえタバコ姿だっただろうが!!!
この捕獲作戦の時に限って、
変装しやがるとは!!!!
まさか、このオレの作戦に気づき、
先手をうって変装したのか!!!
それも、美的感覚ゼロのあのロロノア・ゾロの腹巻姿とは!!!
さすがのこのオレでも想像もできなかった!!!

そんなにあの男に惚れてるのか!!!
許せん!!!
 
 
 
 
 

クロコダイルは自慢の毛皮を掴むと、
専属の運転手に行き先を告げた。
 
 
 

「ロロノア・ゾロの館へ急げ!!!
ミスター・プリンスを手に入れる!!!」
 
 
 
 
 
 
 


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