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ゾロの館は民間人・警察が入り乱れ、
大変な騒ぎになっていた。
あちこちで相手も定かでないまま銃撃戦まで行われている。
警察本部の発表で逮捕が奨励されたとあって、
恐ろしいほどの人々が押し寄せ続けていた。
サンジは泣きながら走り続けていた。
かなり走ったが、
不意に、つよく腕をひかれ、
暗がりに連れ込まれた。
「なんだっ、誰だっ、てめえ!!!」
「バカ、静かにしろ」
聞き覚えのある声がする。
「あ、てめえ、エースか?」
「よう、久しぶりだな」
緊張感のないあいさつが交わされ、
サンジは黙りこんだ。
すぐ近くでは、
ものすごい人々の騒ぎ声や、
銃声がひっきりなしに続いている。
「盛り上がってるねえ」
「なんだよ、コレ。
一体何の騒ぎなんだ?」
サンジは不思議に思い、エースに尋ねた。
そういや、なんか人が多いし、
野郎どもは銃なんかもってたし、
美人のお姉さまはいたし、
いつものゾロんちと違うよな。
「ああ、警察が緊急指令を出したのさ。
犯人を逮捕や協力したものには褒美なんかが出て、
犯人逮捕を妨害するものは、射殺をも許可するってな」
「へえ・・・、
そりゃまた、
すげえ、指令だな。
緊急事件じゃねえか・・・」
間の抜けたサンジの答えに、
エースはため息をついた。
「あ、ところで、その犯人って誰だ?
なんならオレも協力しようかな」
サンジの言葉に、
エースは無言になった。
「なあ、誰だよ。
教えろよ」
「てめえだ、サンジ」
エースの言葉にサンジはぽかんと口をあけた。
「あァ?
そりゃまた、何の罪で?
・・・・。
そうだ、どこかのレディがオレを愛し過ぎたからだろ?
愛とは罪なものだからな」
サンジがしゃべり終わらないうちに、
ほほに手をのばされ、
エースにきつく口づけられた。
「てててて、てめえ、何しやがるんだ!!!!」
「愛とは罪なものだろう、
愛の名のもとに、
てめえはオレと逃げるのさ」
エースはそう言うとニヤリと笑った。
サンジはちょっとドキリとした。
ななな、なにクソはずかしいこと言ってんだよ。
って、なに動揺してんだよ、オレ。
「だけど、変装したな、サンジ。
まさか、ゾロの格好してるとは、誰一人想像できねえだろうよ。
ちっと悪めだちしてるけどよ・・・」
エースがいい終わらないうちに、
サンジはいきなり壁の後ろに隠れようとした。
「何だ・・・、
どうしたんだ?」
「腹巻の国に住んでるなんてバレたら、
オレはもう陽の当たるところには出れねえんだ!!!」
エースは意味がわからず、
首をひねった。
「べつにいいじゃねえか・・・」
エースの言葉に、
サンジはおずおずと顔を出した。
「本当か?
腹巻してても「ヒト」と認めてくれんのか?」
???
はァ?
腹巻しているやつは「ヒト」じゃないのか?
サンジは恐ろしいものを見た目つきで、
エースをまじまじと見た。
「てめえ・・・、
まさか・・・・。
そうなのか・・・、
いや・・・、
そんなはずは・・・。
でも、人は見かけによらねえっていうし・・・、
・・・そうだよな、
てめえ腹巻マニアだな。
・・・そうか、
なら今度、ゾロの腹巻ひとつやるよ」
エースはサンジの言葉に激しく脱力した。
警察の緊急放送を聞いて、
エースはあわててゾロの館にかけつけてきた。
来たときは既に多くの人が入りこみ、
騒然とした状態だった。
あちこちで死傷者が出ているようだった。
サンジはどうなっているのか?
あいつは強いはずだから、大丈夫のはずだ。
そうは思ったが、気になって必死に捜した。
それで、やっと見つけたときには、
ものすごく安心した。
・・・なのに、
自分もいいかげん緊張感はないほうだが、
この騒ぎの張本人が気にしているのは「腹巻」のことなのだ。
すでにこの地で、殺戮や略奪すら行われているので、
結構緊張してサンジを捜し出したのに、
本人のこの状態はいったいなんだ?
しかも、オレに「ゾロの腹巻」をくれるだと?
いちおう、ライバル状態のはずなんだけどよ・・・。
「サンジ、お前の腹巻はないのか?」
エースは心の底からがっかりしながら、
一応、疑問に思ったことを聞いてみた。
「う・・・、
オレのはねえんだ・・・。
ゾロのしか・・・。
でも、ゾロいっぱい持ってるからよ。
全部ミドリでこれとおんなじやつだから、
ひとつくらいなくなっても気にしねえよ・・・。
こっそりかっぱらってやるから、
気にすんな。
・・・わけあって、
この腹巻はやれねえんだけどよ・・・」
エースはどんよりした気分で聞いていた。
・・・なんでかっぱらうんだ?
そんな趣味の悪いミドリの腹巻してるヤツなんて、
世界広しといえども、
ロロノア・ゾロ以外に見た事ねえ。
欲しいはず、ねえだろ・・・・。
気づけよ!!!!
オレの欲しいのは腹巻じゃなくて、
その中身だってことを!!!!!