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スモーカーは閉ざされた部屋で精神を統一していた。
軟禁状態になってから、かなりたつ。
世間の情報は一切シャットアウトされ、
どこで何が起きているのかも分からない。

ふざけるな。
このままで済ませるわけはねえ。
監視の連中は毎日きちんと仕事を続けている。
そりゃあそうだ。
オレが仕込んだ部下たちだから、
スキをみせるわけはねえ。

今動くのは得策ではねえ。
かならず、チャンスはやってくる。
スモーカーはいらいらしつつ、
葉巻きを立て続けにふかし続けていた。
 
 
 
 

ボン・クレーは、
警備を続ける元スモーカーの部下たちが、
律儀にスモーカーを見張っている現場に到着した。
「ガーッハッハッ、
スモーカーの見張りごくろうさん!!!!
出番よっっっ!!!!
ケムリ男はここから出て、
愛するプリンスちゃんを助けに行く、白馬の王子さまになるのようっっっっ!!!!
愛の力は偉大なのようっっっ、
オラア、
お前らどくのようっっっ!!!!」
勝手にしゃべり、
有無を言わさず、ボン・クレーは警官たちをばたばたと倒していく。

「ちっ、この扉は面倒よねい・・・、
クラァァァァ!!!!!!!」
ボン・クレーは渾身のケリを放ち、
ものすごい轟音とともに、
分厚い扉が倒された。
 
 
 
 

部屋の中からは、
恐ろしいほどの煙が立ちこめて来て、
崩れ落ちた瓦礫の下から、
不機嫌そうな男が這いだしてきた。
 

「・・・ボン・クレー・・・貴様か・・・」
スモーカーは突然破壊された部屋と、
倒された部下を見て顔をしかめた。
 
 
 
 

「大変なのようっっっ、
スモーカーの助けを待っている囚われの姫を取り戻すのようっっっ」
くるくると周りながら言うボン・クレーに、
意味の分からないスモーカーは反応しない。

「あのコが大変な事になっていて、
あんたの助けを求めているのようっっっ!!!!
そう、あのあんたのお気にいりの金髪ちゃんようっっっ。
ロロノア・ゾロの館では大変なことになっているのようっっっ!!!」

「何だと?」
あの金髪とは・・・、
サンジか?

閉じ込められてからのスモーカーは、手持ちのデータを分析することしかできなかった。
くり返し見た、サンジの画像。
普通の画像もあるが、
そうでないものもある。
最近はあまり見ていると妙な気分になってくるので、
見るのを止めていた。
捜査員に私情が入ると、正当な捜査はできない。
あくまで第三者の立場をとり、
冷静に分析しなければならない。

しかし、あの金髪がアヒルに似ていると思ったあたりから、
妙に調子が狂うのだ。
バカでうるさいから、
食われるのは当たり前だ、とか思ったり、
隙だらけだからって、
食うのはいけねえだろ、とか思ったり。
押さえつけたら、
暴れるけど、すぐ食えると思ったり。

考えることはたくさんあるはずなのに、
なぜだか、そういうことを考えてしまう。
それは「オールブルー事件」には関係ないことだ。
「クロコダイルの国取り」にも関係ないことだ。

今は宝石泥棒うんぬんを追っている事態ではない。
市民全ての自由を奪おうとしているクロコダイルをなんとかしねえと。
すでに警察権力はほぼ奴の手中に落ちててるだろう。
このままではあの男にこの国が支配されてしまう。
容赦のない独裁者によって、
人々は不幸になる。
それも、
元警察関係の男にだ。

ふざけるな。
「正義」ってのは、
人のためにあるんじゃねえのか。
たとえそれが、
上司であろうと、
権力者であろうと関係ねえ。
オレはオレの「正義」のもとに戦う。
 
 
 

「0ちゃんも、ロロノア・ゾロの所に行ってるらしいわようっ!!!
情報では警視総監が殉職したらしいのようっ!!!」
ボン・クレーは険しい表情のスモーカーとともに、
ロロノア・ゾロの館へ急行した。

スモーカーが行く事で、
確実に捜査を撹乱できるわようっっっ。
とにかくプリンスちゃんを見つけて、
0ちゃんに引きわたさないとねいっっっ。

スモーカーはサンジを保護するわようっ、絶対に。
だって、あのコが犯人とは思ってないみたいなのよねい。
だけど、0ちゃんが再調査した結果によると、
本当に「麦わらの一味」であるという可能性もあったのよねい。
そう、あまりにもデータがなかった。
それは、まるでロロノア・ゾロの所に急にあらわれたような存在で、
それ以前のことについてはほとんど分からない。
何かあやしいのよねい。
直接、オールブルー盗難に手を下していないのは間違いないけれど、
「一味の一人」であるかもしれないのよねい。
だったら、逮捕は正当かもしれないのに、
スモーカー警部ともあろうものが、
プリンスちゃんの色香に迷わされているようよねい。
そりゃあ、0ちゃんが気に入るコだから、
エロいのよねい。

スモーカーが仕事をとるか、
サンジをとるか、
それはあちしには関係ないこと。

あちしはあちしの道を往く。
それがオカマ道(ウェイ)というものよ。
 
 
 
 
 

スモーカーとボン・クレーがゾロの館に近づこうとしたが、
そこはもう恐ろしいほどの人であふれ、
騒然としていた。
大音量で放送が続けられている。
「希代の大悪党、サンジを無傷でとらえたものには、
3階級特進の栄誉が与えられる。
一般人の協力者に関しても褒賞が与えられる」

スモーカーは舌打ちをした。
褒賞だと?
階級特進だと?
サンジが希代の大悪党だと?
ふざけるな。
捕らえて喜ぶのは、真の悪党のクロコダイルだけだ。

この捕り物劇で、
警視総監が殉職しただと?
殺されたのだ。
間違いねえ。

この事件を機に、
クロコダイルが全てを掌握する。
なんとしてでも阻止せねば。

それでこその「正義」じゃねえのか!!!!
 
 
 
 
 

「 犯人は逃走した!!
      善良な市民は全力をもって捕獲せよ!!
     ただし、傷をつけてはならない。
明らかにできない重大な理由によって傷をつけてはならない。
くりかえす、犯人は逃走中である!!

抵抗するものは射殺してもよい!!!!
  犯人は無傷でとらえねばならないが、
協力者は射殺してもよい!!!」

・・・・大変なことになってるわよねい。
さすがのボン・クレーも事の大きさに驚いていた。
まるでここは戦場だった。
殺気だった男たちであふれ、
あちこちで銃声が響いている。

0ちゃんは、
警視総監をここで潰したのねい。
そして、プリンスちゃんを手にいれるつもりよねい。
明らかにできない重大な理由って・・・、
キズつけずに捕まえて、
いろいろするためよねいっっ、
0ちゃんたらご執心よねいっっっ!!!
だけど、サンジは逃げてるのよねい。
まだ、捕獲されてないのなら、
チャンスよねい!!!!
ガーッハッハッハッ、
あちしの出番ようっっっっ!!!!!
 
 
 
 
 
 

人込みをかき分け、
どつき、おどし、
スモーカーとボン・クレーはじりじりとゾロの館に向かって進んでいた。
いつもなら、ボン・クレーの異形やスモーカーの強面に、
人はおそれあとずさるのだが、
それにも気づかないくらい人々は興奮していた。
 

「犯人サンジは変装して逃亡中!!!!
特徴的な緑色の腹巻をしている!!!!
くり返す、
犯人は金髪に特徴的な緑の腹巻をして逃走中。
傷をつけぬように捕獲すること!!!」
 

くり返される逮捕奨励の放送の中、
小さな音で緊急に放送された内容に、
スモーカーはを耳をとめた。
ボン・クレーも聞えにくいその放送に気づいた。
他の放送は同じことをくり返し言っているようだったが、
それだけは内容が違っていた。
 

 
 

腹巻?
 
 
 
 

なぜ腹巻?
 
 
 
 

スモーカーとボン・クレーは思わず顔を見合わせた。
 
 
 
 
 
 
 


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