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「あっちだ!!!!」
男たちはものすごい勢いで犯人のいる場所へ押し寄せていた。
ギンはふらふらした足をひきずりながら、
人をかき分けて、
捜す相手を見つけた。
いた!!!!
サンジさんだ!!!
ああ、久しぶりに見たサンジさん!!!
「どきやがれクラァ!!!!」
サンジは容赦ないケリを浴びせつつ、
走っていた。
うっとりとしばらくサンジの様子をながめていたギンは、
サンジの前に立ちはだかった。
「サンジさんはオレが守る!!!!」
宣言した瞬間、
脳天に鋭いケリを入れられた。
「邪魔だ!!!!
誰だてめえ!!!!
どきやがれ!!!!」
サンジは吐き捨てるようにいうと、
ギンを振り返りもせずに走り去っていった。
・・・・そんな・・・、
サンジさん!!!!
ああでも、サンジさんに蹴られて本望です!!!
再びどくどくと血を流し、
ギンはばったりと倒れた。
だが、倒れるギンを顧みるものなど誰もいない。
さすがに人数は減ったものの、
相変わらず大勢の男たちがサンジの行方を追っていた。
スモーカーは人の流れから、
犯人が走りながら逃げていることに気づいた。
サンジが通ったあとは、
蹴られた男たちがごろごろ転がっていたり、
通り道にした壁がぶちぬかれていたりしたので、
すぐに分かった。
すぐ前方で何人もの悲鳴が聞えている。
見ると案の定、
サンジが暴れ回っていた。
アヒルキックか?
スモーカーの『飼っていた』やつも、
すぐにケリを入れてきた。
ガキの頃から、アヒルの捕獲は慣れている。
スモーカーはサンジの黄色い頭の方にまわりこむと、
背後からとびかかり、
すばやくサンジを捕獲した。
「うおっ!!!!
誰だてめえ!!!!」
サンジはいきなり背後から誰かに抱き上げられ、
小脇に抱えられた。
動転して手足をばたつかせるが、
そいつはビクともしない。
何だよコレ!!!
こういうこと・・・確か、前にもあったよな・・・。
おそるおそる、その相手を見上げると、
恐ろしく不機嫌そうなスモーカーがサンジを見下ろしていた。
「さすが、スモーカーよねいっ!!!
あちし達はプリンスちゃんを捕まえたのよねい!!!!」
ボン・クレーがくるくると踊りながらその場にあらわれた。
「邪魔者には眠ってもらうのようっっっ!!!!」
気分を悪くしてばたばた倒れる者たちを横目にみながら、ボン・クレーは踊り続けた。
スモーカーは踊るボン・クレーをいまいましそうに見たが、
視線をサンジに落とした。
こいつが追われてるってのを聞いて、
つい捕獲しちまったが、
どうすりゃいいんだ?
問題はクロコダイルのはずだろ。
ちっ、なんでコイツをまず捕まえちまったんだ。
スモーカーは葉巻きの煙を大量にもくもくと吐き出した。
くそっ、なんで捕まえちまったんだか・・・。
そう思いながらも、
サンジを捕獲したままで、
大股に部屋を出た。
ナミはやっと人ごみをかきわけ、
おびただしく倒れる人々と、
スモーカー警部に捕まっているサンジを見た。
「サンジ君!!!!」
事態は異常なことになっていて、
どうやらこの館にクロコダイルも来ているらしい。
つかまったら、どうなるか分からない。
ナミの声にサンジとスモーカーが振り返った。
「ナミさぁぁぁああああああああああん!!!!!
お会いしたかったあああああ!!!!
久しぶりの貴女はなんて美しいんだぁぁぁあああ!!!!」
いきなり身をよじって、
叫びだすサンジにスモーカーも沈黙した。
・・・・。
・・サンジ君・・・、
思ったより元気だわ・・・。
ナミは脱力しながらも、
すこし安心した。
「あああああ!!!!
でも、もうオレは駄目なんですっっ!!!!
オレを見てはいけません!!!!
美しい貴女の目に邪な毒が移るかもしれません。
恋の炎は燃え盛っているというのに!!!」
見るなといわれたら、
見てしまうものである。
ナミはじっとサンジを見た。
スモーカーもじっとサンジを見た。
・・・あんまり変わってねえな。
確かに、服が違うな。
腹巻をしている。
捜査を撹乱さすために、
ゾロの服を着て逃げているのか?
でも、こいつ、
ちょいエロくさくなったか・・・。
そりゃオレの考えすぎか・・・。
いかん、いかん、
こいつでそっち方面のことを考えるのはよくねえ!!!
スモーカーは激しく煙を吐き出した。
ナミは汗を流していた。
まわりにはおびただしい数の人が倒れている。
目の前には、サンジを捕まえているスモーカー警部。
手強い相手だわ。
見えない奥の部屋の中からは、
「オカマ道(ウェイ)」とかいう歌詞がひっきりなしに聞えてくる。
おそらくボン・クレー警部。
いや、Mr.2。
こいつも一筋縄ではいかない。
どうしたらいいのよ・・・。
って、一体ルフィはどこにいるのよ!!!
このさい、ウソップでもいいわよ。
何してるのよ、もう!!!
まったく役に立たないんだから!!!!!
屋敷の中は人であふれていたが、
喧噪とは裏腹に、
人が近寄らない場所もあった。
人の気配のしない厨房からはガリガリという音がしていたが、
誰もそれに気づかなかった。
「うおーーー、
うめえ!!!
これもうめえ!!!!」
ルフィはさっきからひっきりなしに食い物を食っていた。
サンジが作りかけていた食い物は終わり、
すでにターゲットは棚や倉庫に移っていた。
手を加えてないものでも、
サンジの選んだものは特にうまい。
最近サンジの料理を食べてないから、なおさら食いたい。
ルフィは新しい缶に手を伸ばした。
すると誰かの手と重なった。
???
見ると、目の前にルフィと同じようにしゃがみこんで厨房の食い物を食っている男がいた。
黒髪にそばかす、特徴的な帽子をかぶっている。
「あ、こりゃ、どうも。
オレの名はエース。
どっかで会ったか?」
エースはそう言って缶詰をあけた。
「・・・いや・・・、
でもはじめて会ったって気がしねえんだけど・・・。
ししし、オレの名はモンキー・D・ルフィ」
ルフィは別の缶を手にとった。
「その帽子、
麦わら盗賊団か?」
エースは次の缶詰を手にとった。
「おう!!!!
よろしくな!!!!」
ルフィも次の缶詰を手にとった。
彼らの会話は食い物がなくなるまで続けられた。