81

 
 
 
 
 
 

「こっちに逃げれば、外に出られるはずだ」
エースの案内で、ルフィとサンジは迷路のような通路を走り続けた。

エースは自分の記憶をたよりに、
ゾロの館を走り抜けた。
この家には、ゾロも知らない仕掛けがたくさんある。
妙な通路があったり、防犯装置があったり。
それは、恐らく・・・。

長時間走り続け、
見つけた目ざす出口の前に、
見覚えのある男たちが立っていた。

つばの広い帽子に黒剣の男と、
スーツ姿に冷酷そうなメガネの男。

「貴様が麦わら盗賊団のモンキー・D・ルフィだな。
オールブルーを返してもらおう」
 そう言うと、ミホークが剣を抜いた。

「我々がロロノア家の宝を貴様にやるとでも思ったのか?」
クロも手に5本の剣をつけていた。

エースは眉をひそめた。
まずいな。
ゾロの後見役が本気になったようだ。
彼らに狙われて無事に済むはずがない。
彼らの目的は、「ロロノア家」を守る事なのだ。
ついに能在る鷹が爪を見せる時が来たのだ。
知る人ぞ知る、大剣豪ミホーク。
その強さを知っている者で生きているのは、恐らくロロノア・ゾロただ一人。
かつてミホークに勝負を挑み、敗れた。
恐らく世界最強の剣士、ミホーク。
そして、百計のクロ。
 
 
 

ずっと動かなかった彼らは、何を待っていたのだ?
 
 
 
 

「オイ、ルフィ、オールブルーなんか知らないよな?」
あわてて言うサンジの言葉を、
ルフィはあっさり否定した。
「あ、持ってる。これだろ?」

ポケットから無造作に取り出された青い宝石は、
きらきらと美しく輝いていた。

ミホークとクロの目がきらりと輝いた。
 
 
 

「なあ、もう一つここにあるって本当か?」
ルフィがあっさりと聞いた。

堂々としたルフィの態度に、ミホークは目を細めた。
この度胸、賞賛に価する。
「・・・本当だ」

「ししし、ならそれもいただかないとな」
ルフィは笑った。

「ゾロの寝室にあるのだよ」
クロが無表情に答えた。

おそらく、罠だ。
罠は、「ここ」にあるのか、「そこ」にあるのか?
おそらく両方だ。
「ここ」にも「そこ」にも罠が張られている。
そうエースは確信した。

「盗ってくる。
サンジは逃げとけ」
ルフィはそう言うと、あわてて部屋を出ていった。
 
 
 
 
 

「バカな・・・、ゾロの寝室には何も・・・」
驚くサンジに、クロは冷たい笑顔を向けた。

「お前がゾロに抱かれるしか能がなくて助かった。
オールブルーは本当に、そこにあるのだよ。
木は森に隠せというではないか」
クロはじりじりとサンジとの間合いをつめてきた。

「エース、関係のない者はどいてくれないか?
それとも、お前が責任を持ってゾロの手からこの男を遠ざけるか?」
ミホークも冷淡に告げた。
 
 
 

こいつらは、サンジを消す気だ。
この男たちが出した結論に変更はないだろう。
エースはどうすべきか迷っていた。

二人を敵に戦うのは、しんどい。
なら、ゾロからこいつをひき離し、自分のモノにするか?
それも、可能だ。

このまま放っておいたら、ゾロの手に入っちまうだろう。
だが、ここでこの二人に渡すのもしゃくにさわる。
 

「エース、君はこの男が欲しいのだろう?」
クロが誘惑に満ちた言葉をささやく。
そう、自分なら、サンジを自分だけのものにしておくことができる。
だが、このまま攫っていったら、何かすっきりしないのだ。
攫いたいのだが、後味が悪い気がする。

サンジはゾロのもので、最初からちっとも自分を見ていない。
手に入りそうにもないし、分の悪い賭けだ。
でも、側にいると楽しい。
戯れに愛を囁いた相手なら、ごまんといる。
その時は楽しいのだが、情熱はやがて醒めていく。
しかし、サンジは今までの相手とは、どこか違っていた。
はじめから、エースの相手をしているという自覚がまったくない。
放っておけないし、
何かちょっかいを出したくなってしまう。
ゾロのものなのに。
こいつはゾロに心も身体も許しているのに、
自分では全く気づいてない。

ゾロのことが好きなのに、文句ばかり言っている。
認めないだろうが、ゾロのことばかり言っている。
それだけ、ゾロのことしか考えてないということだ。

だからオレの手に入らないかもしれない、
そう思わせる、初めての相手。
なのに、手を出すのもやめられない。

やめとくのが利口だ。
だが、やめられないのだ。

しようがねえな。
こういうのはオレ向きではないんだがな。
エースはため息をついて、臨戦体制をとった。

まいった。
どうして、戦うのか自分でもよく分からねえ。
命をかけてでないと、ミホークやクロとは戦えない。
なのに、手に入らない相手のために、どうして戦うのか?
けれど、絶対にこいつらには渡せない。
 
 
 
 

エースは振り返ると、サンジに言った。
 
 
 
 

「サンジ、お前はその出口から真直ぐ逃げろ」
 
 
 
 

サンジは驚いた。
ミホークとクロの雰囲気は尋常ではない。
ずっとこの二人がサンジを好ましくないと思っていることは知っていた。
そのうえ麦わらの一味と知っていて、見のがしてもらえるような男たちではない。

以前、ゾロから寝物語でミホークとの戦いの話やクロの杓死のことについて聞かされた。
そんな男たちと戦って、エースが無事でいられるわけはない。
自分が戦ったら、恐らく勝ち目はない。
こうなったら、ルフィのために時間を稼ぐしかない。
サンジはそう思っていた。
 
 
 

クロとミホークの怒りは自分に向けられている。
なのに、どうしてエースが戦うのだ?
 
 
 

エースの背中からは、張りつめた厳しい空気が漂って来る。
いつもの優しくつかみどころのないエースとは違っていた。
初めて見た、エースの顔だった。
猛々しく強い戦いの顔。
 
 

「エース!!!!」
サンジは叫んだ。
エースの覚悟は分かった。
命を賭けた戦いであるということも。
 
 
 

「サンジ、どうやらお前に本気みたいだ」
エースの言葉に、サンジは泣きそうになった。
優しいエース。
自分はそれに甘えてきた。
触れて来た手や肌の意味を、気づかないふりをしてきた。
それが楽だったから。

愛の意味を考えると、
サンジはいつも同じところに突き当たってしまうから。
本当に欲する相手は誰なのか?
抱きしめて欲しいのは誰なのか?

どんなに、ごまかしても、逃げようとしても、
答えはいつも決まっていた。

レディに捧げる美しい愛とは違う、
どろどろして生々しい感情と肉体。

つらくて、
苦しくて、
それでも、その相手のことを考えると胸がいっぱいで、
じっとしていたり黙っていたりすることが出来なくなった。
 
 
 
 
 

エースから、命をかけた男の決意をもらった。
それは重く深い想いだ。
もう適当にごまかしたり、
見て見ぬふりをすることはできない。
 
 
 

サンジはくちびるを噛みしめて、
出口に向かって走り始めた。
 
 
 
 
 
 


next

伝説の秘宝オールブルー

ura-top