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クロコダイルは血だらけで倒れたスモーカーとロロノア・ゾロを無表情に眺めた。

自らの義手で制裁をくわえたため、
クロコダイル自身も返り血を浴びて、壮絶な姿になっていた。

ともになかなかの腕前だったが、
所詮は己の敵ではない。
自分こそが、この世を支配し人々の上に君臨する男なのだ。

いい加減に止めておけばいいものを、
バカな男たちだ。
だが、こやつらは生かしておけぬ。
我がモノに手をつけたのだからな。
狙った獲物は逃がさぬ。
こやつらを仕留めたら、
Mr.プリンスは我が手中におさめる。

都合のいいことに、
警視総監も死んでくれた。
クハハハハ。
面白いようにことは進んでくれる。
これで警察権力は獲得した。
 
 
 
 

「死ね!!!!」
クロコダイルはスモーカーにとどめの一撃をくり出した。
スモーカーの身体は大きく仰け反り、
声もなく地面に叩き付けられた。

それから、憎悪に満ちた目で、
ロロノア・ゾロにもとどめを刺そうとした。

その時、
目の前を何か黄色いものがよぎった。
クロコダイルが認識するより早く、
ソレはクロコダイルの義手にとびついて来た。

何だ?
ええい、じゃまだ!!!!
クロコダイルは怒りにまかせ、
ソレを地面に叩き付けようとした。

しかし、その寸前でソレが何なのかに気づいた。
金の髪?
Mr.プリンスじゃねえか!!!!!!!
 
 
 

泣きながら腕にしがみついている姿はなかなかそそる。
クロコダイルからは凶悪な殺意が薄れ、
意識はサンジのほうに向けられた。
 
 
 

サンジは必死でクロコダイルにしがみついていたが、
腕のひと振りで、
床にたたきつけられ、
ひどい傷をうけるのは、
誰が見ても明らかだった。

とりかこむ警官たちは、
息を飲んだ。
なんという無礼な!!!!
・・・あの金髪、サー・クロコダイルに殺される!!!!
あのクロコダイルに勝手に触れるなど・・・、
なぶり殺しだ!!!!

かつてクロコダイルの『制裁』を目の当たりにしたことのある警官たちは、
身体を震わせた。
残虐で冷酷な司令官。
それがクロコダイルだ。
逆らうものには死しかない。
 
 
 
 

サンジは無我夢中でクロコダイルの手にしがみついていた。
走ってきたら、
目の前でスモーカーが殺された。
きっと、死んだ。

次はゾロだと思ったとたん、
身体が勝手に動いていた。
 

アホまりも!!!!
殺されるんじゃねえ!!!!
死ぬんじゃねえ!!!!
 
 
 
 

クロコダイルは振り上げた手をどうすべきか考えていた。
「飛んで火に入る夏の虫」というイースト・ブルーの諺が脳裏に浮かんだ。
目的物のほうから自分の手の中に入ってきたのだ。
とりあえず、これで目的は果たしたことになる。

長居は無用だ。
ここでは、くだらぬ時間を潰し過ぎた。
早くMr.プリンスを連れて帰り、
お楽しみの時を過ごすのも悪かねえ。
 
 
 
 
 

サンジは急にがっちりと身体を抱きとめられ、
手足をバタバタと動かした。
だが、クロコダイルにとってもしつけのなってないアヒルくらいにしか見えないので、
雑作もなく抱きかかえられていた。
 
 
 

「サンジぃぃいいいいい!!!!!!」
ウソップは泣きながら名前を呼んだ。
バババ、バカじゃねえのか!!!!
なんでここに来るんだよ!!!
おめえを逃がすために、
スモーカーとゾロは命をかけたっていうのに!!!
どうして来るんだよ!!!
サンジ、おまえも命をかけたのか?
命をかけて、
ゾロを助けに?
バカだ・・・、
バカだよ・・・てめえら!!!!
 
 
 
 
 

「任務は完了した。
被疑者捕獲。
今から3分後に反抗分子ごと、この館をZ弾にて爆破しろ」
クロコダイルの言葉に
特殊工作班の者たちは顔色を変えた。

Z弾はこの建物すら痕跡も残さず破壊できるほどの威力のある爆弾だ。
我々が全速力で退去しても、
ぎりぎり爆発を避難できるかどうかという時間しかない。
何の予告もなく、
3分後に爆発をさせたら、
間違い無くここに集まる一般市民は皆殺しだ。
 
 
 

だが、命令には逆らえない。
工作員が青ざめた顔で、
爆弾の起動装置にスイッチを入れた。
おそらく、3分では、
同胞にすら情報は伝わらない。
警官の多くは、
何が起きたか分からないままに、
爆発にのまれてしまう。

それが分かっていながら、自分はスイッチを押す。
それが指令だからだ。
指令を全うするのが自分の任務だからだ。
 
 
 

時限装置の針が動き始めたのを確認し、
クロコダイルは暴れるサンジをものともせず、
きびすをかえした。

3分か。
退却には十分な時間だ。
消えていい部隊には、
あらかじめ退去命令が届かないようにしてある。
ここで、余計なものは削除するというわけだ。
ここでいらぬことを見聞した市民たちは、
ここで消滅する。
証拠が無ければ、
何ごともなかったということだ。
いらぬ証拠は消す。
必要な証拠は作る。
それで万事がうまくいく。
 
 
 
 
 

去ろうとするクロコダイルの足に、
誰かの手が触れた。
 
 
 
 

「・・・まて・・・、
てめえ・・・・、
ソレは・・・オレの・・・もんだ・・・」
ロロノア・ゾロが強い瞳でクロコダイルを見上げていた。

身体はもうほとんど動かないようだし、
息も上がっている。
目をあけるのもやっとという感じだが、
それでもその心意気だけは伝わってくる。
 
 
 

「・・・てめえは・・・オレのもんだ・・・」

ゾロはサンジを見て、
途切れ途切れに、そう言った。
もう息をするのも苦しい。

クロコダイルは強かった。
自分は全力で戦った。
それで負けた。
だから、悔いはねえ。
悔いはねえはずだ。
自分は負けたのだから、負けを認めねえといけねえ。

けどよ、負けても、どうしても認められねえ。
勝負に勝ったものが、
負けたものを好きにしてもしょうがねえ。
命をとられるのはしょうがねえ。
けど、目の前のアホをとられるのはダメだ。
どうしてもダメだ。

強さこそすべて。
それがオレの信念だ。
弱いものが何かに執着するなど、許されぬことだ。
なのに、オレはサンジに執着している。

クロコダイルが悪党だからか?
クロコダイルが極悪非道なやつだからか?
そんなやつには渡せねえってか。

それもある。
だが、それだけじゃねえ。

オレはサンジを誰にも盗られたくねえ。
エースにも、
スモーカーにも、
ルフィにも。
どこかの女にも。

勝ちを捨てても、
サンジは捨てられない。
オレにはこいつが要るんだ。

だから、まだ負けられねえ。
戦いに敗れても、
気持ちだけは最後まで戦うんだ。
 
 
 
 

クロコダイルは目以外は死んでいるゾロを眺めると、
酷薄な冷笑を浮かべた。
それから、自分を睨み続けるゾロの顔面に鋭い蹴りを入れた。
それから、何発か怒りに任せて力まかせに蹴った。

ゾロの身体のどこかでごきりとイヤな音がした。

・・・死んだか?
 
 
 
 

サンジはクロコダイルに抱えられたまま、
ゾロが動かなくなっていくのを見た。

・・・そんな・・・、
死んじまったのか?
うそだろ・・・。

「はなせよ、チクショウ!!!!!」
力の限り暴れるが、
拘束はまったくゆるみもしない。

クロコダイルは面倒くさそうに、
サンジの腹に当て身をくらわせた。

ぐったりしたサンジを抱えたまま、
クロコダイルはゾロの館から、
全速力で撤退した。
 
 
 
 

もうこの館は必要無い。

無用なものは、
無に返してやればいい。

時限装置は刻々と動いていた。
爆発がせまっていた。
 
 
 
 
 
 
 


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