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サンジが目覚めてまず目にしたのは、
人の絵の描いてある天井だった。
金色に輝くぐるぐるした模様がふちにはほどこされている。

その絵はどうやら、天使とか女神とか、そういう類いの絵のようだった。
 
 
 
 

「この天井画はこの国の最高傑作だ」

耳なれない声がして、サンジはあわてて飛び起きた。
そして、自分の状態に気づき、あぜんとした。

そこはどうやら広いベッドのようなものの上で、
サンジが身につけているのは真っ白な毛皮のコート一つだった。

・・・ななな、何だ・・・コレ・・・。
ていうか腹巻はどこだ?
ゾロの腹巻がねえ!!!!!!!
って違うだろ!!
他の服もねえだろよ・・・。
ハダカじゃねえかよ!!!!
しかも、これ・・・床にしちゃやけにでかくねえ。
なんちゅうか、ズバリ、キングサイズのベッドでは?
はははははははは、
オレ、目がおかしくなったか?

目の前には、憎きクロコダイル。
サンジはゾロの館であったことを思い出し、
クロコダイルを睨みつけた。

こいつは、敵だ。
 
 

クロコダイルはサンジの様子をじっと見てから、
ニヤリと笑って言った。

「サンジ、お前は麦わら盗賊団の一味だ。
窃盗および国家反逆罪により、死刑。

モンキー・D・ルフィ、ウソップ、ナミは窃盗および国家反逆罪、死刑。
ロロノア・ゾロ、国家反逆罪、および警視総監への冒涜行為により、死刑。
ポートガス・D・エース、国家反逆罪および罪人幇助により、死刑。
ああ、トナカイも仲間だったか?
その他、国家および警視総監であるオレに逆らうものと、
極悪犯罪人であるお前らを助けるものはすべて死刑だ。
我々は全力をあげて任務を遂行する」

サンジは青ざめた顔でじっとクロコダイルを見た。
 
 

「ただし、死刑を一人だけで済ます方法がある。
一人で罪をつぐなうのだ」

数多くの命と、たった一人の犠牲。
このサンジに自分を選べるはずがねえ。
自分のことより、人のことを気にかける甘い男だ。
そういうやつを意のままに動かすのは簡単だ。
他の人間の命を盾にして脅すと、
こういうタイプの男は膝を屈する。
クロコダイルは心の中でほくそえんだ。
聞くまでもなく、結果は分かっている。

この男を手に入れるためには、思いのほか手間がかかった。
生意気でムカつく男だが、
そういうやつこそ蹂躙しがいがあるというものだ。
このミスター・プリンスはどれだけオレを楽しませてくれるのか?

サンジはあたりに目を泳がせた。
明らかに、ここはクロコダイルの私室のようだ。
天井とよく似た模様が壁中に描かれている。
豪華絢爛で贅の限りをつくした部屋だった。
 
 

返事をしないサンジに、
クロコダイルは片手をあげて合図をした。

扉が開かれ、
拘束された美女があらわれた。
 
 

アルビダおねえさま?
だが、サンジは美女を目の前にしてハートを飛ばしたり、美辞麗句を言ったりできる状態ではなかった。

アルビダは無言できつい目をしてサンジを睨みつけていた。
部屋の空気がぴんと張り詰める。
 
 
 

「Miss.99、処刑前に、言い残す事はないか?」

クロコダイルは尊大に言った。
アルビダは息を飲んだ。
バロックワークにおいて、任務失敗は死しかない。
そしてアルビダは任務遂行に失敗したのだ。
すべてはこのサンジのせいだ。

ゾロをサンジにとられてしまった。
それがアルビダの人生を狂わすきっかけになった。

富豪でいい男のゾロにアルビダは惚れていた。
けれど最初から、ゾロはアルビダのものではなかった。
それはアルビダも知っていたけれど、
ゾロは誰のものにもならなかった。
アルビダに勝てる女はいなかったからだ。
女は敵ではなかった。
敵は別のところにいたのだ。

サンジは、いつの間にかゾロの館に入りこみ、ゾロの心を盗んだ。
だから、憎いのはこのサンジだ。
このコックさえ、ゾロのところに来なかったら、こんなことにはならなかった。
ゾロはアルビダのものであり続けたのだ。

「ふん、ゾロはお前なんか好きじゃないよ。
ゾロが本当に好きなのはアタシさ」

サンジは青ざめた顔でアルビダの方を見ていた。
いい気味だ。
うんと傷つくといい。
あんたはゾロに愛されてるから、私はあんたが憎い。
ゾロが本気であんたを愛しているから、憎い。

あんたも私と同じ、クロコダイルの使い捨ての駒になればいい。
うんと傷ついて、ボロボロになればいい。
 
 
 

「この女は任務に失敗した。
だから、ここで処刑しよう」
クロコダイルは懐から銃を取り出し、
冷酷に構えた。
 

「止めろ!!!!」
サンジはあわててベッドから降りて、クロコダイルにかけよろうとした。

「近づくと、この女を撃つ」
クロコダイルの銃口はアルビダにぴったりと向けられていた。

「お前は今からバロックワークスのものになるのだ。
コードネームはミスター・プリンス。
どんな任務でも絶対服従。
反抗は死。
任務失敗は死。
お前がイエスと言えば、
この女も助けてやろう」

サンジは真っ青な顔をして銃口を向けられているアルビダを見た。
どんなことをしても、助けなければ。
ルフィたちも助かる?
ゾロは生きているのか?
ナミさんは?

アルビダは青ざめた顔のまま立っていた。
クロコダイルは撃つ気はない。
ここは誰も足を踏み入れることができない、
クロコダイルのお気にいりの寝室だ。
アルビダを消そうとするなら、
先ほどまで閉じ込められていた薄汚れた牢の中で充分だ。
それを、わざわざ連れてきて・・・。

アタシなんかのために、
このコがイエスと言うと思ってるの?
アタシはサンジを憎んでるというのに・・・。
 
 
 

サンジはうつむいて考えていたが、
選択肢などどこにもなかった。

オレさえ言う事を聞けばいいんだ。

バロックワークスなんて、なんの興味もねえ。
入ったら・・・、
もうあいつらとはお別れだ。
ルフィたちと、もう盗みをすることもねえだろう。
ゾロと、もうエロいことすることもねえだろう。

・・・わりぃな、ゾロ。
てめえの腹巻、なくなっちまったみてえだ。
 

「・・・イエス・・・」

サンジの言葉に、
アルビダはにぎった拳に力を入れた。

バカだね、あんた。
私なんかのために・・・。
私を助けようとするなんて、
本当にバカだね。
私はあんたが嫌いなのに・・・。
 
 

「サーだ」
クロコダイルは満足げにうなずくと、
また手をふった。

その手の一振りで、静かに部下が入って来て、
唐突に連れられてきたアルビダは、
唐突に連れ出されて行った。
 
 
 
 

「それでは、ミスター・プリンス、貴様に最初の任務を教えてやる」

サンジは大柄な男が近づいてくるのを茫然とながめていた。
この後に起きることを考えると、
身体が震えた。
けれど、言われることをするしかない。
一瞬、脳裏にゾロの姿が浮かんだ。

忘れるんだ。
もう、あいつのことは。
あいつが生きてりゃ、それでいいんだ。
こんなことなんて、
どうってことねえ。
 
 
 
 

クロコダイルはくちびるを噛みしめて震えるサンジの側まで来ると、
わざと時間をかけて、
サンジの身体をベッドに横たえた。

屈辱に耐える姿はなかなかそそられる。
この男は、じっくりと楽しめそうだ。
「返事は?」
    
 

サンジはぎゅっと目をつぶった。
それから震えながらも、服従を誓った。
アルビダおねえさまの無事を、
ルフィの無事を、
ナミさんの無事を、
ウソップの無事を、
チョッパーの無事を、
エースの無事を、
そしてロロノア・ゾロの無事を祈った。

ごめんな、ゾロ。
悲しくて泣きそうになったけれど、
サンジは言った。
 
 
 
 

「イエス・サー」
 
 
 
 


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