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ゾロとサンジは早足で歩いていた。
お互いに抜きつ抜かれつである。
サンジは脚力には自信があった。
負けるはずはない。
だから、ゾロと競り合うように歩き続けた。
しかし、延々歩いているうちに、
ふとある事実に気づいた。
あのエースのうちとやらに行く時は車だったから気づかなかったが・・・。
・・・道、合ってんのか?
サンジはこの辺の地理には疎い。
つい意地になって歩いていたが、
もう空が白みかけている。
いくらなんでも着いてるころだろ、これは。
急にピタリと立ち止まったサンジを見て、
ゾロはニヤリと笑った。
・・・オレの勝ちだな。
バテやがったか。
サンジはもの凄く不機嫌そうだ。
ま、そりゃそうだな。
負け犬じゃあな。
「オイ・・・ここドコだ!!!」
「あァ?」
ゾロは言われて始めて、
何かが違うことに気づいた。
・・・こっちの山で合ってたはずだが・・・。
「ほれ、池の向こうに見える山はあれだろがよ」
目の前の山を指さすと、
サンジは微妙に震えながら、
後方の山を指さして言った。
「アレじゃねえのか・・・ソレ」
ん?
ゾロは山の形をじっと見た。
微妙に違う気もする。
「そういやあ、あっちか」
ゾロが答えると同時にキレたサンジの鋭い蹴りが襲ってくる。
「アホかあああああああ!!!!
なんでここまで反対にこれるんだ!!!!!!!!
てめえ、生まれと育ちを言ってみろ!!!」
「・・・ココだ・・」
サンジは怒りを通り越して、
脱力感を覚えた。
第一、「池」じゃなくて「湖」だよ、アレは。
でけえだろ。
かなりでけえだろ。
気づかねえのか。
・・・気づくだろ、そんくらい。
「・・・方向音痴世界一決定戦があったら、てめえ・・・圧勝だよな」
嫌味のつもりでいったのだが、
ゾロは「そうか」とあっさりうなずいた。
・・信じられねえ。
この辺は人っこ一人いやしねえ・・・。
・・また帰るんかよ。
なんでこんなヤツがターゲットなんだよ。
黙っていられない性格のサンジはつい余計なことを言ってしまう。
「なんてアホなんだ、てめえは!!!
おかげで余計に歩かねえといけねえ!!!」
「なんだ、疲れたのか?」
ゾロに勝ち誇ったように言われると無性に腹がたった。
「あんだと、コラ!!
オレのボディはスポーツカー並みの高性能だ!!
てめえこそ、筋肉が多すぎて疲れてんじゃねえのか!!!」
「ならここから勝負だ!!!」
「てめえになんか負けるか、クソマリモヘッド!!」
「なんだと、素敵マユゲが!!!」
またしてもいがみ合いながら、
ゾロとサンジは歩き続けた。
結局、二人が屋敷に着いたのは昼になっていた。
・・・うえ、疲れたな。
クソ、昼じゃねえか。
・・・しょうがねえな・・・。
サンジは重い身体を引きずってキッチンに立った。
・・・クソ、
何時間歩いてたんだ、オレは。
ゾロも少し疲れていた。
・・・それより、腹減ったな。
・・・メシ・・・。
つい習慣で食堂の方へ向かう。
そちらからはいいニオイがしていた。
・・・あのクソコック、
ちゃんと料理してるのか。
最後の方はよろよろしてたクセによ。
寝てねえのも、
何も食ってねえのも同じだからな。
しばらくぼうっと立っていると、
サンジが皿を持って顔を見せた。
「待ってろ。もうすぐだからよ」
ゾロが椅子に座るとすぐに料理が運ばれてきた。
・・・皿が多い。
いつもの事だが、
短時間なのに、
色々な料理が並んでいる。
・・・うめえ。
一口食って、
ゾロは初めてそう思った。
そう思い始めると何から何までうまかった。
やわらけえし、
汁は多いし、
味も違う。
ゾロは知らなかったが、
サンジはだんだんゾロ好みの味付けも覚えてきていた。
直接本人に聞くようなのは素人だ。
食っている様子を観察して見抜くのがプロだ。
だから、
食事の時は余計なことをベラベラ喋っているようであったが、
ちゃんとプロとしての観察もしていたのだ。
ゾロが食い終わっても、
いつも無駄口をたたくコックの姿が見えない。
ゾロが食っている時は、
対面の椅子にふんぞり返って座り、
無意味なことを常に喋っているのに。
何してやがるんだ・・・。
気になってゾロはサンジがいつもそっちから来る方へと歩いていった。
それまでゾロは厨房に入ったことはなかった。
それらしい場所を覗くと、
意味不明の道具とか調味料、食材がずらりとならんでいた。
素人のゾロにでも分かる手入れされた厨房だった。
その角のほうにサンジはしゃがみこんでいた。
様子を伺うと、
寝ているようだった。
・・・やっぱり疲れていやがったのか。
歩いていた時の勝ち誇ったような感情は湧かなかった。
・・・。
クソ意地はりやがって。
・・・てめえ、作っただけで、
メシ食ってねえだろよ。
ゾロには馴染みのない、
なんだか分からない感情が胸をつく。
ゾロはどうしていいか分からなくなって、
その場に立っていた。
サンジは疲れているのだろう。
壁にもたれ掛かったまま、
熟睡しているようだった。
・・・。
なんだか、
落ちつかねえ。
なんでだ?
分からねえ時は、
修業だ。
剣の稽古でもするか。
・・・こいつはどうする。
ここには、
誰にも来ねえ・・・。
このまま、
寝かしておくか。
ゾロはそのまま厨房を出た。
そして、愛用の剣を手にした。
同じ日常、
同じ修業。
変わらぬ日々。