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あらゆる権力を掌握され、
国はクロコダイルの独裁状態となっていた。
何も知らない人々は、
ひたひたと押しよせる分からない不安にとまどいつつも、
クロコダイルを大歓声で受け入れた。

人々は熱狂し、崇拝した。
争って一目でも国の英雄の姿を見ようとし、
クロコダイルの行く先々では大変な騒ぎが起きた。
 
 
 

「警察本部へ」
クロコダイルの短い指令に、
警官たちの間には一斉に緊張が走る。
警官たちはすでに、
粛正が行なわれつつあることを感じていた。
クロコダイルの批判をしていた者は、
確実に行方不明になっている。
疑いを持つ者も同じだ。

こんなことは間違っている。
けれども、従うしかないのだ。
今を生きるためには、
服従するしかないのだ。
 
 

「死体を見せろ」
霊安室に足を踏み入れたクロコダイルは尊大に言い、
警備の者はばったのようにお辞儀をくり返した。

「保存状態が悪いので、
ごらんになっても・・・」
検死医がおそるおそる声をかけた。

「見せろ」
クロコダイルは目の前に引き出されてきた『人であったもの』をじっと見た。
それはただの焼けこげた塊にしかすぎなかった。

「・・・その、健康な男だったようで、歯形の照合もできませんでした。
かなり焼けていますし、
日がたっているため腐敗も始まっていました。
しかし、特徴的な刀による傷痕と、
耳についていた金属物により、
これはロロノア・ゾロに間違いないと、
後見人のミホークも認めました。
これがそのサインです。
ごらんになりますか?」
クロコダイルは黒い塊を無表情に一瞥した。

「いいだろう。
記者を呼んで世間に発表させろ。
ロロノア・ゾロの死体発見。
これでますます麦わら盗賊団への憎しみは深まる」
クロコダイルは暗い笑みを浮かべた。
今となっては、麦わらの一味など、どうでもいいことだ。
ロロノア・ゾロの資産についてもどうにでもなるものだ。
だが、あの男は死んでいた。
邪魔な若造はこの世から消えた。
このオレがとらえてなぶり殺しにしてやろうと思っていたのに、運のいいやつだ。

お前のかわいがった相手はもうこのクロコダイルのものだ。
これからもMr.プリンスとして生きていくのだ。
もうお前には用はない。
 
 
 
 
 

サンジはぼんやりと鉢に植えた緑色の葉を眺めていた。
この部屋に軟禁されてから、
どのくらいたっているのか、
サンジにはさっぱり分からなかった。

クロコダイルはいつも気まぐれにやってきて、
サンジを抱くとすぐに姿を消した。

悪い夢を見てると思えばいい。
本当は全然日にちなんかたっちゃいねえんだ。

そう言いきかせてきたけれど、
目の前の鉢に植えられたレタスはこんもりと丸くなり、
大きく育っていた。
一週間や十日ではこれほどは育たない。

・・・ああ、ってことはそんだけ日がたったんだよな。
 
 
 
 

クロコダイルはサンジが欲しいというものを準備してくれたけれど、
決して外には出してくれない。
情報を遮断されたこの部屋で、
サンジはひたすら本を読んだ。
料理の本であるならば、読むのを許されたからだ。

ページをめくると嫌なことは忘れられた。
楽しい料理の数々がのっている。
なのに、見ていると、つい思ってしまうのだ。

・・・これって、つまみにいいよな。
こっちは米を使った、あいつの好きそうな食い物だ。
  
 
 

作ってやりてえな。
 
 
 

そう思ってから、はっと我に返るのだ。

道をたがえてしまったその男のことを考えても、
もうどうにもならないのに。
自分は、クロコダイルの性欲を満たすためだけに生かされているというのに。
 
 
 
 

突如扉が開かれ、クロコダイルが現れた。
いつになく上機嫌で、
最上級の酒を手にしていた。

「プリンス、酒をつげ」
命じられてサンジはあわててグラスを準備した。

クロコダイルは酒の入ったグラスをうけとると一気に飲み干した。
そして新しく酒をつがせると、
サンジの身体をひきよせた。
クロコダイルが含んだ酒を口づけて流し込まれ、
サンジはむせた。
 
 
 

「プリンス、お前には特別に教えてやろう。
ロロノア・ゾロの死体が今日、館の地下から発見された」
 
 

え、何?
いま、なんて言った?
 
 

サンジはいつものように肌をあらわにされ、
組み敷かれながら、
クロコダイルの言葉を反芻した。

ぼんやりした頭は正常には働かない。
 
 

ゾロが・・・・、
ゾロが何だって?

死体?
地下から・・・?
 

うそだうそだうそだうそだうそだ。
 
 
 
 

「プリンス、お前にはもう関係のない話だ。
もうお前はオレのものだからな」
クロコダイルに激しく貫かれ、
サンジは悲鳴をあげた。
慣れた身体はクロコダイルを受け入れ、
快楽を感じていたけれど、
心は真っ暗だった。

目を開けていても、
どうしてだかぼろぼろと涙が出た。
悲しかった。
胸の奥にずっしりと石がつめられたようだ。
心がずきずきと痛む。
どんな身体の傷より、痛い。

「どうした?
気を散らすな」
ひときわ強く穿たれてサンジは唇を噛み締めた。
 
 
 
 

これは、罰。
 
 

きっとオレは望んではいけないことを望んでしまったんだ。
クロコダイルが他の男のことを考えるなと言ったのに、
オレはどうしてだかゾロのことばっかり考えてた。
 
 
 

やがて、サンジの意識が闇に吸い込まれ、
身体はぐったりと弛緩した。
 
 
 

クロコダイルはサンジの意識がないことに気づき、
いまいましげに力が抜けた身体を手放した。

意識がないのに抱いてもつまらん。

ゾロが死んだと聞いて、
泣いたか。

許せん。
 
 

お前はオレだけを見ていればいいのだ。
 
 
 
 
 


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