94

 
 
 
 

「ロロノア・ゾロ遺体発見」
そのニュースは新聞の片隅に小さくとりあげられただけだった。

大富豪ロロノア・ゾロが死んでも、世界は何1つかわらなかった。
人々はゾロの資産がどうなるか、
伝説の宝石の持ち主が誰になるのか、
そればかりを口にした。
縁とおい金持ちが一人この世を去ったからといって、
誰も何とも思わなかった。
ゾロは金持ちとして生まれただけで恵まれていたから、
こうなっても仕方がないのだ。
あの事件の時に、サー・クロコダイルがいなければ、
被害はもっと広がっていたらしい。
我々はやっと安心して頼ることのできる支配者を得たのだ。
クロコダイル万歳!!!
何も知らない民衆はクロコダイルを讃え続けていた。
 
 
 
 
 

「プリンス、もう食事は終わったのかい?」
アルビダはクロコダイルがこちらに向かっているという知らせを受け、
あわててサンジの様子を見にあらわれた。

アルビダも、自分が歪んだ時間と空間の中を生きていることを知っていた。
サンジの世話をするだけの退屈な日々。
一度は死を覚悟したアルビダだったが、
今の状況を楽しむことはできなかった。
生命の危機こそ感じられないけれど、
一時も心休まることはない。
 
 
 

サンジも時間の感覚が狂っているようで、
おやつ時間にあたる今頃、
昼食をとり終わったところだった。

・・・また、あれっぽっちしか食べてない。
 
 
 

「サーが十分後にお見えだよ」
サンジは顔を上げてアルビダを見た。

すばやく膳が下げられ、
サンジは無言で立ち上がった。
身体を清めるため、
特別に増設された浴室に姿を消した。
そのいくぶん細くなった後ろ姿をアルビダは見送った。

サンジはゾロの事を全く口にしない。
けれど、ゾロの死が伝えられた日から、
サンジは変わった。

クロコダイルに対しては従順になり、
媚びた仕草さえみせるようになった。
ゾロが死んだことで、自らの心も投げ出してしまったのか?
すべてクロコダイルの望みどおりになってしまったようだ。
素直で従順な抱き人形。

「準備できました」
サンジは妖しい微笑みをたたえて、部屋に戻って来た。
いままでアルビダが見た事もない顔だ。
決して笑顔を見せなかったサンジはうすく微笑み、
クロコダイルから与えられた金糸で模様のつけられた薄布を見にまとっていた。
アルビダは扇情的なその姿を正視できず、目を反らした。

どうしてアタシがこんな気持ちにならなけりゃいけないんだい。
このコはこれでいいんだ。
ゾロが死んでしまった今、
クロコダイルに身も心も捧げるのが一番いい。
このコがサーに気に入られれば、アタシの命も安泰だ。
最近のサーは上機嫌だ。
こんな昼間から、情事の時間をつくりだすほどにプリンスに入れこんでいる。
クロコダイルには何も手に入らないものはないんだ。

ゾロはクロコダイルに殺された。
なのにアタシは何もできずに、
このコの世話を続けているだけだ。

逆らう者には死。
もう愛する相手も、憎む相手もいない。
このコを憎んでも、もう意味はない。
ゾロはどんな気持ちで死んでいったのか、
アタシには分かる。
きっと、このコのことを考えたに違いない。
私の愛したゾロなら、きっとそうする。
 
 
 

「アルビダおねえさま?」
声をかけられて、
アルビダは自分が涙を流していることに気づいた。

ゾロが死んだと聞いた時に出なかった涙なのに、
どうしてだか目の前のサンジを見ていると溢れてしまう。
 
 
 

「サーがいらっしゃいました!!」
報告の声と同時にクロコダイルが部屋の中に入って来た。

アルビダはあわてて、
控えの間の方に立ち去った。
 
 
 
 

おねえさまが泣いていた?
なんでだ?
サンジはアルビダを追いかけて声をかけたかったが、
ぐっとこらえた。

もし追いかけてそんなことをしたら、
クロコダイルは何をするか分からない。
自分が折檻されるのならまだしも、
おねえさまの身に何かあったら大変だ。

サンジはもうそれを身にしみて知っていた。
 
 
 

「お待ちしていました」
いつの間にか覚えた媚びた笑顔を見せると、
クロコダイルは満足げにうなずいた。

サンジは自分がどんな表情をして、
どんな痴態を見せているか知らなかった。
でも、サンジが笑うとクロコダイルの目が満足げに光り、
自分から進んで奉仕し、足を開くと、
あまりひどいことをされないことに気づいた。
そうやってクロコダイルの意に添うようにしていると、
ごくわずかだが望んだことをしてくれるのだ。
 
 
 

「いい子だ」
クロコダイルはすり寄るサンジを子猫や子犬のようになでた。
プリンスは日に日に満足できるものへと変化している。
下品さや泥臭さが影をひそめ、
毛並みや仕草がよくなった。
なかなかに飲み込みがはやく、
一度しつけると、きちんとそれを守る。
平気なふりをしているが苦痛は嫌いで、
快楽には弱い。
 

くだらぬ執務や茶番の面会などより、
こやつをヤるのが面白い。
この後は民衆へのパレードが待っている。
くだらん愚行だが、
あいつらを欺くには必要な行為だ。
時間があれば、
もっと丁寧にヤれるんだが、
やむをえん。
 
 
 
 

サンジはあっという間にクロコダイルに押し倒され、
慣らしもせずに貫かれた。
「うああああっっ」
何度も犯されているにもかかわらず侵入を拒む身体に、
灼熱の楔がうちこまれ、
思わず悲鳴を上げた。

クロコダイルは眉をひそめると、
ベッドの側に置かれた見事な装飾のガラス瓶を手にした。
中味のどろどろした液体を接合部にたっぷりとたらすと、
ゆっくりと抜き差しを始めた。

「うっ・・・んんんっっっ」
そのうちにサンジの声に明らかな艶があらわれ、
かたく閉じていた目はうっすらと開かれた。

サンジはとろんとした表情でクロコダイルを見つめた。
身体がふわっと軽くなり、
笑い出したいような気分になった。
繋がった部分からは、
じんじんするような痺れと熱が伝わって来た。
「ククク、どうだこの薬は?」
クロコダイルが笑うと、
かすかな震えが繋がった部分から広がり、
快楽が増幅された。

「お前、料理が作りたいとか言っていたな。
だから、来てやったぞ。
貴重なアフタヌーン・ティーの時間を割いてな。
お前の作った料理などには、オレは興味はない。
ただし、この身体だけは、食いごたえがある」

クロコダイルはサンジの身体をがっちりと押さえると、
わざとゆっくりと耳元で囁いた。
サンジの身体が屈辱にぶるぶると震えるのを感じて、
笑い声を上げた。

まだ抵抗するか。
抗う者から、奪えるものは全て奪う。
手に入れるのに苦労したぶん、
その充実感や快楽は増すのだ。
「クククク、プリンス、お前はオレを楽しませてくれる」

嫌がっていても、もう逃れられない。
快楽を知った身体は、
簡単に腕の中で跳ねる。

荒々しく突き上げて精を放つと、
クロコダイルはサンジの身体をあっさりと手放した。
 
 

快楽の余韻を残しながら、
くずれおちる白い身体をちらりと眺めると、
クロコダイルはゆっくりと部屋を出た。
 
 
 
 

「サー、急いでください!!!
待ち切れぬ民衆が騒ぎ出しております!!!!」
側近が顔色を変えて、
クロコダイルに近寄ってきた。

まったく動じる様子のない独裁者を、
側近たちは急いで民衆の前に連れ出した。

クロコダイルが姿を見せると、
群集からは大歓声が上がった。
 
 

ククク、
愚かな民衆どもが。
こやつらを欺くのはいかに簡単なことか。
わかりやすい敵を見せてやれば、
それにとびつき、
かかわりもないのに憎悪する。
そして、この無条件の賞賛はどうだ。
真実のなんたるかも知らぬくせに。
 
 
 
 

クロコダイルを乗せた豪華な馬車は、
ゆっくりと町に走りだしていく。
「サー・クロコダイル万歳!!!!!」
民たちは口々に叫び、
クロコダイルを讃えた。
 
 

その姿が去った後でも、
人々の歓声と興奮はいつまでも残された。
 
 
 
 
 
 
 


next

伝説の秘宝オールブルー

ura-top