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まぶしい光を感じて、
サンジはゆっくりと目を開けた。

目を開けると、
すっかり見なれた豪華な天井が目に入った。
金色で細かく装飾された芸術品。
それは、いかにも支配者にふさわしい部屋だ。

天井に描かれた女神や天使たち。
それらは、言葉もなく存在し、
サンジの生活をただ見守っている。

サンジはぼんやりと天使たちを見つめた。
やわらかい衣をまとい天に浮かぶ神々。
サンジもそれに似たいでたちであったけれど、
裸体を隠す意志さえもう失われ、
汚れた身体もそのままに、
まばたきさえせず、
天井を眺めつづけた。

羞恥心など、とうに捨てた。
これが現実だ。
時のない世界で、
気まぐれに訪れるクロコダイルに抱かれる。
今の自分はそれだけの存在だ。

この部屋ですごすようになってから、
どれだけの日が経ったのか。

ゾロがいなくなったと聞かされてから、
どれだけの時が経ったのか。

分からねえ。
もう、どうでもいいじゃねえかって思うのに、
どうしても忘れられねえ。

あんなまりもマンのことなんて、
どうでもいい。
なのに、許せねえんだ。
てめえが死んだのは、オレのせいか?

サンジは首をぶんぶんと振ると、
ふらふらと立ち上がった。
何かしなくては。
動いていたら気が紛れる。

サンジは常に準備されている湯舟にその身を浸した。
湯がざあざあと溢れ出したが、
かまわずに深く身体をしずめた。
つねにサンジのために準備され続けているものの数々。
最初は罪悪感を感じたことが、今はもうなんともない。

暖かい湯につかってはじめて、
サンジは自分の身体が冷えきっていたことに気づいた。

クロコダイルの残滓が身体の中から消えてゆけばゆくほど、
サンジは自分の汚れに気づく。

自分は屈辱的な行為の中に、
いつの間にか、快楽を追い求めている。
あの男に「おねだり」する時は、
本当にせっぱつまって欲しくてたまらない状態になっている。
浅ましく腰を振って、
クロコダイルを受け入れている。

なんのために?

信じているからだ。
ナミさんは、生きているって。
ルフィやウソップやチョッパーは生きているって。

オレがいいコにしていれば、
あいつらは生かされるって、
クロコダイルは言った。

オレはあの男の望み通りしてるよな?

サンジはうつむいて、ぎゅっと唇をかみしめた。
 
 
 
 

「いつまで入っている気だ?」

もうすっかり馴染んだ尊大な声に、
サンジはあわてて顔を上げた。
 
 

正装をしたクロコダイルが目に冷酷な光をたたえて立っていた。

この男は敵。
この敵をたおさない限り、サンジは身動きがとれない。

動かないサンジに、
クロコダイルはいらついた。
 
 
 

手にしていたサンジが欲した書物の数々を乱暴に床に投げ捨てた。
 
 
 

サンジはうっすらと笑みを浮かべると、
浴槽から立ち上がり、
極上のガウンを羽織ると、
湯のしたたるのもかまわずにクロコダイルの前に立った。

毒を食らわば皿まで。
クロコダイルは不思議と身体中の血がたぎった。

Mr.プリンスのすべてを手に入れているはずなのに、
どうしてもその実感が湧かない。

どこまで手にいれて、
どこまで手にいれてないのか。
こやつから奪えるものは全て奪った。
なのに、まだ奪いたりない。
もうこの男が差し出せるものは何もないというのに、
何かが足りない。
 
 

クロコダイルは、
濡れたままのサンジを引き寄せた。

サンジの深く青い目が、かすかに揺れ、
ゆっくりと瞳が伏せられていく。
 
 

濡れた金の髪からは、
しずくがしたたり、
ゆっくりとサンジの身体をすべり落ちていった。
 
 

「服が・・・」
サンジから落ちる水滴が、
クロコダイルの豪華な装飾の服に染み込んだ。

「構わん」

サンジは目を閉じた。

オレは大丈夫だ。
オレは平気だ。
オレは負けねえ。

けれど、どんなに決意をしても、
クロコダイルに支配されると、
声が出てしまう。

「うあっっっ」
本人より、その身体を知り尽くしているクロコダイルは、
簡単にサンジに声を上げさせることができた。

激しく動き、
自らの欲を解放させると、
クロコダイルは素早く部屋を出ていった。
 
 
 

残されたサンジはしばらく床に倒れていたが、
のろのろと起き上がった。

これはオレが処理しねえと。
アルビダおねえさまが来る前にキレイにしとかねえと。

・・・その前に、
ちょっと眠りてえ。
・・・すぐ起きるから、
ちょっとだけ。
 
 
 
 
 
 
 
 


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