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「聞いたか?
沿道で過ってサーに水をかけた貧しい少年をおとがめにならなかったそうだ」
「なんという広い心の持ち主だ!!!」

クロコダイルの人気は日ごとに高くなっていた。
この国を治め、平和をもたらすことができるのは
サー・クロコダイルしかいない。

民衆は熱狂的にクロコダイルを支持していた。
 

「サー、民衆はあなたを支配者に望んでおります」

クロコダイルはすべてを意のままにすることができるようになっていた。

全てを手にいれた。
ククククク。
兇悪な笑みを浮かべたその顔は、
見るものの背筋を寒くさせるようなものだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

サンジはのろのろと身体を起こし、
 あたりを見回した。
 

  見慣れた豪華な天蓋とベッド。
身体に残る陵辱のあと。

ここではまるで時が止まってしまったようだ。

 いまが朝なのか、
昼なのか、
夜なのかも分からない。

この前、クロコダイルに抱かれたのは、いつだったのか。
ついさっきのような気もするし、
 昨日だったかもしれない。

 少し動くと身体の中からクロコダイルの精が溢れだし、
金糸で刺繍をしたシーツに染み込んでいった。
サンジはそれを見ても、
もう何も感じなかった。

羞恥も、罪悪感も、とうに捨ててしまった。
ちっぽけな矜持ももうない。
自分は人としてここに在るのではないのだ。
クロコダイルの淫欲処理の道具にすぎない。
 
 
 
 

サンジはあたりに誰もいないことを確かめて、
そっと本をとりだした。
黒い表紙のその本は、
    ある日ここに置かれていた。

囚人や奴隷への性的拷問や調教の仕方、
限界までの快楽の引き出し方などについて
詳しく述べられている記述の最後に、
それは書かれていた。

「死に至らせる場合」
   そこには毒によるゆるやかな死と、
一瞬にして死にいたらせる方法や、
 爆薬の作り方などの方法も書かれていた。

サンジはその中の一部分をまばたきもせずに見つめていた。
 
 
追記・注意事項
「娼妓による暗殺の記録」
 陵辱・虐待されている娼妓のとった暗殺方法について
 
 
 
 
 
 

止まってしまった時の中で、
サンジはもう遠く離れてしまった仲間たちのことを懐かしく思い出した。

       ごめんな、ルフィ。
ごめんな、ナミさん。
ごめんな、チョッパー。
 ごめんな、ウソップ。

ごめんな、ゾロ。
オレはもうだめみてえだ。
 
 
 
 
 

今から自分がやろうということが、
どんなことかは分かっている。
成功したらナミさんたちが救われるという保証なんてどこにもねえ。
アルビダおねえさまにも迷惑がかかる。
 
 
 
 
何をしようとしているかは分かっている。
 
 
 
 
だけど、
 死んだ心のままで生きるのはもうまっぴらだ。

最後だけでも夢を見たい。
自分の愛するものを信じていたい。
可能性はあるんだ。
希望を捨てた時が、負ける時だ。
そうだろう、クソ剣士。

てめえが先にあっち側にいっちまったのなら、
そこにいくのも悪かねえ。
 
 
 

サンジは静かに目を閉じた。

もう、涙は出なかった。
 
 
 
 


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